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最強呪族転生~チート魔術師のスローライフ~  作者: 猫子
最終章 支配者の再臨
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九十六話 事の顛末①

 空神シルフェイムの討伐から一週間が経過した。


 俺は既にファージ領に帰還しており、今日はメアと並んでラルク邸の廊下を歩いていた。

 客間で人と会う予定になっているのだ。


「しかし……ラルクさんがあっさり許してくれてよかったな。あの人はあんまり強く言うタイプじゃないから、正直予想はしてたんだけど」


 ファージ領に帰還した俺に対して、ラルクは相変わらず優しかった。

 我儘放題をし尽して唾を吐いて出て行った形だったのだが、あっさりと受け入れてくれ、ほぼ無罪放免という形になっていた。

 さすがラルクさん、懐が広い。


 そしてつい先日、ユーリスがラルクに『もっと言っておかないと、アベル殿は何をしでかすかわかったものではありませんよ!』と忠告している場面を偶然目にした。

 ラルクは彼女へ『私が何か言ってもどうせ聞かないのだし、機嫌を損ねないようにしておこう。多少危ないことをしていても、結局はアベル君の近くが一番安全だよ。たとえ教会が世界の半分を味方につけてアベル君に挑んでも、アベル君が勝つだろうしね。最低限はペテロ様やアルタさんが言ってくれるだろうし、私達はせいぜいアベル君を甘やかしておこう、領地の利益になるし』とあっさりと返していた。


 さすがに過分な評価なのだが、ラルクに俺はどう見えているのだろうか。


「ラルクさん、事なかれ主義の温厚な苦労人だと思っていましたが、結構狡賢い人なのかもしれませんね……」


 メアが小さく呟いた。 


「そうか?」


 そういえばファージ男爵家は、ラルクの祖父が初代だという話だった。

 祖父の功績が認められて男爵家となったのだとか。

 ラルク邸の倉庫にあったヤバめの魔導書や、魔術式で傍受対策を完備した秘密の会議部屋なんかを用意したのもラルクの祖父だったようだし、間違いなく彼の祖父はかなりの切れ者だったのだろう。

 そんな祖父の血を引くラルクなのだから、意外に狡猾な一面を持っていたりもするのかもしれない。


 ラルクの祖父のコレクションからジュレム伯爵が描かれていたらしい絵画が出てきたことも、今となっては少し怪しい。

 ジュレム伯爵は一般にはただの怪奇話の一種とされており、あの絵画自体も専門家が価値のないものだと見做していた。

 しかし、アレが本当にジュレム伯爵を見て描いたものであったとすれば、決して無価値なオカルト絵だとは切り捨てられないだろう。


 他のコアな魔術趣味から考えて、ラルクの祖父がただのオカルト好きだとも思えない。

 ラルクの祖父はジュレム伯爵の実在を知っていたのだろうか。



 ……ラルクはマリアスには騙されて弄ばれていたが、アレは相手も悪かったのだろう。

 四大神官のマリアスとネログリフは、偽リーヴァイのメドの指示を受けてリーヴァラス国を傀儡にしていたツートップである。


 ネログリフには俺も散々痛い目に遭わされた。

 あの狸爺がもう少し俺を警戒していれば、騙されたまま何も知らずに殺されていた可能性が高い。


「そういえば……あの収集家が婚約してたの、びっくりしましたね」


「まさかだったな……あいつ、イリスさんに捨てられて不貞腐れてたんじゃなかったのか?」


 ……そう、ファージ領に帰って来てから聞いて驚いたことなのだが、あの収集家がファージ領内で婚約したのだ。

 女商人のイリスのヒモになって捨てられてから、そこまで長い時間は経っていないのだが。


 相手は酒場『小人の隠れ家』の看板娘、エーラである。

 ……捨てられてから酒に溺れていたと聞いたが、そこで仲良くなったのだろうか?


