戴冠式
中立の湿原地帯は国名がモナ湿原地帯国になっております。
戴冠式に出席する各国からの馬車の列に、セルジオ王国のアラン王太子とフェルナンデス宰相補佐官が乗る馬車があった。
昨夜着いたため、皇帝には謁見できてない。馬車の窓から見るだけでも、国境から王都にいたるまで僅かな期間で整備されたとわかる。
皇帝とシーリアに会いたかったが、街道の渋滞に時間がかかった。
警備を含め、賓客それぞれが馬車や馬の隊列を組んでいる。それが戴冠式に合わせて集中しているのだ。
要所に配置されたマクレンジー帝国兵士の誘導がなければ、トラブルがあったであろう。
「どこまでも計算されているな、どれ程のブレーンがいるのか。」
「マクレンジー商会の人材教育というか、軍隊が有名でしたからね。」
「志願者だから元々意気込みが違う上に徹底した訓練と教育、生き残った者は報奨と登用。」
しかも国籍問わずだ、新たな国籍だって与えられる立場になった。軍以外に、学者などの専門家を招集した機関もあるという、そちらは公開されてないが。
ここで、シーリアは幸せなのか、何度も命を狙われたと聞く。
マクレンジーの勢いは止まらない、そのリスクが弱いシーリアに行かなければいいと思う。
いならぶ国賓、要人達の視線をうけ、赤い絨毯の道をマクレンジー帝国皇帝リヒトール・マクレンジーが歩んで行く。
厳粛な雰囲気の中を進むリヒトールの黒の軍服には、豪華な装飾が施されマントが翻る。
正面壇上の冠台には、新たに作られた帝冠が一つ。中央のダイヤは数年前にマクレンジー商会が競り落として有名になった巨大ダイヤだ。
その頃から準備されていたのかと納得せざるおえない。
そして、冠を与える教皇や大司教等の聖職者の姿はそこにはない。
壇上に立ち、リヒトールは帝冠を手に取ると自らの手で己に被せた。それはなんと豪胆な儀式、誰かから授かるのではなく、自らが覇権した証、マクレンジーの上に立つものは誰もいない、と顕示している。
「我、リヒトール・マクレンジー、マクレンジー帝国建国を宣言する。」
その瞬間、広間にいる側近を始めとするマクレンジー帝国兵士、執務官全てが胸に手をあて膝を折り礼をする。
国賓の中でも、前方に位置するギュバハル王国王太子、クリヨン王国王太子、モナ湿原地帯国総領事官、エメルダ連邦国代表が胸に手をあて礼をとった。属国でありマクレンジーを当主とするモナ湿原地帯国、属国に近いエメルダ連邦国は当然だが、前方の位置を不思議がられていたギュバハル、クリヨン両国の立場が明確となった。
それは荘厳な情景であった。煌めくクリスタルのシャンデリア、金彩で彩られた天井絵、ステンドグラス超しの光がこもれ落ちる中、一人の男に傅くたくさんの男達。
緊張した空気の中を歩んで来る者がいる。白い花びらのように揺れるドレスにはたくさんのダイヤが散りばめられ、白いマントは長いレーンをひいていた。 その輝きに負けない銀髪の美貌、誰もが目を奪われた。
美しい、その言葉しかなかった。
シーリアの歩みに合わせるかのように小さな花が撒かれ、ほんのり香る甘い香りが、幻想的でさえある。
シーリアはリヒトールの前にたどり着くと、膝を折り手を合わせ頭を下げた。
リヒトールはもう一つの繊細に作られた宝冠を手に取ると、
「シーリア・マクレンジーに皇帝妃の冠を与える。」
シーリアの頂きに被せ、手を取り立ち上がらせた。
膝をついていた者達が立ち上がり踵を鳴らし敬礼をする。
マクレンジー帝国建国の宣言が公認された。
皇帝夫妻は広間を辞すると正面広場を臨むテラスに立った、そこには溢れんばかりの民衆で埋め尽くされ、たくさんの警備の者達が潜んでいた。
噂の皇妃を一目見ようとした人々が多く、シーリアの動き一つで大きな歓声があがった。
そこは図太い神経の持ち主、ニッコリ笑ってサービスする。隣のリヒトールは手を振りもしない。
完全にシーリアの人気一人勝ち。
別にリヒトールは御披露目などどうでもよかったが、シーリア様の御披露目、という言葉に折れた。
横でシーリアが感動しているようなので、満足はしている。
白いドレスのシーリアは妖精のようだ、と柄にもなく思ってる自分の思考に驚いた。シーリアといると知らない自分を知っていく。
晴れやかなこの日を穏やかな気持ちで眺めているものばかりではない、例え不利だとわかっていても、国を思う気持ちは負けない者達が同じ空を見ていた。
それぞれが命を賭しての戦いがまた始まろうとしていた。
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