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お妃さま誕生物語  作者: violet
本編
42/102

祭り

街は花の祭りで人々が集まってる。

お祭りの音、ダンスの音楽、人々の喧騒が離れた王宮にも聞こえてくる。


シーリアは、窓辺に近いソファーに座っていた。

頭の中は、妄想リヒト様とお祭りデート中だ。

自然と微笑みがあふれでる、侍女達は女神の微笑みを堪能していた、残念な妄想の結果とはわからずに。


手を繋いでお祭りの屋台を回る、お祭りに出掛けたことがないので屋台を設定しても内容の創造が出来ないが、そこは飛ばしてデート続行。噴水広場で躍りの輪に混じる。

噴水広場も躍りの輪もあるのか知らないが、脳内設定では必要事項だ。二人で見つめ目あって、ああ心臓が破裂しそう。

ヒマなシーリアはリヒト様と脳内デートにいそしんでる。


「お祭りに行きたいわ。」

思わず言葉が漏れた、脳内デートの延長の言葉だ。

決して本気の思いではない。


反応したのは周りだ、やはり若いシーリア様はお祭りに行きたいのだ、と。

かわいそうに、リヒトール様は決して許さないだろうし、リヒトール様はお祭りに興味がないにちがいない。

それは正しく当たっているのだが、シーリア自身は脳内デートで楽しんでいるので、お祭りに行かなくっても問題ない。



「シーリアが?」

リヒトールは報告を受けて、少し考えた。

祭りのどこがいいのかわからない、屋台の食べ物は普段より高い、治安は悪くなる、高揚する雰囲気か。

祭りに行かせることはできないが、祭りを持ってこさせればいい。

毎日、祭りがあればいいのだ、城下の不安分子は淘汰された、日程と警備を組めば連れていけるだろう。


「街に商店のストリートを作る、大規模店舗ではなく、小売店や屋台で祭りのような煌びやかさがあるストリートだ。」


商売はマクレンジー商会の得意分野ですぐに手配された。

街の区画整備とともに、小売店は集められ、食料品から衣類、宝石までありとあらゆるものが集められ、怪しげな占い屋や、古物商など、祭りにしかでない店も常設された。

巨大であっても個人商会ではできなかった街の開発という分野は、国としてなら容易にできるようになった、そして治安維持も軍を投入するという国ならば当然のことができるのだ。


バザールと呼ばれる大型ストリートとなり、人気を呼ぶのに時間はかからなかった。他国からも買いつけが来るようになると、売買されるものはさらに増えた。武器や情報までもが売られるようになり、大道芸人や吟遊詩人が多く集まって来てさらに情報が集まった。

たくさんの人が来るので、同じ業種の店でも競うように出店した。それが価格競争や、品質上昇になり、人気に拍車をかけた。


街の宿屋や飯屋は規模を大きくし、その工事はマクレンジーの資金を使った街の下水などのインフラ工事と相まって美しい街を作る。

そしてそれもが人を集め、マクレンジー帝国を潤した。


街の活性化は住民の生活を安定させ、地方にも派生した。クーデター直後の危ない国のイメージはバザールの成功で払拭された。


各国にあったマクレンジー商会の支店はマクレンジー帝国大使館となり、戴冠式の頃には出席する要人からバザールの視察を申し込まれることが多くなった。



「祭りに行きたがってたのに、人出が多くなりすぎた、連れて行ってやれないな。」

リヒトール様が私を抱きしめて言った。

いつの間にそんな話が、と思ったけどアレか、記憶にあるような。ちょっとサービスしてやるか、にっこり微笑んで、

「いつか連れて行ってくださいまし、リヒト様とお出かけしたかっただけなの、どこでもいいのです。」

お妃教育で身に付けた演技力!どやと心の中に隠していると、鼻をつままれた。

「何を企んでる。」

「あらバレてる。」

あーははは、リヒト様が笑っている。

「みんなの希望どうりの皇妃をしてみました。」

「そんなものいらない、私だけのものだから。」

リヒトール様に抱きついた。

「リヒト様とデートしたかってのは本当よ。したことないんですもの、リヒト様といろんな経験したいの。」

「私もしたことないよ、二人で体験してみようか。」

シーリアの感覚は理解できないが、喜ばせたいとは思う。私と出かけたかったのか、かわいいな。



私は、普通の脳ミソで生まれた。人並み外れた外見は子供の頃から天使だ、妖精だと騒がれ期待されたが、脳ミソは普通、努力はするが、無理がある。

天使だからこんなものすぐできると当然のように思われ、重圧をかけられる。

周りに見栄えが良くて、できのよい兄と王太子のアランがいるから、尚更だ、同じようにはできない。

決して悪いできではない、でも1を聞いたら1か2ぐらいしかわからない。

自分のデキが普通であるとここで悟った。何度もくじけた、幼児のくせに挫折という体験を何度もした。自分にできないことを、私に求めるな、と心の中で何度も呪った。

愛情あるお小言はしょっちゅうだった。お兄様は1ケ月でできました、とか、王太子様の外国語の発音はすばらしいとか、まともに聞いていたら何度も禿げると思った。

そして、外見のフル活用と図太さが身に付いたらしい。


それにしても、お祭りか、言った記憶がある。もしかして、騒動になっていたのかな。

やはり、寡黙な女神様仕様が一番いい、みんな勝手に想像してくれるし、楽チンできる。

大人に囲まれて育つと、同年代の友達などなく、一人遊びは自然に身に付いた。舞踏会のエスコートは兄かアランだったので誰も近づいてこない。引き立て役はごめんだ、とか言われた。

お友達はいないけど相思相愛の夫ができた、十分である。


でも、リヒト様が言ったではないか、いつか本当のデートが出来るかもしれない!

嬉くって頬が緩んでしまう、女神様が崩れる。

「ずっと側にいてくださいね。」


いつものにっこりではない、溢れんばかりの笑顔だ。どこまでも私を溺れさせる、他の人間には見せない顔、私だけのものだ、リヒトールの抱きしめる手が強まる。

「私から離れることは許さないからな。」


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