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お妃さま誕生物語  作者: violet
本編
45/102

静かなる戦争

今日はサーモンのキッシュ、我ながら上出来と鼻歌でもでてきそうな上機嫌でシーリアは執務室に向かっていた。



リヒトールの執務室は、戴冠式の準備と、債務期限が間近にせまった債務国との交渉に緊迫していた。


つまりは、マクレンジー商会から巨額借金を借り逃げしようとしていた国が、マクレンジー帝国になった為に借り逃げができず、債務期限が迫って四苦八苦しているということだ。


平民の商会になら、債務放棄をさせることも不可能ではないが、国になってしまっては、武力行使されてしまう。世界最強といわれる軍隊相手では、勝てる見込みが低いが、借金を返せないと乗っ取られてしまう、と慌てているらしい。

マクレンジー商会に借金している国どうしが連合を組んで対抗としようとしていた。

払えないのに借金を重ねたのだ、リヒトールの言葉によると頭の悪い国ということになる。

もちろん商会だってタダでは債務放棄しない、債務放棄させれると思っていること自体が間違っている。

国は表立って軍隊を動かせれるだけの違いにすぎない。

自国の平民にはそうしてきたのかもしれない、だから国の経済が衰退したのだ。


融資の返済が滞っている国、武器弾薬などの商品代金が未払いの国、形態は様々だか、マクレンジー商会に借金があるということになる。

最新の武器を購入しても、それを使える兵士がどれ程いるか疑問でさえある。売る時からわかってはいたが、商売とはそんなものだ。


小さい国どうし集まって大国になったつもりか、利権もあるし、指導者の考えも違う、すぐに分裂するというのは目に目得ている。

各国の兵士を足し算して数は、マクレンジー帝国兵士数を上間ったとしても、満足な訓練もしてない農民まで駆り出した兵士と、贅潤な資金のもとで戦闘特化の訓練をしてきた一騎当千の戦士ともいえる兵士、とでは違いすぎる。さらに元ヒステン国軍を取り込んでマクレンジー軍戦闘訓練にちかい訓練に強化させた、兵士数は万の単位になった。


経営破綻している国、債務超過に陥って小国の中には国家予算より債務が大きい国もある。

これから利息だけ払わせ続けさせるのも問題だな、リヒトールは思う。


税収入をあげるべく経営指導する国と潰す国、線引きは指導者たる王とその後継者の姿勢だな。

国を潰したら、何十万と難民、流民、死者がでるだろう、どれだけ潰そうか。

単純に潰しては採算が取れない、どうやって潰そうか。

面白そうな国はあるか、直接国境を接してないので軍隊派遣には経由国をどこにするか、思案を巡らせる。


まずは対象国に債務放棄の意志なしの警告書で反応をみるか、どうでる?


マクレンジー商会の会長として、たくさんの王と謁見してきた。それで全てが解るわけではないが、連合に加盟しなかったクリヨン王国の王は大丈夫だろう。あそこは冷害と風土病の流行で商会の資金融資に頼ったのだ、化学班と生物学班を廻す準備をさせよう。まじめな農産国家だ、きっかけがあれば再建も早かろう。


保護する国と崩壊させる国、他の国の反応はどうでるか、楽しみだとリヒトールがクスッと笑う。

それは誰がみても、どす黒いオーラがでていて、部屋の温度が2度も3度も下がるようだった。


「戦争開始だな。」

リヒトールの声に周りが緊張する、

「経済は常に戦争だということを思い知らせてやろう。」

経済戦争だと暗に告げる。

例え、平民だろうと商売人に踏み倒しはできないのだよ、傀儡にされた方がよかったと思わせてやる。


採算を考慮して融資をしてる、その条件を変えたのは借り入れ国の方だ。思い知るがいい、武力によるものだけが、戦争ではない。

武力戦争と違って、この時から戦争が始まった、対戦国に知られることなく静かに動き始めた。

執務室にいるもの全てが、対象国の更なる情報収集に動き出した。


怖ろしく張り詰めた空気を読まない声が響いた。

「そろそろお昼の休憩はいかがかしら。」

シーリアが隣の部屋から顔を覗かせていた、返事を待たずにリヒトールの横に行くとランチバスケットを取り出した。

クックッとリヒトールが笑って言った、

「わざとらしい。」

「バレましたか。」フフフとシーリアが笑う。

空気を読まないじゃなく、読んだんですか。この緊張の中で空気を変えるのが貴女の仕事である、と周りは納得する。

「気分転換した方が仕事がはかどりましてよ。」

もうすでにバスケットを開いている。


「クリヨン王国は知ってるか?」

リヒトールがシーリアを横に座らせながら聞いた。

「隣国でしたから、勉強しましたわ。」

キッシュがちょっと焦げちゃって、とバスケットから取り出した。

「王太子の婚約者だったので、クリヨン国大使から花柄の布を頂いたことがあります。柄になった花を取り寄せたのですが、弱いらしく届いた時には痛んでました。でも、とてもいい香りでしたの。その花の香料を、探したけどありませんでしたわ。」

リヒトールは書類を片手にキッシュを食べ始める、相変わらず普通に旨いと思いながら。


「この中にクリヨン出身はいるか?」

マクレンジー私兵隊には各国から集まるので、私兵隊からの伸し上がりで固められた執務室には各国の出身者がいる。


「はい、私が。その花はランカスという花と思われます。香りのいい花ですが、弱く加工にむかないのです。」

執務室に引き上げられる程の人物だ、言われなくても要求に答える。

「そこら中に咲いていてクリヨンの民族衣装の図柄になっており、その布を献上したと推測いたします。」


「パトリック、化学班を連れてクリヨンに行け。」

それだけで全てを察したと、クリヨン出身の執政官パトリック・モローはクリヨン駐在マクレンジー帝国大使に連絡を始めた。

「陛下、同じく弱いために他国に持ち出せませんが、肌の湿疹に使われる草があります。」

「クリヨン現地での裁可の権利を与えよう、クリヨンを復活させろ。」

パトリックがリヒトールに向かい、胸に手をあて膝を折り決意した目をする「必ずや。」



大量の花から、ほんのわずかしか抽出できないランカスの香水は、数か月後シーリアに献上された。

薄く甘い香りは他に似た香りがなく、人々の憧れとなり、1オンスの香水が金塊と取引されるようになるのはすぐのことであった。


クリヨン王国は支援国として認可されたと周知され、他国と一線を辞すことになる。



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