「エーラちゃん、大丈夫でしょうか……? メア、ちょっと不安です」


「う、う~ん……どうだろうな……」


 あいつ顔以外にいいところなんてないぞ。

 その顔だってアムリタとかいう超高級ドリンクで若作りしてるが、ノークスで実年齢三百歳超えのお爺ちゃんだからな……。


 俺はメアと共に客間へと辿り着いた。

 館についたばかりらしいペテロとミュンヒが入り口の付近で並んでいた。


 そう……俺を呼び出したのはペテロなのだ。

 話の内容はだいたい想像がつく。


 ペテロが俺から聞きたいのは、空神シルフェイムとの決着についてだろう。

 ……それと、アベル砲をぶっぱなしたことについて、か。

 魔力波塔の兵器は未完成であるし、完成しても世界への悪影響が想定されるので使うつもりはない、ということはアルタミア含めた複数人に既に話していた。

 今更シラを切るのは不可能だろう。


 しかし、アベル砲は出さないとシルフェイムの『赤き夢』を突破できなかったから、アレばっかりは見逃して欲しい。

 俺がぶっぱを決意したのは百パーセント俺とメアの安全のために他ならないが、俺があそこで叩かなければ結局他に突破する手段はなかっただろう。


 あの『赤き夢』の精度が甘い以外に制限のない世界改変能力に、半端にダメージを蓄積すれば世界を吹き飛ばすクソチート仕様である。

 世界を守るために造られたクゥドルにはシルフェイムを絶対に倒せない。


 シルフェイムは純粋なパワーだけでもクゥドルを超えていたが、『赤き夢』も考え得る中で最強のクゥドルメタ能力だといえる。


 この上にクゥドルの足を引っ張るためだけに全人類を巻き込んでいたであろう世界戦争なんて企てていたのだから、改めて考えるとシルフェイムの執念には恐怖を感じる。

 一万年前にクゥドルに敗北したのが余程堪えていたのだろう。


 まあ全部無駄になったんだけどな。


「来たわね、アベルちゃん。面会に出て来てくれて嬉しいわ」


「いえいえ、一刻も早く話を聞きたかっただろうに、ここまで引き延ばして申し訳ございません」


 話をしながら、俺達は客間へと入った。


「……仕方ないわよ。前にラルク男爵の反対を押し切ってアベルちゃんの部屋に突撃したけど、お話ができる状態じゃなかったのだもの。あの時、すぐにメアちゃんに追い出されちゃったんだけど……アベルちゃん、覚えてもないんでしょ?」


 そう……俺は前日まで『剛魔』の反動で全身をやられていたのだ。

 多種多様の身体を癒すポーションに加えて、二日ほど魔術によって意識と共に身体の神経を完全に眠らせておけば苦しみを凌げるのではないかと考えて実践したが、無事に三日後に起きた時点で、激痛に身体中を焼き尽くされることになった。


 あまり覚えていないが、ベッドで横になりながら譫言を吐き続けていたらしい。

 まともに会話ができ、歩けるようになったのが昨日のことなのだ。

 ……その間ずっと看病してくれていたメアには本当に迷惑を掛けた。


 もっとも……アレのお陰か、前よりちょっと筋肉がついた気がする。

 とはいえトレーニング目的で『剛魔』を使えば俺の寿命の方がすり減りそうだが。


「メアちゃんとラルク男爵からある程度は聞いたけど、アナタに直接確認しておきたいことも山ほどあるものね」


 ペテロが席の背に手を触れてから、俺達にも椅子へと座る様に促す。


「ははは……そうでしょうね」


 そのとき、窓も開いていないのに客間に急に一陣の風が吹いた。

 客間の一席に、先程まではいなかった切れ長の目をした、髪の長い美人が座っていた。

 指を持ち上げ、トントンと机を叩く。


「我も貴様の口から聞きたいと思っている。まさか、急いで戻って来れば奴が消し飛んでいるとはな。早く席に着くがいい」


 背筋が冷たくなった。

 ペテロも既に顔を合わせたことがあったらしく、ピンと背筋が伸びていた。


「ふ、封印から帰ってきていたのですね……クゥドル様」


 言葉に詰まりながら言うと、クゥドルが俺の方を睨んだ。


「何か問題でもあるのか?」


「い、いえ、滅相もありません!」

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