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[完結]破滅する推しの義妹に転生したので、悪役令嬢になって助けたいと思います。  作者: ru
第一章 銀縁眼鏡の悪役

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17.王子に気を使われる



「おはようございます、アルフレッド様」

「おはよう、マグノリア」


 作戦は続行中である。今日も、アルフレッドに朝のあいさつに来た。

 最近は、カイルの指導のもと、なるべく落ち着いてしゃべることを気を付けつつ、どこかしらにエメラルドを入れてさりげないアピールをしつつ、聞き上手のコミュニケーションを心掛けている。


 手作りお菓子は、何度か作ってみたが、カイルが良しと言わないためまだ渡していない。

 同じレシピでなぜ違う味になるのか、どうしても納得いかないらしい。


 私からすれば、誤差の範囲内だと思うのだが。あとクオリティが上がるほど、手作りお菓子の素朴な感じがどんどん失われていくのだが。

 私はカイルとお菓子作りすること自体が楽しいので、別にいいかな、という気になっている。


 慣れとは怖いもので、最初は黒ずくめの格好に白いエプロンをしただけで眩しくて直視できなかったが、最近は色々な表情を観察できるようになった。

 最近カイルは少し、表情豊かになった気がする。前のようなとってつけたような笑顔をあまり見なくなった。


「……今日も、元気だね」

「昨日は魔導技術発表会に参加されたとお聞きしましたわ。どのようなものがありましたの?」


 最近、カイルのプロデュースが功を奏しているのか、おはようにプラス一言、追加された。


 そこから会話を試みる。話題は最近のアルフレッド自身の話に絞り、イエス・ノーで答えられないようにオープンクエスチョンで始めろと言われている。


 毎朝馬車の中で、今日の話題の作戦会議をするのが日課になった。

 話題も尽きない楽しい登校……ではなく、朝礼とミーティングである。なお、下校時は本日の報告を求められる。


 ふふふ……これを、管理されている快感に昇華できてこそのオタクである。


「昨日は……魔力を道具に通しておくことで、条件で発動する機構の発表が興味深かったな」

「そうなのですか! 自動で扉が開くとか、そういうイメージかしら」

「ああ、そういうのもできそうだね、昨日のは人が通るとランプが点灯するという物だった。仕組みも単純だし便利だし、すぐに広まるのではないかな」

「それはすごいですね。楽しみだわ」


 声の掛け方、話題の選び方、質問の仕方。


 パターンを覚えれば良い、というのがカイルの話だった。確かに、アルフレッドと会話が持つようになった。


 カイル相手に会話のロープレをやらされているが、カイルのほうが難しいことを言うので、アルフレッドと話す方が最近は楽だな、と思っている。


 こんなテクニック的な話でいいのだろうか……と不満な気持ちもあるが、プランを立てて実行し、チェックしてアクションを起こす……PDCAを回すことで成果が目に見えて上がる。これはちょっと楽しい。だが、ファンタジーが消失している。


