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お妃さま誕生物語  作者: violet
番外編 希望の地
93/102

娼婦ロア

初めて小説を投稿したのが、3年前でした。

記念に何かと思っても、やはり初めて書いた小説がいい。

体調を崩したため、少し日にちがづれてしまいましたが、番外編として追加します。

トーバの街にはたくさんの娼館があった。

アレンは領事として赴任すると、馴染の娼婦ロアの居場所を聞きに行った、

マクレンジ―帝国に帰る時に、娼館の(あるじ)に金を渡し、ロアを放免するように手配していたからだ。

もう残ってはいないだろうと思いながらも、行先を確認しようとしていた。


だが、そこで見たものは、客を取らされようとしているロアだった。

「主様、お願いです、この子を産ませてください」

ロアの声に、アレンは柱の陰に隠れる。

「子供だと!

病や月のものだと休んでいたのは噓だったのだな!

娼婦に赤子はご法度だ。客を取ればすぐに流れる、客が待っているんだ!」

「嫌です!

アレン様のお子を失くすぐらいなら、死んだ方がましです」

館の主が手を挙げ、ロアを殴ろうとしたのが目に入って、アレンは飛び出した。


ガン!


殴り飛ばされたのは主の方だ。


ロアを背に守り、アレンは娼館の主に向き合った。

「僕は一か月前、ロアの身請け金と街での生活の支度金を渡したはずだ。

それが、何故今も客を取らされているのだ?」


まさかアレンが戻って来るとは思っていなかった娼館主は、殴られた頬を押さえながら驚いてアレンを見ている。

「いえ、旦那、なんのことか」

何とか絞り出した声は、ごまかそうとしているのが感じ取れる。

「色街には色街の掟があるのです。

身請け金といったって、それだけじゃダメなんですよ。

外国の方はわからないでしょうが」


「ここはマクレンジ―帝国の統括地である。

ましてや、僕はこの地の総領事として赴任してきた」

総領事と聞いて、娼館主は小さな悲鳴をあげて後ずさりしている。

こんな若造がありえない、と顔に書いてある。


これほどの大金を用意する身分の者ならば、娼婦のことなど公にしたくないはずだ。もうここに来ないのならバレるはずもない、と着服した。

ロアは美人で客はいくらでもつく、身請けなどなかったほうがいい。


「後で、管轄の文官と兵を向かわせる。

それまでに、身支度をしておくのだな。

僕は、ロアの身請け書も支度金の領収書も持っている。

言い逃れはできまい」

アレンは総領事の特権で、娼館を潰すと言っていることを娼館主は悟った。

「旦那様、ロアはすぐにお渡しします。

それから、上納金も収めますよ、満足出来る額をおっしゃってください」


「前の総領事と同じと思っているなら大間違いだ。

僕はマクレンジー帝国の伯爵家の嫡男で、王太子殿下の側近である」

賄賂でどうにかなると思っている娼館主を鼻で笑う。


隠し持っていた短剣を取り出すと、アレンに斬りかかろうとして、手首を掴まれる。

店の用心棒だろう男達がアレンに飛びかかるが、軍の過酷な訓練を受けたアレンになぎ倒された。


「大丈夫か?ロア」

アレンが後ろのロアを振り返ると、お腹を抑えてうずくまっていた。

慌てて、ロアを抱き上げ馬車に乗り込んだ。

向かうはトーバ総領事館。

馬車の中で落ち着いて、ロアを見ると頬には殴られた跡。肩も赤くなっていて、お腹をかばい転ぶときに手をつかなかったとわかる。


聞こえてきたのは、ロアがお腹の子供を産みたいという声。

僕の子供。

タッセル王国とマクレンジー帝国の子供。

ロアは娼婦という身で、守る力は何もない。

それでも、宿る命を守ろうと我が命をかけていた。


美しいと思った。

アレンは意識のないロアの手を握りしめ、愛しいと感じていた。


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