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異世界魔王のダンジョン奮闘記  作者: 敗者のキモチ
異世界ダンジョンは遠い
19/29

迷宮の核[リア]

本日二話投稿してます。前話を見ていない方はそちらからどうぞ。

今回、長めです。

 そこから先は、圧倒的なまでに一方的だった。防戦一方だった戦いは強化薬シリーズによって立場を逆転させ、俺達は攻勢に出た。といっても俺は最後に命令しただけなんだが‥‥‥…


『レベルが19に上昇しました』


 とにもかくにも勝った訳なんだが、今俺の手にはどういう訳か折れた刀ではなく丸い水晶玉があった。


「全級鑑定」



────────────────────

迷宮の核 (レジェンド)

 ダンジョン[遮刀の迷宮]のコア。現在ダンジョンの主が倒されたためご主人様募集中

────────────────────



 今回は妨害を受ける事なく鑑定できた。


 にしても‥‥‥何だこの彼氏募集中みたいな説明文。そもそも使うにはどうすれば‥‥‥と思ったらウィンドウが出てきた。


『[迷宮の核]を入手しました。ダンジョンマスターとして機動しますか? YES/NO』


「NO、でお願いします」


 今ここで使うのは不安が残る。もっと詳しい使い方みたいなのがあればいいが‥‥‥‥ヘルプにあるかな?


 ステータスウィンドウを開いてヘルプ項目に検索をかける‥‥‥あった。


 ダンジョンマスターってのはダンジョンを管理する事ができる者で、ダンジョンポイントを用いてダンジョンを運営するそうだ。ダンジョンポイントってのはダンジョンに侵入してきた生物を殺傷した時に手に入るポイントなのだとか。


 他にも色々説明はあったが割愛する。何にしても、出来る事は広がりそうだし、実際、俺みたいな魔王にとって迷宮の入手は相当なアドバンテージになるだろう。それに、ダンジョンマスターになることでプラス要素は多様に感じられるがマイナス要素は特に見当たらない。


『[迷宮の核]を入手しました。ダンジョンマスターとして機動しますか? YES/NO』


 再度[迷宮の核]に向き直ると、先程と同じメッセージウィンドウが展開される。俺は一瞬の逡巡の後、[YES]の文字をタップした。


『ダンジョンマスターの機動意思を確認。[迷宮]を再起動します。再起動により迷宮の初期化が可能ですが、フィールド及びモンスターを初期化しますか? YES/NO 補足:初期化で戻った増築部はダンジョンポイントに変換されます』


 これはまだ実行しない。まだダンジョン内にはウーナとスケルトンがいるからだ。ついでに友香も。このままフィールドを初期化なんてしたら何が起きるか解らない。俺は開かれたウィンドウをそのままにして、早くもダンジョンコアである水晶を使う。


(配下であれば、確かダンジョン内で転移させることが可能な筈だ)


 ヘルプで確認した通りに水晶に念じると、通路で壁に寄り掛かるウーナとスケルトンが確認出来た。


「ウーナのみをダンジョンの入口まで、スケルトンはこの部屋に転移。実行」


 転瞬、通路にいたウーナが姿を消し、ダンジョン内からも反応が消える。またそれと同時、背後にスケルトンが現れた。


「カタカタカタ!」


「命令する。『分身、元に戻れ』」


 転移させてすぐ。強化霊魂に元に戻るよう命ずる。赤い鬼骨から霊魂が分離されると。その場に赤い鬼火のような霊魂が浮かび上がって鬼骨が力無く崩れた。


(霊魂の色が変わってる‥‥‥強化の影響か?)


 俺の思考を余所に、元のスケルトンの中に鬼火が入って行く。するとただの白骨だった物がみるみるうちに赤い鬼骨のそれへと変貌した。


 なるほど、憑依された物は鬼化するということか。見ればさっきまで鬼骨だった物はただの白骨へと成り果てている。離れれば元に戻るみたいだ。


(俺に憑かせたらどうなるんだろうな? ‥‥‥まあ、怖いからやらないが)


 まあそれはいつか挑戦するとして、問題は友香だ。


 もう無視してそのまま初期化してしまおうか? いやしかし、腐っても勇者だ。貴重な情報源であることに変わりはない。でももう聞ける事は聞いたし‥‥‥聞き漏らしがある可能性は? やはり世界事情を理解している奴が側にいた方がいいのではないか?


