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お妃さま誕生物語  作者: violet
番外編 ディビット
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兄弟

僕達の部屋に全員が集まった。

熱のある母は、貰った薬を飲んでいる。


子供を椅子に座らせて、その横に大男ともう1人の男が立っている。まるで子供を守るようだ。

大男が口を開いた。

「ジェラルドを見てリヒトール陛下と言ったな。

確かに顔はそっくりだが、陛下を知っているということだな。

こんな所にいるはずがないんだか、私の想像を言っていいか。」

「僕も同じことを思っているさ、レオナールと呼んでたな。」

子供が母を見ながら言った。

ガサフィの名もジェラルドの名も聞き覚えがある。

大国の王太子と同じ名前だ。

「昔、リデルの命名式で会ったことがある。お互いに覚えてないだろうが。」

大男が僕の予想を確信させる事を言う。

「ハリンストン王国のアンヌ王妃とレオナール王太子か。」

僕と母が目を会わせる、口を開いたのは母だ。

「そう呼ばれた時もありましたが、捨ててきました。」

「どういうことだ。」

子供が興味深げに聞いてきた。大男も年長の男も何も言わない。

「これからシーリア様の侍女に戻るつもりです。

夫には離縁状を置いてきました。」

ジェラルド皇太子ならば、父の情報を知っているだろう。

察したのであろう、賢い子供だ。

「なるほどな。」

そして、僕を見る。

「ハリンストン王国には、正当な王太子がいるのです、行方不明ではありますが。

僕が王太子と呼ばれていたのは、父親が15代国王と言うだけだからです。」

あの人の息子なんてたくさんいますよ。スペアには困りません。

「待ってれば王になる立場だろう。」

「あの父を見て、王に成りたいなんて思いません。第一、僕は王の器ではないと解ってます。」

あははは、と子供が笑った。

「予定変更だな、これだから面白い。ディビット。」

子供の横に立っていた男が、左目を隠していた眼帯を外した。

「さて、どうしたものか。」


現れるオッドアイ、右目の青、左目の金、間違いなくハリンストン王家の証。

生きていた、やはり生きていたんだ。

身体が無意識に動き膝をつき、頭を下げる。

「ディビット・ハリンストン王太子殿下。」

横で母も膝をついている。


「熱のある婦人に無理はさせたくない、座ってください。」

ディビットが母を椅子に誘導した。

「もう、解っていられると思うが、紹介しよう。」

子供と大男を振替りディビットが言う。

「マクレンジー帝国ジェラルド・マクレンジー皇太子殿下と極東首長国ガサフィ・ロナウド王太子殿下であられる。」

こんな田舎にいる人物ではない、しかも何故に王太子が3人も揃っている?


ジェラルド殿下が面白そうに言う。

「ディビット、紹介に言葉が抜けている。兄の、と言うべきだね。ディビットの兄のジェラルドだ。」

どこから見ても年下だろうし、実際にずいぶん年下だ。ディビット王太子は僕より6歳上なんだから。

大男もディビットを見ながら言った。

「俺はディビットの3歳年下の兄ガサフィ、この兄弟の長兄だ。」

意味が分からない。

「俺はジェラルドの姉の夫になる、ディビットはジェラルドの妹の夫になる。」

ちょっと待て、マクレンジー帝国の第2皇女ってまだ幼女だろう。いや王族ならあり得なくないか。

「ガサフィもジェラルドも僕の弟分だがな。」

クスッとディビットが笑いながら言った。

弟分はたくさんいる、ガサフィ、ジェラルド、ポールの息子のアーサー、アレン、ダーレンの息子のリアム、ヘンリー、ウィリアムの息子のイライジャ、シュバルツの息子のオリバー、ベンジャミン、アレキサンダー。全員マクレンジー軍に放り込まれた、面倒を見たのはディビットだ。

「確かに。」

「それは否定しようがないね。」

この3人の関係を垣間見る様だ、信頼関係が深い。


僕が本当の弟なのに、この疎外感。

血ではないんだ。

この3人は、家族よりも強い絆があるんだろう、僕にはないものだ。


「ここに居られる身分の方達ではないはずです。何故に、とお聞きしたい。」

僕に返事したのはディビットだ。

「国を取り戻す準備に来た、この2人は手伝いだ。」


「アンヌ妃、あの薬はよく効くが眠くなるんだ、あちらで休まれるがいい。」

ガサフィ殿下がつらそうな母をベッドへ連れて行った。


「その証がある限り、当然殿下のものです。」

「こんな腐った国はいらない、だから作り直すのさ。証があるから王になるのではない、僕が王を望むから王になる。」

この人が王だ、オッドアイは王の素質のある人間に現れると確信する、だから1代に1人なんだ。

「おまえ。」

「はい。」

「殿下はよせ、僕はすでに廃嫡されている。」

「違う、廃嫡などとあの男の戯言だ、何故に周りも認めた。兄上こそが王だ。」

ふーん、とジェラルド殿下が言う。

「こいつ賢いね、使えそうだ。」

1番の子供がこの場で1番強い。

「こいつまともで、頭固そうだぞ。」

ガサフィ殿下が僕を指す。

「今回は現地偵察に来ただけで、もう帝国に帰るんだ。俺たち結構忙しいからな。

俺たちに着いて来るか?

どうせ行くとこないんだろ。」

「ありがとうございます。僕達はマクレンジー帝国に向かっていたのです。

母がシーリア様の侍女に戻りたいと言うので。」

「それは母が喜ぶ。」



この時の僕は知らなかったのだ、憧れの王太子に会えただけで舞い上っていた。


政略と思っていたディビットと第2皇女サーシャの熱い抱擁を見て、顎が外れる程驚く事や、ジェラルドが血を見たいが為に戦争の前線に出る事。ガサフィが所構わず、第1皇女リデルを口説きまわる事。結局、ストッパーをかけるのは僕しかいない状況になってしまう事など。

後に僕は影で、変態3人の良心、と呼ばれる事になるとは。


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