 ……仕事ができて厳しい上司のもとに配属され、成長を実感している新人の気分だ。

 王子は完全に取引先である。


 ビジネスものではなく、ファンタジーに転生したはずだ……


「では、ご機嫌よう。今日も良い1日を」

「あ、待って」


 少しお話して、場を辞そうとしたとき(あまり長居しない、というのも作戦の一つだ)、アルフレッドに呼び止められた。


「あのさ、私と仲良くするようにと、カイルに指示されているのだろう?」

「……いいえ?」


 正面から嘘つくのは苦手だ。少し間が空いてしまった。カイルに睨まれるやつだ。


「いいよ、わかっているから。カイルとは長い付き合いだし」


 アルフレッドは手招きして、椅子をすすめる。机を挟んで向かい合う。

 この部屋で座らせてもらったのは初めてだ。


「もし私が君に夢中にでもなれば、次期ノワール公にはとても都合が良い。さすがに分かる」


 ふぅ、と、アルフレッドはため息をついて見せた。そしてすこし、皮肉げな笑顔で言った。


「少し前まで、あまり君も乗り気でなさそうだったから、形だけの結婚で良いのだろうと思っていたのだけど……最近、見ていられなくてね……」


 アルフレッドは言葉を探しながら、結局直球でこう言った。


「だって、君はカイルの事が、……好き、なのだろう? その気持ちを使われて……それは余りにも酷いじゃないか」


 ……ですよねー。

 そう思いますよねー。


 まあでも、最近は色恋営業では無くなって、そこまで酷いとも言えない気がする。


 というか、私もノリノリでやってるのです。いまや被害者はアルフレッド、貴方一人なのです……


 カイルだったら、この、アルフレッドの誤解を使って、うまく取り入れと言いそうである。曖昧に、思わせぶりに返事をして。カイルという共通の話題で盛り上がる。


 しかし、私は……そこまでできなかった。


 この人は、なんだかんだ優しいのだな。

 そう思ってしまったのだ。


 私に冷たいのも、婚約は条件なので仕方がないが、マグノリアが誰を心の中で想っていても構わないと、余地を残してくれていたのかもしれない。

 だから無理に好きにならなくても良いと、そういう事だったのかも。


「……そんな話、私に話してもよいのですか? カイルに言うかもしれないのに」

「言っても構わないよ。カイルなら、私がそう思っていることも織り込み済みだろうから。君の気持も、私の同情を引くために使っているんだろう」


 よくわかってらっしゃる。アルフレッドって、カイルをこんな風に思っているんだ。


 少し苦しそうな言い方。明らかにアルフレッドはカイルのことを苦手に思っているのがわかる。


 ゲームだと、そこまででもないように見えた。

 幼馴染でライバル関係。すべてにおいて、能力はカイルの方が上だけど人徳はアルフレッドの圧勝、なので一方的にカイルがアルフレッドを敵視している。「本当に評価されるべきは僕だ」、というような感じだ。


 アルフレッドはカイルを相手にしていないように見えた。でもそうではなくて、ただ逃げていたのかも……


 もしそうだとしたら、私に向き合った勇気を利用するのはなんか違う気がする。


「でも、君に、カイルが優しくなるなら……少し、仲が良いふりをしても良い」


 こんなに正直に言われたら、こちらも正直に伝えなければならないと思う。それが誠実と言うものだ。


「私のことを気にかけてくれてありがとうございます」


 姿勢を正して、アルフレッドをまっすぐ見る。


「カイルのことを想っていた事があるのは事実ですが、今は、少し変わりました。私は兄が大好きですし慕っていますが……妹として、です。最近は兄妹として少し仲良くなったと、思います」


 妹として、って言っていいよな。


 兄妹喧嘩もするんですよ、というと、アルフレッドが目を丸くした。想像できないのだろう。


 以前のマグノリアに心の中で謝る。

 ごめんね、マグノリア。亡くした心にはきっと、恋心が入っていた。

 カイルの役に立ちたくて、カイルの顔色を窺って、カイルの言うことをよく聞いて、恋に酔っていた美しい少女。

 でも、彼女は何もしなかった。きっともっと外に出れば、違う出会いもあったと思う。例えばレオンやルーカスのほうが彼女を幸せにしてくれただろう。アルフレッドとだって、向き合えば意外とうまくいったかも。


「今は、本当に、アルフレッド様と仲良くなりたいと思っています。カイルには確かに色々言われてはいますけど、言われなくても、婚約者ですから」


 これは言わない方がいいんだよな、と思いつつ、アルフレッドに本心を告げる。


「アルフレッド様に恋をしているかというと、正直それはわからないのですが。でも、条件的にも私なのでしょう? だったら仲が良いほうが人生楽しいではないですか」


 アルフレッドは五公爵の血縁者と結婚する。選ぶことはできない。私よりもずっと、つらい立場にいるのだ。だったらせめて仲良くしておいた方がいいじゃないか。


 アルフレッドはしばらく考えるように私を見つめていたが、「そうだね」と小さくつぶやいた。


 私は、空気がなんとなく、ほっこりしたのを感じた。


2025/4/26 加筆修正

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