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お妃さま誕生物語  作者: violet
本編
52/102

タッセル王国

第3王子は王が寵愛している側室の子だ、王妃の子供である第1王子より可愛いがられている。その第3王子が大怪我で帰国した。

「マクレンジー帝国に開戦だ!」

「父上、無謀だ。考え直してください。」

第1王子は債務期限が迫ってきてる中、事を荒げるよりは取引材料にしたいと思っている、取引できると思ってること自体あまいのだが、父王よりはましである。


タッセル王国では、王太子を第1王子と第3王子で争っていた。

国の代表としてマクレンジー帝国の戴冠式に第3王子が出席したことで、第1王子は歯がゆい思いをしていたのだ、それが大怪我で帰ってくるとは運が廻ってきた。

しかも皇妃に手を出そうとしたらしい、他国も見放している。

あの皇妃は知ってる、戴冠式にでて、もう一度会いたかった。


今が叩き潰すチャンスなのに言葉が出ない、息苦しいと第1王子が顔をあげると、同じ様に、父や侍従達が首を押さえている。

第3王子は泡を吹いて痙攣している。おかしい、何が起こっている?

あちらこちらから物を落とす音がする、ガラスの割れる音、人の倒れる音。



王宮の風上に男達が立っていた、顔も身体も鎧で外気に触れぬよう防護している姿は異様であった。

弓の先に小さな瓶をつけた矢を王宮に撃ち込んでいる、何本も何本も王宮の窓ガラスを突き破るように。

ビュンと空を切る弓の音が弓矢の速さを物語っている。

矢が窓硝子を割った衝撃で瓶も割れていた。

その日は風も強く、割れた瓶からは直ぐに内容物が空気に溶け込んでいるようだった。


キノコから抽出された成分が小瓶に詰められていた。昔から知られた毒であり、食した場合軽い痙攣症状と呼吸困難になるが、熱や空気に弱く加工にむかない毒とされていた。解毒剤として別のキノコがあるが、手元にないとどうしようもない。死には至らならないが苦しみが30分ほど続く、苦しみの長い毒なのだ。毒を他の植物と合わせ定着加工させ吸引することで、毒性が強くなり5分ほどで死亡すると実験結果がでている、と化学者は言っていた。

希少性の高いキノコであり作成の難しい毒なので、これで完成されている全ての毒だと渡された。化学者ってのは狂ってるぜと思う、どんな実験をしたんだか。

「不調はないか?」

他の隊員に話しかけるが、皆問題ないと答える。


この後、我らは何もしない、この国を見放すのだ。

鎧の騎士が見つめる先は、風の音しかしなくなった王宮。


我々の戦争は下級兵士達と対峙するようなものとは相違する。兵士同士が戦闘して何千、何万の兵士を殺戮し合って勝ちを獲る戦争ではない。

国の上層部、王家や執政幹部を抹殺する事で勝ちを獲る。

その数、何十か多くても数百の人間だ。

どちらが残酷なのであろうか、命の数が圧倒的に違うとしても、その後の影響は格段に違う。

執行部を失った国は、その後何万、何十万の死者を出す混乱になるかもしれない。

リヒトール・マクレンジーはその責を全て負う。だから我々は臣従するのだ。



鎧の騎士達が去った後、王宮で動く者はいなかった。王宮の周りでも風に乗った毒の粒子が、街を襲いたくさんの人が倒れた。人々は何が起こってるかわからず恐慌状態となり、街から逃げ出す者で街道は溢れ、情報は錯乱した。



やがて、王家が滅亡したとわかると、領地にいた貴族達の多くが王家に成り代わろうと領土の取り合いとなり内戦状態に陥った。


何年も続くそれは大地を荒れさせ、たくさんの犠牲と難民を生んだ。やがて隣国のルクティリア帝国とマクレンジー帝国属国レルバンに分割され併合されていくこととなる。



キーリエ王国もタッセル王国も王家は同じ様に滅んだが、大きな違いがある。キーリエは再生の道を、タッセルは完膚なく叩きのめされた。

決断をしたのは、リヒトールだがそこにはたくさんの思惑があった。

シーリアのリンゴはその一つであり、ジェファーソンもその一つである。

事件の後、すぐに逃げ帰ったタッセル王国に比べ、国民を思い主家を思い日参して地面に這いつくばり許しを願う騎士の姿に誰もが、その国に希望をみたのかもしれない。



千人もいなかったマクレンジー商会私兵隊が最強の軍隊と異名を取ったのは、各人が飛び抜けた武力があるのはもちろんだが、マクレンジー研究所という化学者、科学者、生物学者の集団が贅潤な資金を使った研究結果の兵器の使用があったからであろう。

ただし、研究所の兵器は精鋭兵でないと使用が難しいものが多い。小型爆弾しかりだ、安全装置を抜いた後、爆風を受けない距離まで投げられる者、敵の攻撃を避けながら処理できる者でないと危険な武器となる。

今や国軍となり、兵士数は他国に劣らなくなった。

だが、機密である研究所の最新兵器はマクレンジー私兵隊からあがった者にしか許可されていない。



シーリアはタッセル王国崩壊の報を受け、セルジオ王国での記憶を思い出していた。

それは16歳の頃だったろうか、王太子の婚約者として出席した夜会で舐めるような視線を感じた、そこにいたのはタッセル王国第1王子だった。

すぐに婚姻の申し込みがあったが、既にいる正妃を側妃にするので正妃としたいとのことだった。正妃も他国の姫で政略である以上簡単にはいくまい。そうなるとシーリアが側妃だ、第一シーリアは既に自国の王太子の婚約者である。

これには、セルジオ国王と宰相である父公爵が激怒した、タッセル王国に銅の輸出を禁止したのだ。

その直後に王宮からの帰り道で馬車が襲われ、シーリアが拐われそうになった。警備兵と通りすがりの留学生が賊を捕まえたが、背後関係を見つけることができなかった。タッセル王国が疑われたが確証を得られず、街で雇われたならず者としかわからなかった。

今ならわかる、あの留学生はリヒトール様が私に付けた護衛だ。だからリヒトール様はタッセル王家を許しはしなかった。

昔から都合よく考えるタッセル王家であった、痛い思いをするのは国民である。王とは、王妃とは何だろう。国民を守るという思いに驕ってはいけない、ということだけはわかる。



王家の替わりはあると、リヒトールが示している。



6/20文字修正

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