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魔道具鑑定士レティの冒険  作者: せっつそうすけ
幕間その二

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212/219

第二一二話「仕掛け箱のブローチ(中)」

「では、改めて……依頼したい鑑定品をご覧頂きます」


プリスモー伯爵が命じるとメイドが大事そうにトレーにのった小物を運んできました。


銀のトレーに乗ったそれは片手に余る位の大きさの立方体の小箱の様な物でした。重さは私でも片手で持てる程度です。


そして、それぞれの面は色とりどりのモザイクタイルが貼られている様に見えました。


「これは?」


「祖母が遺した小箱です。これはこれで見事な細工なのですが、どうやら中に何かが仕舞われている様ですが開け方もわからず……箱自体の鑑定と中身も取り出して鑑定して頂きたいのです」



(なるほど、それが今回の依頼という事ですね……)



「承知しました、拝見いたします――」


私は白布手袋を着け小箱に触れます。つぶさに観察しますが蓋の様なものがありません。



(ではアレを使ってみましよう……)



「失礼します」


懐から布袋を取り出し、中に入れていた眼鏡をかけます。すると、小箱が薄っすらですが淡く青く光って見えました。



(箱自体、もしくは中身が魔道具の類……ということでしょうか)



「あの、その眼鏡は……」


「これは魔力視眼鏡(グラムサイトグラス)といいまして、魔力を見ることが出来る魔道具です」


この眼鏡は魔道具鑑定士である親友から頂いたものです。依頼品にも稀に魔力を帯びたものがあるので重宝しています。


「では、魔力で封印されているのでしょうか?」


伯爵は不安げな表情で私に問われました。


「弱い魔力を帯びています、ですから強力な封印などでは無いかと。この小箱について何か他に資料などはありますか?」


すると、伯爵は古い革表紙の本を出されました。


「これは祖母の日記だそうです。生前、母からこの小箱と一緒に渡されました」


伯爵に断りを入れて日記をめくります。その中に妙な記述を見つけました。しかし、所々は読めるものの、見知らぬ固有名詞らしきものや言い回しばかりで、まるで暗号です。



(これは、昔読んだ冒険物語の宝の在り処を示す文章の様な……)



子供の頃の様に少しワクワクしていまいましたが、気を引き締めます。


「なにかの暗喩なのか……母も父も生前、誰も分からなかったと言っていました」


伯爵は早くにご両親を亡くされて家督を継ぎ、若くして伯爵になられたそうです。


「魔法的な仕掛けで、もし私の手に余る物であれば、魔道具鑑定士をご紹介も出来ますが……可能な限りもう少し詳しく調べさせて頂きます」



(私も鑑定士として看板を掲げている以上、簡単に魔道具鑑定士の親友へ助けを求めるなんてしたくありません──)



自分にも鑑定士の挟持の様なものが芽生えている事に少し驚きつつ、再び日記に目をやります。



(恐らく、これは小箱を開けるためのヒントなのでしょうけど……)



私が読める所だけを小声で音読していると、部屋の隅から啜り泣く声がしました。それは事務所へ依頼に来た家政婦長(ハウスキーパー)のソリューさんでした。彼女はこの家で最も長く務め、一介の見習いメイドから家政婦長(ハウスキーパー)になったとのことです。


「どうされました?」


私の問いかけに、ソリューさんはハンカチで涙を拭い頭を下げました。


「申し訳ございません……」


「どうしたんだ、急に?」


プリスモー伯爵は困惑した表情で問いかけました。


「今、プラムヤード様が読まれた所は私の故郷の言葉で書かれていまして……」


「故郷の言葉?」


それは帝都からかなり遠い、北西部地域の言葉らしいです。


「ソリューはもう何十年も我が家に仕えてくれている。私が生まれる前に亡くなられた祖母(おばあ)様の事も知っているのだったな?」


「……はい。私が伯爵家にお仕えしたのは、まだ一五にもならない頃でした。右も左も分からず、田舎訛のメイド見習いだった私に大奥様は言葉遣いや作法など沢山教えて下さりました」


ソリューさんは話を続けます。


「大奥様は私と出身地方が同じということで、とても良くして頂きました。時折、二人きりで御髪を整えさせて頂いている時などに故郷の言葉で話したり、故郷の歌を歌ったりしていました……」


ソリューさんは涙を拭いながら昔を懐かしんでいる様でした。


(ということは、この文章が読めるという事でしょうか……)


「ソリューさん、これを帝国公用語に訳せますか?」


「は、はい。では失礼致します……」


ソリューさんへ日記を渡す許可を求め、伯爵は了承されました。


「赤と……緑は……離れて……青を緑の隣に。緑は黄……と離して、赤の隣に……赤と青を……上に、緑と黄は下げる……そう書かれています」


ソリューさんは読み終えると日記を返し、頭を下げます。


「本当にそれだけなのか?」


伯爵はソリューさんに問いかけますが「申し訳ありません、そうとしか書かれていません」と恐縮して答えます。


「色、恐らくこの箱に装飾されたタイルの事でしょうか」


私は正六面体の小箱のそれぞれの面を見ました。



(モザイクタイルの組み合わせは、全ての面が異なりますね……)



「赤と緑は離れて……」


赤と緑が隣り合っていない面という事でしょうか?



(赤と緑が隣り合った面ならあるのですが……)



赤と緑は離れて青を隣に……というのは、タイルが外れるのでしょうか?


つまんでみますがタイルは外れそうにありません──が、タイルは一列が回る様にスライドして動かせる事に気付きます。


「あ……動きますね、これ」


くるりと回るようにスライドさせると、それ以上動かなくなりました。



(こんな仕掛けが……)



スライドさせたモザイクタイルは青と緑が隣接するようになっています。


「これは……なるほど、そういう意味ですね?」


私は日記の記述に沿ってタイルに触れます。すると、先程と同様にタイルが列ごと回転してスライドさせることが出来、全てを終えると「カチリ」という音がしました。



(これで開いたと思いますが……)

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