「‥‥‥仕方ない、人間をこの部屋に転移、それからフィールドの初期化を行う。スケルトン、ここに人間が転移してくるから捕らえてくれ。実行」


 実行の言葉と共に、剣を持った人間が出現する。突然の出来事に唖然とした表情をする彼女は友香だ。即座にスケルトンが動いて友香を羽交い締めにして、押さえ付ける。


「んなっ! 何よ! 何なのよ!」


 捕らえられた友香が何事か喚き散らすが、今はそれ所ではない。周囲を見れば、既に初期化が始まっていた。


 バキッバキバキッベキベキゴキッ!


 奇怪で耳障りな音を発しながら、先程まで見えていた通路が閉じられて、上に行く階段も消失する。周辺各所で種々雑多な音が響き合い頭痛を引き起こしそうになるも、奇怪な音は直ぐに止んだ。そして立て続けに、今度は部屋自体が地響きを鳴らしながら上昇して行く。


「な、何!? 何が起こってるの!」


「うるさいな、少し黙ってくれないか?」


「って魔王アンタ! またアンタの仕業なの!?」


 ああもう、なんだってコイツはこんなにも騒がしいんだ。


「こんな事して私をどうするつもりなの!? もう嫌よ、家に帰りたいよぉ!」


「スケルトン、ちょっと黙らせろ」


 友香の口がスケルトンの骨手で閉じられ、呻き声が響くようになる。そうこうしている内に部屋の移動が終わった様で、背後の壁には地上へ出るための階段が出現していた。


「ま、魔王様! 何があったんですの?」


 タンタンと段差を降りる音が聞こえると、顔色の良くなったウーナが上から降りて来た。どうやらもう回復したみたいだ。ディーナの側にいけば直ぐに治るんだな。


「うわぁ、なんだかまた。面白そうな事になってるね」


「ん‥‥‥ベル、おかえりなさい」


 続けてディーナとスゥちゃんも降りてくる。なんだか久々に会う感じだ。


「ただいまスゥちゃん。ところでディーナは問題なかったのか?」


「うん、ボクは姉さんとの繋がりが薄れてすぐに、スゥちゃんに取り込んで貰ったから、魔力漏れはしなかったよ」


 よくわからんがナイスだスゥちゃん。というかあれは魔力漏れだったのか。


「ウーナももう問題無いか?」


「はい、大丈夫ですわ。それより、御心配おかけして申し訳ありませんでしたわ」


「いいよ、俺も気づいてやれなくてすまなかった」


「いえ、私こそ隠していましたので。それより、何があったんですの?」


 ああ、説明しないといけないよな。


 俺はどう説明したものかと思い悩み、少し前の記憶に思いを馳せる。


「実は────」


『あー! はいはいはい! それ私が話しまーす! かっこよかったんですよぉ、マイマスター!』


 俺が口を開いた所で、ソプラノ調の高い声が部屋に響いた。


『いやはや最初は数十年ぶりの侵入者にただ単にビックリしただけだったんですけど、調べてみるとなんと魔王様! 私、ビックリしすぎて最深部まで招き入れちゃいました! そしたら何と! 迷宮一帯の魂を掌握しちゃうし変な骸骨出すし! しまいには私の思惑通りダンジョンマスターだった遮刀まで倒してくれたんですよぉ!』


