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お妃さま誕生物語  作者: violet
本編
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麻薬

ウィリアムの報告書はリヒトールを激怒させた。シーリアの生き血だと、決して許す訳にはいかない。呪符などに力はないが、あれを見つけなかったら狂った信者どもの生け贄として狙われ続けるとこだった、もちろんそんな事をさせはしない。


どうしてやろう、苦しみは長く、シーリアを狙った我が身を呪え。いっそ宗教ごと弾圧してやろうか、宗派で争わせるのがよかろうか。

「ポール、返書を持っていけ。これからの開拓地だ、他にも見てこい。

東は、ウィリアムとポールに任せる。」



ウィリアムとポールは、メイプ連合制圧の時に囮とした銀髪の兵士ハリー・スベルトを呼びよせていた。皇妃の囮と言う自覚で髪を伸ばし、女性らしい仕草を身に着けていた。

ドレスの中に暗器を隠し持って戦う練習を積んでいた。要請しなくとも自ら必要を感じ訓練する、それがないとマクレンジー私兵隊では生き残れなかった。

鍛えられた男性の骨格だが、男性にしては小柄な体でドレスを着、筋骨逞しい兵の中に入ると女性に見えるから上手く化けている。


「危険な任務である、麻薬の煙を吸わないようにしろ、意識を持っていかれる。」

精鋭隊にとって危険でない任務などないが、自己を失うのは死に直結する。

「占い師が香の中でも平常心でいるなら、何かがあるはずだ、判明次第作戦を決行する、準備しておくように。」

「ハリー・スベルトが皇妃でないとばれた時点が勝負になる、できるだけ隠すようにするのが、警備兵役の役目だ。占い師ダスレハイムこれがターゲットだ、生物班からの虫が1番だが、殺すことが最優先である。」

山羊に寄生する虫、肌の下を動き、内臓を食い破って出てくる。特殊な油と共に食した時だけ人間にも寄生する、油が胃酸から虫を守る。


占い師の周りには麻薬で操られた狂人一歩手前の人間が多くいるはずだ、それはもう人間ではない、手加減の必要はない。それがリヒトール・マクレンジー陛下の言葉であるとポールは締めくくった。


ハリーは銀の髪を隠すように警備に守られて極東首長国王宮に入った、それは隠すようでいて見られるように演出されていた。

「ロナウド王、王宮を罠に使って大丈夫なのですか。」

ウィリアムの言葉に、

「皇妃は女神であらせられ、マクレンジー帝国が女神の神殿である。女神を守るのは国民全ての願いである。」

王宮の方が賓客に見せれるだろうし、準備もしやすいとロナウドは笑った。



その情報はサルシュ大公国にも届いていた。

たくさんの護衛を連れた銀の髪の身分の高い女性が、お忍びで極東首長国の王宮に入った。

護衛の制服はマクレンジー帝国のものである。

「大公、皇妃が極東首長国に入った、呪符がきいたのだ。最初は後宮でいいがその後は私のものだぞ、女神を降臨させるのだ。」

サルシュ大公国の後宮に占い師ダスレハイムがいた、あまい香が焚かれている。

「女神は我が国のものだ。」

大公は虚ろな瞳で言った。



「我々の実験では、鼻と口をマスクと布で覆った時には麻薬を吸い込まないと結果が出てます。香は布に吸着するようで、布を頻繁に交換することで対策が取れると思います。これ以上のものが未だにみつかりません。

深く考えすぎていたのかもしれません。特殊な対策があるのではなく、単純ではないかと。」

化学者達の実験のような環境ではなく、戦闘となると 布が緩む時もあるだろう、それが問題だ。


別部隊はサルシュ大公国に運び込まれる荷から逆ルートをたどり、麻薬の成育地を探している。


月の輝く夜に決行となった、ハリーを乗せた馬車は護衛に守られて、サルシュ大公国王宮に向かう、そこまでは誰の邪魔も入らないはずだ。

ウィリアムとポールも護衛に化けて馬車に乗っている、馬車を曳く馬も単騎で走れる軍馬だ、王宮に入ったら馬車は必要ない。

向こうから招いてくれるのだからありがたいことである。王宮に着くまでに戦闘がないというのは体力温存であり、王宮に入れば勝利が見える、壊せばいいのだ。

頭からベールを被り顔を隠したハリーは豪華なドレスを纏い、背の高い女性にしか見えない。


相手に気づかれない距離でロナウド率いる極東首長国軍が追う。


一昼夜かけて馬車はサルシュ大公国王宮に着いた。ハリーが顔を出し銀の髪を見せただけで城は開門となり、ウィリアム達は笑いが止まらない。しかも護衛の誰一人止められない、全員が通過である。

どうして皇妃が簡単に宮殿を出れるなどと思うのだろう、マクレンジー帝国と極東地域の距離を考えないのか、疑問がいっぱいである。

この甘すぎる警備に危機感を覚える、何かがおかしい。



「いくぞ。」

ポールの声と同時に小型爆弾の安全装置がはずされ、投げ込まれた。

マクレンジー帝国軍は鼻と口を幾重にも布で捲いている、息苦しいくらいである。


馬車から飛び出したハリーの銀の髪めざして、信者とみられる一群が群がってくるが、マクレンジー軍の敵ではない。

この国の軍隊はどうしたのかとさえ思う、違和感がある。

「全員四方に爆弾を投げろ!!」ポールが叫ぶ。

辺り一面に爆音が響く、爆風で飛ばされた瓦礫の中にウィリアムを先頭に切り込む一群。

サルシュ軍が隠れていた、サルシュ軍を殲滅しながら大公と占い師を探す。


既に王宮は小型爆弾によって半壊状態である。

キーリエ王国を奇襲で破壊した時でさえ、人々が逃げ惑っていた、だが、ここではそれさえない。

異常の一言である、これが麻薬の力、人心掌握がされている。

この麻薬が幻覚だけでなく、人をコントロールできるのだとしたら、それは麻薬ではなく魔法の薬だ。


何故に皇妃がここに来ると思っている?

あの呪符は、文字の意味以外にも秘密があるのかもしれない。

ウィリアムは、占い師を簡単に殺すわけにいかないと思う。


『全ての者よ、剣を捨てるのだ!』

大きな声が響いた、この国の言語を理解していないが、意味を想像してみる。

そこには占い師であろう男がいた。


6/28文字修正

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