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14 手をかけた分だけ スラッシュキルト編

登場人物


スズキ氏

老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。

完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。


サトー氏

「□O:△O」のプロダクションコントロール。

忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。


タカハシ

「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。

自尊心の低さなら誰にも負けない。

本作の主人公。

 サトー氏の手配ミスによってしばらく届かないらしいスラッシュキルト専用のカッターを待つ間、とりあえず生地のセッティングとステッチ(縫い目)入れだけでもしていこうということになった。


「良い感じに柄生地配置したいんだけどどうしたら良いかな?」

 スズキ氏がリ○ティのハギレ生地をいじりながら悩んでいる。

「とりあえず大小とかの丸にしてみたら? 適当に型紙作ってさ」

 わたしはコピー用紙の裏紙を六回ほど折り、適当にハサミで切り抜いた。

「こんな感じで型紙作れば簡単じゃん?」

 博学のスズキ氏なのでもちろん知っているかと思っていたが、意外とそうでもなかったらしい。

「おお~」と感激している。

「これで生地を重ねて切ればすぐ出来るし」

 スズキ氏にローラーカッターを渡すと慣れない手つきで切り始める。

「え、大丈夫?」

「何が?」

 その手つき、かなり際どい。しかもうまく円のカーブを切れていない。

「ちょ、待て。変わる」

「ん? うん」

「カーブはこうやってカッターを傾けた方がやり易いんだよ」

 円の半分を切ってから体勢を変えてもう半分を切る。

「へえ!」

 知らなかったー! みたいな反応にわたしはぎょっとする。

 そのとき、ふと思い出した。以前、サトー氏が言っていたことだ。

「スズキはかなりなぶきっちょさんだよ」

 そのときは特別気にも止めていなかった。

 定年まで縫製工場に勤めていた人だって自分のこと不器用だとか言っている人はいたし、さすがにそんな深刻なことではないと思っていたのだ。

 が、しかし! 先ほどの手付きを見るからに、これはかなり深刻かもしれない。

 と思いながら「不器用?」とは聞けなかった。


「で、どうする?」

 大小に切り抜いた丸をランダムに配置したもを前に、首をかしげる。

 大きさは五十センチ四方と言ったところか。

 なにかで止めておかないとせっかく配した柄生地が動いてしまう。

 縫製工場でありながら製品に混入するのを防ぐため、まち針といった類いのものは現場では使わない。

 と、なると。

「糊で止める?」

 ふと思い出した。デンプン糊なら確か現場でも使っていたはず。

「そんなのあるの?」

「ある。ちょっと作ってくる」


 用意したデンプン糊で生地を止め付ける作業をスズキ氏に任せてみる。

 なぜなら「自分でやる」と言ったからだ。

筆で緩く溶いたデンプン糊を生地にのせていけば良いのだか…………、マジか。

 スズキ氏は豪快に筆に糊をすくって、どーんと生地に乗せ始めた。それはまるで情熱的な芸術家のそれ。

 え? さすがに常人でそれはないだろうと思えるくらいの豪快さだ。マジか。

 とりあえず任せたのだから無下に止めさせるのは良くない。

 とりあえず笑顔で対応。


 糊工程が終わってから、作業はわたしにバトンタッチ。

 バイアス方向にひたすらステッチを入れていく。

 勢い良く縫いすぎてボビンが熱を持っていた。一時間ほどかけてステッチ入れを完了させる。

 さて、次の工程はひたすらにステッチの間を切っていく作業だ。

 これは前回の試しサンプルでうっすら感じてはいたが、ものすごい手間がかかる。

 二人がかりでこちらも一時間近く時間がかかった。


 フラリと様子を見に来たサトー氏が面白がって

「僕もやるー」

 と参加してきた。

 が、「これ、結構手が痛くなるね」と早々に離脱。

 しかし、手をかけた分だけ可愛いスラッシュキルトが出来上がるのだ。

手をかければかけた分だけ可愛くなるのです。

この中毒性には要注意。

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