206 着物を脱がせるのって・・・
「大丈夫か」
心配そうな声をかけてきた浩二さんのことを、私はジトーと見つめた。誰のせいですかと軽く睨みながら、温もりを求めて浩二さんにすり寄った。浩二さんの腕がピクリとして、背中に回った手に力が入った。
「麻美?」
「まだ寒いの」
浩二さんの胸に頬をスリスリと擦りつけながら言ったら、頭の上の浩二さんが息を飲むのがわかった。
「わかった」
耳元で囁かれたと思ったら、体の向きが変わった。横向きに抱きかかえられていたはずなのに、仰向けになって組み敷かれている。あれ?
「浩二さん?」
「もう一度温まろうな」
「えっ? 違う」
抗議しようと口を開いたら、口づけで言葉を塞がれてしまった。あとは・・・。
おかしい。なんか言葉を間違えたのだろうか。
泰浩さんの実家で私の紹介が済んだ後は、男の人たちはお酒を飲みだしました。私は最初は浩二さんのそばにいたのだけど、そのうちに女性陣が固まっているほうに移動しました。最初は緊張をしたけど、皆様はやさしくて・・・。うん、うちのおばさん達より話がしやすいや。私的には緊張もほぐれたと思っていたんだけどな。
16時過ぎ。なんか皆さんが私にしきりに声をかけてくるようになったの。気分は悪くないかとね。気分は悪くないから「大丈夫です」と、答えたのよ。そうしたらとうとう16時30分過ぎに浩二さんが呼ばれて、私を送って帰ることになってしまったのよ。こちらに着いたのは14時30分頃だったから、2時間くらいしか居なかったことになる。久しぶりに会ったのに、申し訳ないと思ったわ。
家に戻るという博美さんと登美さんも一緒に車に乗り、鈴木家をあとにした。ついでに渉さんが佳恵さんと真佑美ちゃんと隆正君を、送ることになったのよ。車の中で博美さんが「本当にまだ隆正も小さいのに。どうして飲むのを我慢できないのかしら」と、泰一さんのことをこぼしていた。
下平家で二人を降ろしてそのまま家まで送ってもらえると思っていたのに、何故か浩二さんのアパートへ。部屋に入ると浩二さんに迫られた。
「麻美、着物を脱ごうな」
「な、なんで?」
「いいから。麻美が脱ぎたくない気持ちもわかるけど、嫌なら強制的に脱がすぞ」
「えっと、あっ、待って、自分で脱ぐから~」
浩二さんの手が帯締めにかかったから、その手をつかんで止める。そうしたら帯締めから手を離した浩二さんが私の手をつかんできた。
「こんなに冷たくなって。きつく締めすぎたかもと言っていたから、血行が悪くなっているんだろう。顔色もこんなに白いし」
浩二さんの右手が気遣わしげに頬に触れる。その言葉でやっと私は理解した。鈴木家で緊張が解けたと思っていたけど、それは間違いだったようだ。気がつかないところで、具合を悪くしかけていたみたい。
「とにかく着物を脱いで服に着替えよう。あっ、着替えは車に置いたままだった。取ってくるから、脱いでいるんだぞ」
そう言いおいて浩二さんは部屋から出て行った。見送った私はため息を吐き出した。
やっちゃったな~。最初だから、いいところ・・・ではなくて、普通のところを見せたかったのに。
帯締めを解いて帯揚げもほどいた。帯枕がゴトンと落ちた。背中で縛ってある帯をほどいて、体から落とす。着物を脱ぐ前に、帯を畳んでその上に帯締めと帯揚げ、帯枕や帯板を一緒に置いた。着物の紐をほどいたら、体がフッと緩むのを感じた。
「麻美、これ・・・」
着物を体から落とそうと思ったところに浩二さんが入ってきた。一瞬動きを止めた浩二さんはササッとそばに来た。そしてそのまま抱きしめられてしまった。
「なんか・・・そそられる」
そそられるって何ですか?
浩二さんのことを見上げたら、ちょうど私のことを見つめてきた浩二さんと目が合った。そのまま唇が合わさったけど、すぐに口を割って舌が入りこんできた。いつもの呼吸を奪うような口づけに意識が飛びそうになって、浩二さんの胸の辺りを掴んだの。
唇が離れたと思ったら、肩から着物が滑り落ち、一瞬抱きあげられてすぐにベッドへと降ろされた。ぼんやりと浩二さんを見つめたら、浩二さんは私のことを見ていた。
・・・というか視線が下のほうがいっているような?
「裾が乱れて・・・なんかエロい」
呟くように言って襦袢の合わせを広げようとした。
「ちょっと、待って。浩二さん」
浩二さんを止めようと起き上がろうとしたけど、浩二さんは私の脛に手が触れて動きを止めたの。そして、息を吐き出したのね。
「こんなことしている場合じゃないな。体が冷え切っているし。着替えるだけじゃなくて風呂に入って温まった方がいいか」
「えーと、大丈夫よ。とりあえず着替えるから、浩二さんは部屋から出てて」
「・・・それなんだけどな、麻美。残りを脱がせるのをしちゃダメか」
あんまりな申し出に私は口を開けて固まった。
「こんな時代劇シチュ、次はいつお目にかかれるかわからないだろう。さすがに『あーれー』は出来ないのはわかったから、普通に脱がすことをしてみたい」
真面目な顔で言われたけど、よーく考えると・・・いや、よく考えなくてもああいうことをしたいということよね。えっ、するの? 今から?
そんなことを考えていたら、着物を脱いだせいで冬の冷気で体が冷えたのか「くしゅん」とくしゃみがでた。
「話している場合じゃなかった。ほら、体が冷えたんだろう。さっさと脱いで着替えてしまおう」
浩二さんの言葉に、私の体を気遣っての言葉だったとホッとした。結局浩二さんの夢? が、叶うのならとされるがままになったんだけど、襦袢や肌着を脱いだ体が冷えすぎていると、体をさすられているうちに・・・。
やはりあの言葉が悪かったのかな?
「浩二さんの手って温かいのね。このまま温めて欲しいな」
が。




