94 浩二さんの親友の手相占いは?
問い質すのは料理を作りながらでもできると判断して、私は占いを続けることにした。
「わかりました。そう言うのでしたら」
そう言ってキッと睨みつける。対して浅井さんは澄ました顔をしていた。
(なんか、腹立つわ~。やっぱり間違いなく、浅井さんは和彦と同人種よ!)
「では、行きます。まずは感情線から。浅井さんは・・・」
私は線に集中し始めたところで、あれっ? っと、思う。視界がぼやけて意識に霞がかかったように曖昧になっていくのだ。
(あー、なんでここで来るのかな・・・)
私は意識を持っていかれる感じを味わいながら、瞳を閉じたのでした。
◇
意識が急速に浮上してきて、私は顔をあげた。目の前には青い顔をした浅井さんがいた。左手の手の平を上に向けて、ローテーブルの上に投げ出すように置いている。震える唇から言葉が漏れるけど、独り言に近いものだった。
「下平が話したのか・・・いや、そんなことはないはずだ。下平だって知らないことだから。・・・じゃあなんで麻美ちゃんは知っていたんだ。本当に見たのか。俺の過去を?」
恐れるような顔をしている浅井さんは、私の顔を見てハッと正気に戻ったようだ。その様子に私は申し訳ないと思った。
「麻美ちゃん? どうしたんだ。顔色が」
浅井さんが訝し気に言いかけた言葉を全て聞く前に、私はテーブルに突っ伏すようにして、再度意識を手放したのでした。
◇
「どうしよう。・・・やはりここじゃなくて、布団に寝かせた方がいいかな。・・・やばい、下平に怒られる。あいつは怒らせると怖いんだよな~。ああ~、こんなことなら変なちょっかいを出すんじゃなかった~」
また意識が浮上した私の耳に、浅井さんの弱り切った声が聞こえてきた。目を開けると仰向けに寝かされている模様。
「そんなに、浩二さんは怖いんですか」
少し掠れていたけど、なんとか声は出せた。私の声が聞こえたのか、浅井さんが私の頭のそばにしゃがみこんで覗き込んできた。
「よかった~。急に意識を失うから、どうしようかと思ったよ。下平に麻美ちゃんは身体が弱いって聞いていたのに、無理をさせたなんて知られたら・・・。本当に一発殴られるだけで済むかどうかわかんないよ」
ぼやくように言われて、私は額に手を当てて目を閉じた。体にはタオルケットを掛けてくれてあった。目を開けたら困った顔をした浅井さんの姿が見えた。
「私は身体が弱いわけじゃないですよ」
「そんな姿を見せられて信じるわけないよね」
私はゆっくりと体を起こした。浅井さんのことを見たら渋い顔をしている。
「本当に大丈夫ですから。それよりも私はどれくらい意識を失っていましたか」
「そうだな、動揺して時計をちゃんと見ていなかったけど、大体5分くらいだと思うけど」
「それなら、大丈夫ですね。まだ浩二さん達は戻ってこないでしょう」
私はそう言うとタオルケットを畳んで立ち上がった。
「ちょっと待ちなよ、麻美ちゃん。まだ顔色悪いから動かない方がいいって」
「でも、そろそろ料理を作った方がいいですよね。何も作ってないのは不自然ですから」
「それは俺がやるから。だから麻美ちゃんは休んでて。本当に下平が怖いんだって」
必死な感じに浅井さんが言うのがおかしくて、口元に笑みが浮かんできた。
「それなら台所に移動しませんか。浅井さんは料理を作ってください。私は座っておとなしく話しをしますから。でないと、せっかく私と二人になった意味がないでしょう」
浅井さんは少し目を瞠ってから、苦笑を浮かべた。
「なんだ、バレてたんだ」
「そりゃあ、わかりますよ」
「なんか、下平は苦労しそうだな。麻美ちゃんには隠し事は出来そうにないみたいだね」
私達は台所に移動した。台所にも食事ができるようになテーブルがあった。私を椅子に座らせると、浅井さんが訊いてきた。
「何か飲む?」
「白湯を頂けませんか?」
「白湯? お水じゃなくて」
「はい。温かいものが飲みたいので」
「それなら、お茶とか紅茶とかコーヒーを入れるけど」
「じゃあ紅茶をお願いします」
浅井さんは私に背を向けて紅茶の用意をした。私の前にマグカップをおくときになんでもないように訊いてきた。
「ところでさ、さっきのあれって、麻美ちゃんじゃないよね」
探るように見てくる浅井さんの目を見返しながら、私は口元に笑みを浮かべた。
「浅井さんもわかりました?」
「そうりゃあねえ。下平からあんな風になるなんて聞いてないし、ましてや麻美ちゃん自身が驚いていたからね」
それは私が意識を持っていかれた時の事だろう。でも、少しの変化に気がつく浅井さんは、やっぱり面倒くさい人なのだろうと思った。
「それで、さっきのあれって誰なの。もしかして、麻美ちゃんは二重人格とかかな」
(・・・口調が楽しそうなんだけど。あ~、やだやだ。浅井さんも人の反応を見て楽しむタイプの人なのか~)
「違います。さっき浅井さんに失礼なことを言ったのは、私の守護霊です」
投げやりな気分になった私は、誰にも言ったことがない事実を口にしたのでした。




