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お妃さま誕生物語  作者: violet
番外編 極東首長国王ガサフィ
80/102

伝染病

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

ささやかなお礼として番外編を追加いたします。

楽しんでいただけると、嬉しいです。

最初に死者がでたのは前線の部隊からだった。翌日には更に人数が増え、その後になってガサフィに報告がきた。


「既に昨日から死者がでているだと!

症状はそれ以前にあったろう。

直ぐに閉鎖だ!」

ガサフィが次々と指示を出すと親衛隊とスコットが準備を始めた。

マクレンジー帝国に向けて早馬が走る、医者と生物学者の至急派遣要請だ。

「口と鼻は幾重にも布で巻いて、絶対に患者に触るな。

重症のものは諦めろ、接触のあった者全員隔離だ。」

ガサフィが東に進軍する途中、国境近くで異様な街に遭遇した。それは住人が死に絶えた街だった。

明らかに何かの伝染病で死んだとわかる大量の死体に、慌てて撤退したが遅かったらしい。

ガサフィもマクレンジー帝国の研究所で何度もレクチャーを受けている。




国境を出る前に極東首長国軍は退軍したが、この病が広がるのはわかりきっていた。軍は砂漠の砦まで戻り、作戦を練り直す事になった。

「この1週間で小部隊が3隊全滅しました。」

「隔離した者達か?」

スコットの報告にガサフィがやはりと思う。

「そうです、正しくは全滅ではありません、2名は病に感染しませんでした。」

「その二人の共通点はなんだ?」

3隊が全滅するほどだ、感染力も致死率も高い。それを感染しないとなる何かがあるはずだ。

「私は彼らを知っています。」

スコットはガサフィに報告を続ける。

「昔、同じ軍にいました。」

ガサフィも気がついた、それは。

「悪魔の薬を食し、生き残った仲間です。

多分、私も感染しないと思われます。」


既に到着していた医者達と生物学者が用意してきた数十種類の薬を取り出した。

「これが悪魔の薬です。

この薬が予防に効くのかもしれません、治療に使えるか試したいですね。

効くとしたら、量や時期の臨床試験が必要です。」

とりあえず飲んでいてください、とガサフィは悪魔の薬を渡され、学者達はその場で飲み込んだ。

ガサフィはマクレンジー帝国に悪魔の薬の大量注文を発注する事になったが、在庫では間に合わないだろうと生物学者達は言う。

ここで病を抑えなければならない、王都には身重のリデルがいるのだ。今のリデルに薬を飲ます訳にいかない。


薬が足りないのなら、飲ます人間を選別しなければならない。

薬がなくとも隔離が成功していれば生き残れるだろう、だが選ばねばならない。

どれほどの薬の量があるのか、いや、病に対抗できる薬が最初からあるというのが奇跡なのだ。

「ガサフィ陛下、生き残った者達はもう何年も前に食事に混ぜられた悪魔の薬の生き残り、免疫力が効いていると思われます。

食して24時間以内は免疫は出来ておらず患者と接触はできません。

持ってきました薬ですと1包で2~3人に与えられると推測できます、まずは手持ちの薬を医療関係者に与えましょう。」

学者達の長と思われる壮年の男が言った。


軍の中ではすでに恐慌に落ちつつあった、隔離を隠し通す事はできなかった。

ガサフィも薬を飲んだが、体調に何の変化もない。

「それが怖いのです、飲まされた兵達は自分が薬を飲んだ事に気づかないのです。

戦闘で傷を負っても気づかない、痛みを無くすだけでなく思考能力も落ちると考えられます。

痛みがなくとも斬られて気付かないなどありえないのに、気づかないのです。

薬が切れた後の苦しみは言葉に出来ない程の傷の痛みです。」

体験者であるスコットが言う。


薬は予防にだけ効くのか、治療薬にもなるのか、それもわからない。

兵士の誰も死なせたくない、だが薬が足りないのだ。

この遠征に2万の兵を連れて来ている。

「先生が解ってる範囲でいい、教えてくれ。在庫はどれぐらいある。」

学者達の長は、かつて幼い頃のガサフィにマクレンジー帝国で学問を教えていた事があるのだ。だからこそ危険なこの任務を受けてきた。

「おそらく2000包はありますまい。

ガサフィ陛下、この感染症は過去にあったものと酷似しています。」

ガサフィの目が見開く。

「ポートリッツ症、リヒトール陛下が帝国を得る前の逸話のか!」

「そうです。患者を2都市に封印し、1万人が亡くなった。

発熱、発疹、耳と鼻からの出血、症状が酷似しています。あれは発症するとほとんどの人が死に至ります。」

「だが、あれには特効薬がある!」

「初期症状にしか効果がありません。」

生物学者はそれ以上の研究は進まず、新しい薬もないと言う。

「リヒトール陛下には私どもから進言し、その薬は必要になるだろうと他の医療器具と共に追って到着の手配になっています。」

「ありがとう、先生。」

ガサフィが椅子に深く腰掛けながら息を吐く。

「ところで先生、その薬の在庫はどれぐらいある?」

「リヒトール陛下からは常に5000の在庫を切らさないように言われています。

我々が帝国を立つ時に持てるだけの薬として、そのうち1000持って来てあります。」

5000、悪魔の薬が2000包で6000人分、遠征軍の半分余しか与えられない。


ガサフィは選ばねばならない、生き残させる人間を。それは選ばれない人間は死に直面する可能性が高い。

すでに発症して死亡患者がいる、隔離が成功できている可能性は低い。

ここで、死なせなければ国が死んでしまう、自国だけではなく感染は広がるだろう。比べ物にならない数、何百万、何千万もの人間が死に至る病。

その中にリデルと腹にいる我が子も含まれる。


ガサフィは助ける人間を選ばねばならない。

選べない中から選ばないといけない、出来ないという選択は感染症の蔓延、全員の死亡につながる。

助けない自国民を9000人選ばねばならない。


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