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お妃さま誕生物語  作者: violet
本編
34/102

リチャード・ヒステン

ちょっと悲しい物語です

セルジオ王宮に呼び出され、ヒステン王国がなくなったことを聞いた。

僕はヒステン王国の第3王子、セルジオ王国に留学中に母国にクーデターが起こり、国がなくなった。


父も母も兄ももういない、次は僕の番だと。

言葉もでなかった、それは恐怖からか、悲しみからか、自分でもわからない。


セルジオ国王より、しばらくは安全の為に王宮に留まり、留学を続けるか決めるように言われた。

留学を続けようにも僕に財産らしい財産はなく、この国の国費留学生となるほどの学力もない。

第3王子というのは、王太子のスペアでもなく、スペアのスペアだ、王太子程期待されることもなく、不可でさえなければよかった。

しかも父にはたくさんの寵妃がいて、たくさんの子供がいた、長兄と王太子を争う覚悟もなく、目立たないようにした。

これから、自分の人生を考えないといけない、リヒトール・マクレンジーは僕の存在を許さないだろう、それぐらいはわかる。



「アラン、お話があります。少し時間を、そして人払いを。」

「フェルナンデス、穏やかでないね。」

アランは、侍従を下げるとフェルナンデスを執務室のソファーに案内した。

「リチャード王子が部屋から出てこない、食事もほとんど取っていない。」

「それは、ショックが大きかったから、落ち着くまで時間がかかるだろう。」

「違う、絵を描いているんだ。

命のような絵だよ、僕はリチャードを逃がそうと思ってる。」

「マクレンジー帝国は許さないだろう。セルジオ王宮にいるから、堂々と殺しに来ないだけで、街にでれば、守ることが難しい。」

「リチャードはここで死んでいいような画家ではない、絵に命がやどっている。」

アランもフェルナンデスもリチャードの存在意味をわかっている、旧王族がどんなに危ない存在であるかを、リヒトールの立場であったなら、許せないだろう。だが、この国で殺させるわけにはいかない。




アラン王太子とフェルナンデス宰相補佐官が、僕の絵を見てる。

子供の頃から絵を描くのが好きだった。こっそり描いていたが、留学するということで堂々と描けるようになった、指導を受けたこともないので全くの我流だ。


「リチャードすばらしい、他にもあるのか?」

「留学していた学校の寮の部屋にあるよ。」

僕には、僕の絵の良さはわからない、描かずにはいられないだけだ、勉強も武術も大してできなかったけど、絵だけは熱中した。

もういつ死ぬかわからないと思うと、寝るのさえおしいんだ、まだ描き足りない。


「もし、僕が死んだら、この絵を残してもらっていいかな?」

王太子も宰相補佐官も、僕を逃がしてくれるというけど、逃げてどこに行くというのか。

僕は、王子以外で生きる術をしらない。生きていくにはお金だけでなく、いろんなものがいるんだ、僕には何もない。


絵を描くことだけで生活できるとは思ってない、でも、絵を描けないならどこでも同じなんだ。

花畑の絵を描きたいから、そこには行きたいとは思う。

きっと行くことはかなわないだろう、僕が死んでも絵が残る、だから僕が居たことを残したいんだ。




リチャード・ヒステンは出来上がった絵を額装にするために、街に出かけた時に亡くなった。

辻馬車の暴走から逃げきれなかった、不眠、食事もろくに食べずに絵を描いていたリチャードには、機敏に反応することが出来なかった。

アランもフェルナンデスも彼が街に出たことを知らなかった。何故一人で出かけたのか、絵の完成が彼の中で何を意味したのか、誰にもわからない。

殺されたのか、事故だったのかもわからない。





「これが遺作か、すばらしい絵だ。」

リヒトールはセルジオ王国から送られてきた絵に見入った。

「おしい画家をなくしたと私もわかっているよ。

この世に無くしていい命はないんだよ、だから、この先、反乱組織の旗印になって、たくさんの命がなくなる憂いはつまないといけないんだ。

そして、私も覚悟しているよ、いつもね。」


このクーデターは、ブリューダルの革命のように生きる術が、それしかなかった状態ではない。

エメルダ連邦国でも打倒革命軍を叫ぶ元貴族達の動きがある。

連邦国でも、この国でも生き残りの王族とこれからできる子孫は不安分子でしかない。

不安の可能性は潰さないといけない、シーリアのために。

側近達だけが、リヒトールのつぶやきを聞いていた。


「シーリアの国はここだ、関係のない国に配慮はいらない、お互いにね。」

皇妃の出自不明とするのが、一番安全なのだ、もし家族を盾にとられでもしたらシーリアは平穏ではいられまい。もちろん、そんなことをさせる公爵家ではないと信頼はしてるさ。


シーリアを守るために閉じ込めるような、母のような生活をさせたくはないが、私しかいない世界に閉じ込めたいとは思っているよ、いつも。


だが、セルジオ王国の姫という後ろ盾が必要になる時も来るだろう、来なければいいと思ってはいるが。




シーリアはリヒトールから贈られた絵を飾り、その元で長い時間泣いていたという。

もうこの世にいない画家の冥福を祈って。



誰も彼が何を思ったのかは知らない。彼の絵を見て、それぞれ感じることは同じかもしれないし、違うかもしれない。

ただ、そこには彼の命を写し取ったような色鮮やかな絵が残った。

6/2文字修正

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