七十七話 太古の破壊者メビウス⑦
バビロン8000を失った俺は、とにかくオーテムの物量で攻めることにした。
オーテムを絶やさずに転移魔術で用意し続け、常に十体で攻撃を仕掛けさせた。
周囲に散らばるオーテムの残骸は既に百を超えていた。
「ええい、うざったいわ! মুক্তি!」
オーテムに追い込まれたメビウスが、七度目になる『破壊の翼』を放った。
黒い魔力結晶が、メビウスに纏わりついていたオーテム達を砕きながら吹き飛ばしていく。
俺はヒディム・マギメタルの分厚い盾で、『破壊の翼』の衝撃波を防ぐ。
神殿の崩壊も進んでおり、ついには空が見え始めていた。
俺かメビウスの魔力が尽きるより先に神殿が持たなかった。
……外から見ているであろう、ハイエルフの王オルヴィガが後で煩そうだ。
ヒディム・マギメタルも、戦闘中に改良を重ねている。
メビウスの黒い魔力結晶の性質を解析し、耐性を付与して造り直した。
……そのために防御面はマシになったかに見えたが、メビウスの攻撃は純粋に威力が高いため、連続攻撃を仕掛けられれば厳しい場面もある。
質量を上げて分厚くすれば頑丈さを引き上げることはできるが、攻撃に割けるリソースが減る上に、ヒディム・マギメタル塊のオート行動の敏捷性も下がる。
「まだまだ行くぞ! বহন!」
俺は追加で十二体のオーテムを転移魔術で呼び出し、メビウスへと向かわせる。
メビウスの『破壊の翼』には、インターバルが存在すると俺は見抜いていた。
今猛攻を仕掛けて追い込めば、メビウスは『破壊の翼』による範囲攻撃の逃げは使えない。
メビウスは襲い来るオーテムを蹴り飛ばし、その反動でオーテムを振り切って俺へと接近を試みて来た。
宙を舞いながら、メビウスが腕を振るった。
「遊びが過ぎたようじゃ。どうにもお前は、力量差を教えてやるだけでは折れぬらしい。手足を千切って弄んでやるわ!」
二十の魔法陣が浮かぶ。
だが、このタイミングでメビウスが魔術を使うということはわかっていた。
一度見た魔術だ。おまけに数が多い分、一つ一つの制御に隙がある。
「ন্ধকা এই হাত」
「今だ! থেকেবোমা!」
メビウスの詠唱に被せて詠唱を行い、俺は奴の魔法陣に干渉する。
魔法陣の一つが歪んで光を失う。
その魔法陣の影響を受けた他の魔法陣も術式を歪められていく。
行き場を失ったメビウスの魔力が暴風を巻き起こす。
「ぐうっ!」
メビウスが暴風に弾かれ、壁に叩きつけられた。
そこへオーテム達が向かっていく。
俺は杖を振るい、続けてヒディム・マギメタルをメビウスへと向かわせる。
「無駄じゃというのが……わからんのかぁっ!」
メビウスがオーテムを殴り飛ばして、ヒディム・マギメタル塊へとぶち当てる。
一手でオーテムを減らし、ヒディム・マギメタルの動きを止めるいい攻撃ではあった。
だが、大振りの打撃であったために隙を晒していた。
「শেষলেজ!」
メビウスより、青く輝く魔力結晶の尾が伸びていく。
全長は、三メートルはある。
あっという間に伸びたそれは、彼女の周囲を一周してオーテム達を薙ぎ払った。
オーテム達が呆気なく弾き飛ばされていく。
……近接攻撃に特化した『悪魔の鉤爪』に、全方位防御と無差別範囲攻撃の『破壊の翼』、おまけにリーチのあって速い『魔竜の尻尾』か。
バランスが取れている。
「……元々持久戦用の技なのじゃが……人間相手に、まさかこの尻尾まで使わされるとはの。光栄に思うがよい」
メビウスが表情を歪めながら口にする。
「……もしかして、魔力にあまり余裕がないの? だったら、別に無理してアベルちゃんを甚振ることにこだわる必要はないよ。とっとと殺しちゃって」
シェイムの言葉に、メビウスがむっとしたように眉を顰めた。
「馬鹿を言え、我の魔力はまだまだあるわい。……思ったよりは消耗を強いられたが、それは奴が強かったというよりも、思いの外しぶとかったというだけじゃ。そこで黙って見ておれ、シェイム」
シェイムはメビウスを見ていたが、俺へと視線を移した。
「アベルちゃん……まだ立ち上がるのはいいけど、それは諦めが悪いんじゃなくて、単に頭が悪いって言うんだよ。冷静じゃないんだろうけど、何をやりたいのか全然わかんないよ? アベルちゃんの魔術じゃメアちゃんからメビウスは追い出せないし、そもそも捕まえることもできないって、もうわかってるんでしょ?」
またシェイムからの問いかけだった。
俺は前回同様にそれっぽく反論してポーズを示しておこうかと思ったが、今回は敢えて何も言い返さないでおくことにした。
……シェイムの言葉は、俺が思うように動かず苛立ってのものだろうが……俺の様子を少しだけ訝しんでいるようにも見える。
騙し通せるかと思っていたが、らしくないことを話し過ぎた。
随分俺を熱心に監視していたようだし、これ以上余計なことを喋れば、勘づかれる可能性もある。
「フフ……意固地になっておるのじゃろう。だが、それも、痛みを知れば少しは冷静になるじゃろうて」
メビウスが、自身の魔力結晶の鉤爪を舐める。
「বহন」
俺は杖を振るい、十二の魔法陣を展開する。
同数のオーテムが現れた。
オーテムの転移魔術は、もう、この戦いだけで何度目になるかわからない。
「それ以外に取れる手がないのか……芸のないことじゃのう」
メビウスの魔力結晶の尾が床を叩いた。
崩れた石の礫が、水飛沫の如く跳ね上げられる。
鉤爪の方に威力は劣るが、大したものだ。
「ふむ、シェイムも急いているようであるし……そろそろ、本格的に終わらせてやろう」
相手もそのつもりならばよかった。
俺も準備が整ったところだ。
シェイムが危惧しているように、メビウスにも若干の疲弊が窺える。
本人は強がっているが、それは明らかだ。
もう少し疲弊させたかったが……これ以上長引かせれば、さすがにシェイムが干渉してくるな。
……その前に、メビウスを全力で叩かせてもらうとしようか。