 全員の視線が俺の手元にある水晶。つまりダンジョンコアに向けられる。声の元は明らかにこの水晶からだった。


『あ、ゴメンなさい。イキナリじゃ混乱しますよね。ではでは! 自己紹介から始めたいと思うので‥‥‥マスター、ちょっと私を地面に置いてもらえますか?』


「お、おう……」


 内容からして、マスターというのは俺の事だろう。


 俺は水晶をそっと地面に置くと、距離をとって身構える。他の皆も、捕まっている友香以外は俺と同じように水晶から距離をとった。


『それでは、行っきまーす! ババーン!』


 不器用な効果音と共に室内に閃光が走る。それは一瞬の出来事で、しかしその一瞬の後には、水晶は跡形も無くなっていた。


『ハイハーイ! 私、コアナンバー3のリアと申します! この度はマスターの従順なダンジョンコアとして誕生しました! よろしくお願いします!』


 その代わりとばかりに現れたのは、透き通るような銀に輝く髪をもつ17、8歳位の女の子。

 元気な声に、好奇心に満ちた水晶の如き瞳、背中までストレートに伸びる髪も、毛先がピョンと跳ねていて愉快な印象を受ける。


‥‥‥‥何だこの活発そうな女の子は。


「な、ななな、なんですの? この少女は‥‥‥‥」


 誰もが唖然と見守る中、ウーナが思わずといった感じで言う。きっと、皆同じことを考えているだろう。


「‥‥‥俺にも解らん」


 ヘルプにこんな事書いてあったか? いや、書いてなかった筈だ。咄嗟にヘルプに検索をかけるも、それらしいものは見当たらない。

 検索している間に、リアと名乗った女の子が擦り寄って来た。


『ね、ね、マスター! どんなダンジョン造ります? 私達の愛を育める素敵なダンジョンを造りましょうね! 嗚呼! 楽しみです!』


「はぁ!?」


 突然の物言いに俺は素っ頓狂な声を挙げるも、女の子は俺の腕を取って上目づかいで甘えてくる。薄いがそれなりにある胸が俺の腕に押し付けられ、俺の中のとあるゲージは一気にオーバーヒート直前まで押し上げられた。


「は、離せ!」


 バッ! と腕を引きはがして、すかさず距離をとる。


(何だ? 何なんだコイツは! ぜ、ぜぜぜ全級鑑定!)



────────────────────

迷宮の核 (レジェンド)

 というのは仮の姿。真の姿は可憐で清楚な可愛いリアちゃん! マスターも夢中の罪な───

────────────────────



「ダウト!」


 思わず最後まで見ずに叫んでしまった。


『あ、マイマスター。今私の事鑑定しましたよね! ふふん、どうですかマスター! これが私の真の姿です!』


 リアが何か言っているが、それどころではなく耳に入ってこない。言いながら詰め寄ってくるリアに俺はある種の恐怖を抱いていた。そして後ずさる俺の前に、心強い味方が現れる。ウーナとスゥちゃんだ。


「さっきから黙って見ていれば、あなた、魔王様が困っているのが解りませんの!?」


「ん、ベルはスゥのプニプニに魅了されてる。お前のつけ入る隙は無い‥‥‥‥!」


 ちょっとスゥちゃんが何言ってるのか理解し兼ねるが、少々お怒りの様なので何も言わないでおく。それに何より助けられたのは事実だ。


『おや? この迷宮で私に逆らって勝てるとでも? ふふふ、待ってて下さいねマスター! すぐに駆け付けます!』


「ここは通しませんわ!」


「ん、通さない‥‥‥!」


 通りたければ私を倒せとばかりに息巻く二人を、とても頼りに思う。スライムなのに頼りがいがあるのは色々疑問だが。気にしたら負けだ。

 しかし次の瞬間、リアは突然俺の前に現れた。


「は!? な、何が───!」


「魔王様!」


「ベル‥‥‥!」


『忘れちゃったんですか? 迷宮内ならどこでも転移できるんですよ! つ・ま・り! 私達はいつでも会えるんです!』


「あ、あぁあぁぁ‥‥‥‥」


(間違いない、コイツは‥‥‥コイツは本当にこの迷宮の核だ!)


 鑑定の結果と今の転移から、疑いを確信へと変える。


『ね、ね、マスター! 一緒に大きなダンジョン創りましょうね! 誰にも邪魔されないように!』


「離せ! 離せぇえぇええぇぇえぇ!」


「何なんですの!? 何なんですの!? もう! 離れなさい!」


「ん、ベルを返して‥‥‥!」


『あら? 女なら奪ってみせてくださいよぅ!』


「こんっの! 乱れ狂う激流よ、敵を穿て!」


「望むところ‥‥‥!」


 ウーナがリアに向けて水弾を放ち、スゥちゃんが俺の顔面に向けてジャンプしてくる。誤射された水弾に体を打たれながら、俺は現実逃避気味に思考を放棄した。


 ‥‥‥‥ああ、そういえばクエストの報酬まだ受けとってなかったな。


 やるべき事は多そうだ。

おはようからこんばんわまでどーもです!

ランキング入りを記念して、はぐれ勇者さんがウーナの挿絵を描いて下さりました!はぐれ勇者さん、ありがとうございます!

絵はランキングタグの方に載せてあります!


また、日間ランキング11位になりました!

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