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お妃さま誕生物語  作者: violet
本編
54/102

リッチモンド王国

リッチモンド王国王弟キース・リッチモンド。

表舞台にでたことのない名前の人物から再建計画書が届いたのは、まだブレスコ、トーバ両国の処理中のことだった。

数少ない女性文官であるスーザン・タイチがその書類を手に取ったのは幸運であったのだろう、分厚くずっしり重い書簡に気が惹かれた。


マクレンジー帝国の執務室宛には数えきれない程の書簡が毎日届く、危険物が封入されていることも多くあり簡単には開封されない。


スーザンは上司のゴメス事務官に相談をした。開封して確認したところ、是非陛下に進言をしたいと。

ゴメスも読んでみると、よく練られた案であり、リッチモンド王国の債務返済の一翼を担えそうであった。



「なるほど、氾濫するヤムズ大河を利用するか、大規模な灌漑工事が前提だな。肥沃な堆肥となって積もっている土壌の資料も揃っている。だがこれ以上の融資は無理だな。スーザン・タイチとアルメット・ゴメス行ってこい。」

お前達これは面白いぞ、リヒトールは側近達に書類をまわした。

「条件は王の退任だ、あの王には融資をしない。キース・リッチモンドにできるか見てこい。」

ヤムズ大河の下流にあるリッチモンド王国はメイプ連合に加盟しているが、帝国広場での襲撃には参加していなかった。


「ウィリアム、トーバへ行け。トーバはリッチモンドの隣国でヤムズ大河の中流だ。王家を処理したらリッチモンドへ回れ、指揮権を与える。好きなだけ連れて行けばいい、トーバは極東地域への中継拠点とする。」

マクレンジー商会が世界中で取引しているとはいえ、極東地域の国々とのパイプはまだ弱い。属国レルバン、タッセル紛争地域、トーバ王国に隣接して極東諸国がある。広大な砂漠の中に弱小国が多数あり、これから国が集約されるであろう地域だ。

実際には集約されつつある地域と言うべきか、頭一つ飛び出た国がある。

トーバとリッチモンドのセットで開拓するのだと暗に告げる。



マクレンジー帝国襲撃事件はブレスコ王国、トーバ王国との開戦となったが、マクレンジー国軍を派遣するやいなや全面降伏という形になった。

両王家の断絶が決定、王国は崩壊した。

ブレスコ王国は、隣国ギュバハルの王弟がマクレンジー帝国の属国として統治することとなり、トーバ王国はマクレンジー帝国から統治者が派遣されることになる。


リヒトール・マクレンジーはわずか数カ月で、最強の国を最大の国にした、急激に世界が変わっていく。




リッチモンド王国の離宮の一室では、キース・リッチモンドがスーザン・タイチとアルメット・ゴメス両名の訪問を秘密裏に受けていた。


「読んでもらえるとは正直思ってなかった。僕は実績がないし、国は信用がない。」

そういうキース殿下は穏やかな風貌で照れる様に笑った。

スーザンにとって、マクレンジー帝国では文官も私兵隊出身者が多いので体格が立派な男性が多く、それに比べキース殿下はひ弱に見える。


「兄は気が弱くって、妃殿下の父にあたる宰相が執政を取り仕切っている。宰相は賢明な人で、上手くいってる時は良かったんだが、ヤムズ河の氾濫が頻繁に起こって歳入が極端に減るようになると従来のやり方ではダメだったんだよ。

子供の頃は僕を王太子にと話もあったが、宰相の娘を妃にした兄が王太子になり王位を継いだ。

内戦にしたくなくって、ここで隠居生活をしてたけど、メイプ連合に参加したと聞いて情けなくなったんだ。」

今さら嘆いても仕方ないけどね、と殿下が続ける。

「ずいぶん前に資料の事は兄に進言したんだが、灌漑工事など無理と相手にもされなかった。

だから、マクレンジー帝国に送った。国が生き残る道はこれしかない、もう後がないんだよ。」

キース殿下は決して弱くはないんだ、強いからここにいるんだとわかる。


「どこで僕の国は間違ったんだろう、もう間に合わないんだろうか。」

深い悲しみだ、この人は国を憂いてる。あの計画書には何年も調べた数値が記されていた、一人で調べていたんだろう。


「殿下はもうお分かりでしょう、我々が来た意味を。」

ゴメス事務官が殿下を試すように言った。

「兄を引きずり落とせと言うんだね、このままの状態で投資をしても無駄だというのは解るよ。」

決断しないとならないんだね、と殿下が私達を見た。

「兄の命を助ける為には今しかないんだね、隔離か幽閉になるけど。気が弱いけど優しい兄なんだよ。

みんなに優しいから、みんなを助けられなかったんだね。」


「マクレンジー帝国が殿下の後ろ楯ということで、現国王に譲位を進言する形になります。

殿下は簒奪者と呼ばれる事になります、覚悟はできてますか。」

兄はきっと分かってくれるよ、と殿下が寂しく笑った。


隣国であるトーバ王家全員が、帝国襲撃の責と敗戦処理で処刑された。トーバ王国はマクレンジー帝国に従属され、飛び地の領地となると公表された。



リッチモンド国王クインシーが弟キースの訪問を受けたのはそれから直ぐの事だった。

「久しぶりだな、何年ぶりだろう元気そうでなりよりだ。

だが今はとても忙しいんだ、トーバ王国の件や、債務期限の事で。知っていると思うが。」

「ええ、陛下、だから来ました。」

キースは兄にマクレンジー帝国の印の押された書状を手渡した。

「キース!!おまえは!」

宰相が書状を取り上げ読み始め、目を見開いた。


「僕はずっとこの国から逃げていた、小心者です。もう逃げ切れないとこまで来てしまった。」

ずっと逃げていたかった、いろんな事が目に付いていながら見ない振りをしていた。小心者の上に卑怯者なのです。

声に出せない言葉がキース自身の心に響く。




決行前日、マクレンジー帝国から届けられた書状を見つめている王弟キースに、スーザンが声をかけた。

短い付き合いだが解る、いい人なのよね。見かけは大型犬のくせに小心者で情けないペットを飼っている気分。

「私が側で支えますから、勇気を出して進んでください。殿下はちゃんと私どもに計画書を送る勇気をお持ちの方だと知っています。」

マクレンジー帝国の事務補佐官という激務をしていたのだ、新しい国の事務は私のテリトリー、どんと来いである。

「ありがとう。」キースの頬が赤く見える。

明日の事で緊張しているとスーザンは思っていた。


政略結婚の妃が男と出て行ってから鰥夫(やもめ)が長く、いい人過ぎて女性から恋愛対象にみられないキース・リッチモンドが、スーザンからプロポーズされたと思っている、ということをスーザンが知るのはすぐのことだった。



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