176 女だけのランチの席で その4
それから、みんなの視線が私に集まった。
「見合いっていつしたの」
「2月の終わり頃よ。ちゃんとしたホテルとかでのお見合いじゃなくて、知り合いの紹介という感じに居酒屋で会ったの。たぶんみんなが見かけたのが、その日だったんじゃないかしら。私も付き添いで一緒に行ったから」
私が口を開く前に千鶴が答えてしまった。華子女史が頷くと言った。
「そんなことがあったんじゃ、麻美が痩せたのも納得ね」
「そうよね。麻美ってば、真面目過ぎ」
「本当だわ。そんなに気に病むことはなかったのに」
菜穂子に京香さんまでが言ってきた。
「でも、あの時には私は山本さんとつき合っていたのに・・・。本当ならお見合い自体を断らなければいけなかった・・・」
「そうは云っても断れなかったのでしょう。仕方がないことだったのよ。・・・それにしても、やっぱり麻美はまだ気に病んでいたのね」
あの時のことを思い出して苦い気持ちで言ったら、京香さんが困った子を見るように言ってきた。
「気に病んでいたわけではないのですが・・・でも、思うところはあったので・・・」
「ほら、そこよ。麻美のいいところでもあり、悪いところでもあるの。やっぱり会いに来てよかったわ。航平が気にしていたとおりだったのね」
京香さんの言葉に心臓がドクンと大きく鳴った。
「・・・山本さんが? 私を?」
笑おうとして笑えない。口元が引きつったようになっている。きっと、みっともない顔をしていることだろう。
忘れかけていた感情がよみがえってくる。それと共に先ほど、ここに来る時に見た家並が頭に浮かんできた。他にもいろいろと思い出されてきた。この間のことも。
偶然見かけて・・・目が合って・・・そして・・・自分の浅ましさに気がついた、あの日。
「それって、どういうことですか。元カレはまだ麻美に気があるっていうの」
「え~、それってあわよくば麻美とよりを戻したいと思っているとか」
華子女史と菜穂子が嫌悪の表情を浮かべて言った。二人の様子に京香さんがまた苦笑を浮かべた。
「そんなんじゃないから、落ち着きなさい、二人とも」
「じゃあ、なんでまだ麻美のことを気にしているのよ」
千鶴も語気を強めて言った。
「千鶴も落ち着いて。別におかしいことではないでしょう。嫌いになって別れたわけじゃないのよ。それにねえ、別れる時には麻美は痩せて体調を崩し気味だったんでしょう。そうさせた原因は自分に有ったと航平も思っていたのよ。だから別れを受け入れた。でも、別れてからも気になっていたのよ」
千鶴たちはムスッとした顔で京香さんの言葉を聞いていた。私は京香さんの言葉に混乱していた。
(どうして。私のことなんか嫌いになったんじゃないの。体調を崩したのは私が言えずに言葉を溜めこんでいったからで、山本さんは悪くないのに)
京香さんが私のことを真直ぐ見つめてきて、にっこりと笑った。
「ほら、麻美もそんな顔をしない。さっきも言ったけど、会いに来た理由をちゃんと話してあげるから。でも先に麻美からあの時のことを話してほしいな」
「それって麻美の元カレからの話と比較するってことですか」
京香さんの言葉に鋭く千鶴が聞いた。
「そんなんじゃないわよ。ただねえ、麻美って頑固なところがあるでしょう。先に私が航平から聞いた話をしても納得しないと思うのよね。逆にネガティブモードを発動して、自分が悪かったと言い出すに決まっているもの。それなら麻美が反論できないように、麻美からみた状況を聞いておいた方がいいと思って」
「なるほど。確かにそうですね。私は麻美から聞いた『山本さん』には、いい感情を持っていないですから。それに私も簡単にしか話を聞いていないですし」
千鶴は京香さんに頷いた後、視線を私のほうに向けてきた。
「麻美、続きを話してもらう前に一つ聞いてもいいかしら」
「なんでしょうか」
「麻美が結婚する人って、そのお見合いをした人なの」
私は口の中に溜まった唾を飲みこんで答えた。
「・・・はい、そうです」
「ああ、やっぱりね。・・・わかったわ。じゃあ、続きを話して頂戴」
私の返事に一人納得する京香さん。私はもう一度唾を飲みこんで、続きを話していった。
◇
母が私に黙ってお見合い相手を探していたこと。それに応えてくれた方がいて、お見合いをすることになったこと。『気楽な感じにしましょう』と言われて、友人を交えた飲み会を計画されたこと。それに千鶴につき合ってもらったこと。その時に相手も職場の先輩に誘われて断れなかったのだと思ったこと。一度会ったことだし断ってもらおうとしたら、千鶴の横やりで次には二人で会うことになったこと。
◇
ここまで話したら、京香さんが目を細めて千鶴のことを見た。
「千鶴、あんたね」
「なんですか、京香さん。私が悪いとでも言いたいのですか」
「どういうつもりだったの。・・・ああ、違うわね。いまとなっては千鶴の見立てのほうが正しかったみたいだから。でも、麻美に彼がいるってわかっていて、なんでそんなことをしたのか、聞いてもいいかな」




