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お妃さま誕生物語  作者: violet
番外編 希望の地
94/102

亡き国のロザリンド

豪華なベッドで目を覚ましたロアは、ここがどこだか分からなかった。

使用人だろう女性が気づいて食事を持って来てくれた時に、総領事館と言われても、どうしてそんな所に居るのか分からなかった。


すぐに連絡がいったのだろう、アレンが部屋にかけつけ、あれは幻ではなく本物のアレンだとロアはやっと思えた。

娼館でアレンを見た記憶は、会いたいと思うあまりの幻としか思えなかった。

主から助けてくれているのは都合のいい幻、国元に帰り二度と会えないアレンであるはずないから。


「気が付いてよかった。ここはトーバ総領事館だ、僕は総領事として赴任してきた。

寝ている間に医師に診察をさせた」

娼婦のロアには隠しておきたい秘密がある。

それが、バレただろう。だが絶対に認めるわけにはいかない。


「僕の子供がお腹にいるね?」

「アレン様のお子ではありません」

ロアは頭を振り、強く手を握りしめる。


「ロアが考えていることはわかる。

帝国の貴族の息子で総領事になる僕に、負担にならないようにしているんだろ?」

ロアは何も答えない。

「ああ、それとも、僕が堕ろせと言うかと思っている?」

「アレン様、私は娼婦です。誰の子かわからないのです」

ロアがそう言うのは、アレンには予想がついていた。

だが、あの娼館でアレンは聞いていたのだ。


『アレン様のお子を失くすぐらいなら、死んだ方がましです』

あの場で折檻されて、子供と一緒に死ぬ覚悟で言った言葉だ。

ずっと、ロアを独占して買っていたのはアレンである。

他の男の子供のはずがないのだ。

「ロザリンド」

アレンはベッドのロアにひざまつき、消してしまった本当の名前を呼ぶ。

「ロザリンド、どうか結婚して欲しい」


「ダメです! 私は娼婦なのです。

責任を感じる必要はないのです」

驚いてロアは、ベッドから降りようとするのを、アレンに止められる。

「どうか、子供を産むのをお許しください。

決してアレン様のお子とは申しません。迷惑はかけません」

アレンに(すが)るように、声を震わせ言葉を繋いでいく。


「責任だからじゃない。

僕がロザリンドと一緒にいたいんだ。

しかも、子供が出来たなら急がないといけない。

両親に紹介もしたい。身重のロザリンドに負担をかけないようにする」

嬉しそうに言うアレンに他意がないのは分かるが、ロアには頷くことは出来ない。

「無理です。私は娼婦のロアです。

ご家族も周りも娼婦の私を受け入れるはずがありません。

アレン様もきっと後悔されます」


「後悔はもうしていたよ。

ここを離れる時に、何故ロザリンドを置いて行ったのかとね」

それはマクレンジ―帝国に戻って感じていたことなのだろう。

だから、ジェラルドを脅して2年の期限付きだが、トーバ総領事になったのだ。

トーバ総領事は別の人選が出来ていた。

王太子補佐官のアレンを、地方の総領事などに2年も出せるはずがないのだ。

「立つ前に娼館主には、ロザリンドの身請け代金と街での生活費を渡してあったんだ。

だから、街のどこで暮らしているか聞こうと娼館に行ったら、まだロザリンドがいて驚いた。娼館主を殺そうかと思ったよ」


「きっとね、ロザリンドは僕の愛人の方が楽な生活が出来ると思う。

だけど、僕の妻と子供を隠すなどしたくない。

マクレンジ―は恋愛至上主義だ。相手の身分は問わない。

それでも、貴族の中には嫌な思いをするかもしれない。

僕はロザリンドに乗り越えて欲しいと思うんだ」

「アレン様、無理です。

私は死んだ方がまし、と思える恥ずべき経歴です。

死にたかった、でも死ぬ勇気もなかった。

たくさんの男が抱いた、汚れた身体なんです。

この子は娼婦の母から生まれてくるのです」


「どこにも恥ずべきところなどない。

それが汚れているというなら、僕は血で汚れた身体だ。戦場でたくさんの人間を殺した。

ロザリンドに非があったのか、そうじゃない。原因はマクレンジ―帝国による攻撃と国の崩壊だ」

ロザリンドは泣いて、嗚咽を溢しながら震えている。


「死ぬのは勇気がいるだろう。

だが、生きるのはもっと勇気がいることもあるんだ。

ロザリンド、君はそうだった。

生きていてくれたからこそ、僕たちは巡り合えた。

君が好きだ」

奮えるロアを抱きしめるアレン。


アレンにも、ここに来るまでに様々な葛藤があった。

「僕たちは、君達からすれば国を崩壊させた憎むべき敵だ。

シーリア妃を守る為に、陛下は攻撃した。

マクレンジ―帝国はたくさんの国から恨まれている。

その最たる国がタッセル王国だ。

僕は君の仇だ。

そして金で君を蹂躙(じゅうりん)した」

任務の為に、娼館で遊ぶ必要があった。どの女でもよかった。

窓で見た君が気になった。

だから指名した。最初は、それだけだったんだ。


これを運命というのだ。


君の為に、タッセルを復興させようと思う。


そして、それはジェラルドの願いでもあるんだ。

だから、僕はここに来た。

すぐに帝国軍も到着する。

力で掌圧するが、タッセル国民を優遇する政策を取る。きっと、ロザリンドのような境遇の者がたくさんいるのだろう。

マクレンジー帝国は圧倒的力があるからこそ、弱者を守らねばならない。



絶対にロザリンドも子供守る。


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