12 大抵突破口はどこかにある パンツ編
登場人物
スズキ氏
老舗縫製工場のファクトリーブランド「□O:△O」のブランドディレクター。
完璧超人の雰囲気が漂うジェントルマン。
サトー氏
「□O:△O」のプロダクションコントロール。
忘れん坊大魔王にして最強のポジティブ人間。
タカハシ
「□O:△O」のパタンナー兼サンプル縫製担当。
自尊心の低さなら誰にも負けない。
本作の主人公。
「パンツさ。これ参考にしたらどうかな」
暗礁に乗り上げたまま、存在を忘れかけていた頃にスズキ氏がパンツの参考にと柔道の胴着を持ってきた。
「袴にこだわってたけど、ウエストの仕様はこれをベースにしたら良いと思う」
ベルト通しにヒモを一周半巻き付ける仕様に「なるほど」と感嘆する。
「いいかも」
これによってパンツの開発は一気に加速する。
そのはずだった。
「ヤバ、失敗だ」
珍しいことに縫製工程を全く描けないままサンプル縫製に入っていた。
これ、型を作ったは良いがどこをどう縫うんだ?
縫い代を確認しながら組み立てようとするが、そもそもパターン自体がおかしかった。
「あー! なんでこんなとこに飛び出し付いてんだよ!」
もう型を引いた自分への苛立ちしかない。
どうすんだ? こいつ。
もう途中で投げ出したいくらい自分の出来の悪さにうんざりしていた。
「仕方ない、落とすか」
謎の出っ張りを深傷にならないようにそろりとローラーカッターで切り落とす。
「これした時点でスペックでないよな」
とりあえずの型確認用のサンプルとして使うしかないか。
やっとのことで縫い上げたのは就業時間ギリギリ間際。
今からスズキ氏を呼び出すわけにもいかないので、とりあえずサトー氏に提出。
「わー! 履きたーい!」
サトー氏はいきなり椅子の上に立つとジーンズの上からそのままイン。
「あ、良い感じ。なんかこの感じ、好き」
おー、珍しくサトー氏が全力で受け止めてきた。
「でもちょっとお尻きついかも」
「やっぱり? 型引くの間違えて渡り部分落としたんだよ。あと、こいつ縫うのすっげーしんどかった。図示頑張れって感じ」
「自分でな」
「そうな」
とはいえ、大形のパターンは完成した。
あとは微調整なのだが……。
いかんせんちょうど良いサイズ感のトルソーがいない。サトー氏かスズキ氏を呼びつけて着用感を確認しないとならなかった。
そうなると待ちの時間が増えてくることになる。「面倒だなあ」が正直なところ。
とりあえず最小より、最大値をカバーせねばならないのでこの二人は必要不可欠。
作業の合間を見て呼び寄せるのは良いが、この二人、羞恥心と言うものがないのか堂々と工場のなかでパンツ(注:ズボンです)を履き替える始末。
おいおい、工場の中にはうら若き乙女だっているんだぞ。
と思いながら、そっと背を向けてアイロン作業をする。
「やっぱ、この感じ、好きだわ」
サイズ感が気に入ったのか、サトー氏がウキウキとステップを踏んでいる。
「サトーさん、好き?」
「サトーさん、これ好きネ」
スズキ氏とサトー氏の不思議なやり取りを聞きながら、細かい修正点をチェック。
最初はどうなるかと思ったけど、パンツはこれで決定だな。
柔道着とは盲点でした。




