第一六二話「新たな仲間と探索依頼」
――探索から帰還した仲間達と再会を喜んでいると、その中に見慣れぬ方が居ました。若い男性……というか少年でしょうか? 私よりも背は高いですが幼さの残る顔立ちです。
(ですが……見覚えある方ですね?)
「お久しぶりです、レティさん」
そう言われてわたくしは自分の記憶を遡ります。
「えっと……あ、確か薬師スヴォウさんのお弟子さんの――」
「はい、その節はどうも。薬師スヴォウの弟子のハサラです。つい先日、おさんぽ日和に冒険者として加入させて頂いきました。宜しくお願いします」
数年前、親友セシィの病を治すための秘薬の製法を地下迷宮で発見し、ガヒネアさんにお知り合いの薬師として紹介頂いたスヴォウさん――その弟子のハサラさんです。ファナさんと同年代の少年だったのですが今ではすっかり青年といった様子です。
(声も変わっていたので始めは気付きませんでした……)
「ハサラは薬師で治癒魔術師なんだよ!」
ファナさんが腰に両手を当てて胸を張り、自慢げに言います。
「なんでファナが自慢してんの?」
「えー、いいじゃん。なんか問題あんの?」
ファナさんとハサラさんは秘薬作りの間に滞在している時に仲良くなっていたのは知っていましたが、今でもそれは変わらないのが微笑ましく思えました。
「ハサラさん、スヴォウさんはどうされていますか?」
「あ、はい。師匠は皆さんと秘薬を完成させた翌年に病気で亡くなりました。薬師として最後に伝説の秘薬イリクシアの精製ができた事を、レティさんにとても感謝していました」
「そうですか……お亡くなりに――」
わたくしはガヒネアさんの事もあり、言葉に詰まります。
「師匠は自分が死んだ後は僕に旅をしろ、世界を見て周れと言いました。薬師として師匠を超えるためには師匠よりも色んな経験をしなくちゃって、それで旅に出ました」
(ガヒネアさんも、同じ様な事を仰いましたね……)
「まずは、師匠のご友人だったガヒネアさんにお知らせしようとイェンキャストまで来て……そしたらおさんぽ日和の皆さんのご厚意で冒険者として迎え入れてくれました」
(……やはり、人の縁というものは色んな所で繋がる不思議なものですね)
「師匠も若い頃は冒険者として活動していたので、僕もそれに倣ってみることにしました、宜しくお願いします」
ハサラさんはぺこりと頭を下げます。わたくしもそれに倣って淑女礼で返しました。
「こちらこそ、宜しくお願いします」
――そして、皆さんも荷ほどきを終えて、お互いの近況報告と情報共有をしました。
「なるほど、イェンキャスト近くの転移装置を見つけて、その帝都のと繋げられりゃあレティもしょっちゅう帰って来られるってわけね?」
ファナさんは眼を輝かせています。ウェルダさんがイェンキャストの周辺地図をテーブルに広げます。
「レティ、その転移装置――目星は付いていて?」
ウェルダさんの問いかけにわたくしは帝都の転移装置が示した帝国各地の光点を印として書き写した地図を並べます。
「ちょっと地図の縮尺が違って細かい場所に誤差があると思いますし、印はあくまで装置の場所であって入り口ではないので……」
「最悪、全然違う場所に入り口があるかもってことね……かつてレティが転移したという地下迷宮の奥深く、みたいな場合も?」
ウェルダさんは二つの地図を見比べながら言います。
「当然あり得ます、わたくしが見た図はあくまで平面です。現に直近で見つけた帝都最寄りの転移装置は険しい山脈をくり抜いて造られた遺跡――地下迷宮の中にありましたから」
ウェルダさんは「なるほどね……」と地図を見ながら思索にふけっています。
「情報収集した結果、幾つか目星がありますのであとは現地を調査と言う段階で……それで、これはわたくしからの依頼ということになりますが、皆さんのご予定は――」
「ファナ乗ったよ!」
ファナさんはわたくしの言葉に被せる勢いで参加を表明しました。
「ファナ、報酬も聞かずに乗るのは冒険者としてどうなの?」
ウェルダさんが苦笑いします。
「あ、いえ、レティを信用していないって訳じゃないから。一般常識として言ったまでよ?」
ウェルダさんが少し慌てて訂正を入れるので、わたくしはおかしくて少し笑ってしまいました。
「まあ、皆貴女が遺跡調査をする事は聞いていたから――話を続けて?」
ウェルダさんに促されて続けます。
「わたくしが得た情報を総合して、イェンキャスト北東部にある丘陵地帯の遺跡群、ここを調査したいのです」
「あー、そこって前に探索したよね? レティも一緒に――」
アンさんが言うように、わたくしがおさんぽ日和に正式加入したばかりの頃、マーシウさん達に請われて古代文字解読の為に一緒に赴きました。
「はい、ですがわたくしもあの頃よりも古代文字の読解が進んでいますので新たな発見が出来るかもしれません」
「確かに、あそこは古代文字とか仕掛けとかが多くて探索が進まずに最近は冒険者たちも足が遠のいているみたいよ?」
ウェルダさんは地図上の丘陵地帯を指でなぞり「トントン」と指で軽く叩きます。
「地下迷宮探索ね。構成としては――」
久し振りの仲間たちとの冒険に胸が躍ります。




