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お妃さま誕生物語  作者: violet
本編
39/102

機動

ケガをした兵士達の多くは、現場に復帰した。

時が流れて行く、たくさんの出来事が過去に変わりつつある。


リヒトールは北部地方の偵察から戻った報告を受けていた。

「水源地を中心に湿原が大きく広がっています。この地方特有の動植物も多く見かけられました。

ただ、蚊などの昆虫が多く、生活は不便な地域であると見受けられました。

現地ではリリーという植物が蚊などの昆虫よけに使われており、刺された時はプルンという植物をすり潰して患部に塗っておりました。」

調査にあたった要人警護2部隊が揃って報告をしていた。

「ほぉ、それは?」

リヒトは思いもしなかった結果に興味がわく。


「採取して持ち帰っております、鉢植えと乾燥した両方で。両方ともこの地域特有の植物です。」

「ダーレン、化学班はこちらにラボの移動が終わっているか?」

「はい、すぐに成分調査にまわします、それと現地に生物学者を向かわせ、人工栽培が可能か調べさせます。」


「水源の方ですが、山脈それぞれの山にあるらしく、水量は安定していると言えます。ヤムズ大河になった後の下流近辺国で氾濫などが起きるのも、現地の堤防設備と、中流近辺国での土砂混入などが大きな原因に見受けられます。水源の水量が不安定で起こるものではないようです。」

「大型商船の上流遡上は問題なさそうだな。」


「陛下、意見をよろしいでしょうか。」

調査隊の一人が声をあげた。

「もちろんだ、何があった?」

「湿原は類を見ない植物の花が咲き乱れ、空気は澄み、水は透き通ってました。今は不便なところですが、交通が確保されれば、世界有数の保養地になりえると思われます。」

「世界有数のか?」

「私達全員が警護で行ったどの国よりも、ということです。」


リヒトールはしばらく考えて顔をあげた。

「ウィリアム、調査予算を立ててくれ、道路と宿泊施設と自然保護のだ。大規模プロジェクトになる。

要人警護第2はそのまま、プロジェクト担当となり、ウィリアムの指示下に入れ、必要人員を確保して開始せよ。」

要人警護部隊は、マクレンジー私兵隊で高い戦闘能力だけでなく、外国語、教育分野を終了したものだけが入れる特殊部隊で、私兵隊の精鋭部隊でもあった。各国のマクレンジー商会に派遣され、幹部、要人達の警護で仕事を近くで見てきた。実務を体験してきたといえる経験者も多い。要人警護部隊は、幹部への登竜門なのである。

この部隊出身の幹部は警護を知っているので、警護しやすいし、本人に戦闘能力がある。


ヤムズ大河は、毎年のように氾濫を繰り返し、これをコントロールできれば、大河周辺国の、主権と大きな利益につながる。ダムか、用水路どちらの方が有効か、水源が安定してるなら他要因の除去と安全な水路確保だな。


大河の通行権の設定など、国だからこそできる、なかなか面白い。


湿原に連れて行ってやろう、虫の問題が片付いたならとの条件があるが。観光に力を入れるには安全保障がいるな、戦争はほどほどにして、裏で操ろう。

今までと違って、使う人間があるってのは大きい、街の造成規模とイメージが一瞬でわかる。

富裕層が対象になるから、社交場と会議場としても使えるし、湿原と安全を守る為との名目で中立地帯と宣言すれば、極秘会合に使えそうだ。

城壁を張り巡らせ、湿原を中心とした要塞にすれば戦争回避地帯とできるであろう。


武器販売をその水面下に隠せばやりやすいそうだ。

新しい銃のテストを造成地帯ですれば、音も隠蔽できる、まずは輸送経路を整備しよう。


他国同士で戦争し潰しあってもらおう。

シーリアに巨大帝国をプレゼントしてやろう。



マクレンジー帝国内部では、大規模な人事変更が行われた、旧アルハン領に大量人員が増員された結果、各国からも諜報員が投入されたが、持ち帰るのは湿原の情報のみであった。

そんなタイミングを見計らったかのように、湿原地帯が属国としての独立と中立宣言がなされた。

リヒトールを主君とする属国であるので、領土と変わらないが、中立であるため戦争時も本国と違い、外国人の扱いを変えることはないことになる。



「皆さん、お気をつけて。」

シーリアは旧アルハン領に旅立つ、戦争未亡人や障害が残った兵士達の見送りに来ていた。

未亡人達は救護棟の手伝いをすることによって、生きる希望や意義を見つけ出すことができたものが多かった。

クーデターが落ち着いた頃に、彼らの生活の術をリヒトールに相談したのだ。

戦争を放棄した中立地帯を各国は、疑問視していたが、大量に送り込まれた、女性や障害者に納得せざるおえなかった。

彼らは、新しくできる宿泊施設や湿原の管理で働くことになるので、準備段階から現地に投入され、工事進行に大きな力となった。




湿原から持ち帰ったプルンには、驚くべき効果が見受けられた。痒みを緩和するだけでなく、痛みも緩和するのだ、これは医療現場だけでなく、戦場で使えると報告があがっていた。

麻酔のように意識がなくなる訳ではないので、傷を負っても、痛感を無くすことで負傷したと気づかなく、死ぬまで戦場で戦い続けるということになる。負傷しても戦力として残るということだ。


後に悪魔の薬と呼ばれる薬は、マクレンジー帝国のみで精製され、材料も製造方法も最高機密である。

かゆみ止めとして廉価で販売され、貴族平民問わず重宝されている薬の材料が、湿原で大量栽培され美しい花を人々に楽しませてる植物というのは有名であるが、悪魔の薬の材料でもあるとは関係者以外誰も知らない。


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