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名探偵ユミル2



 その日は、二週間後にやって来た。


 いつものように「出掛ける」という詳細不明な伝言と共に出て行くホークスを見送る。表情や格好には別段分かりやすい変化はない。レミリアが選んだシャツを着て、送り出す際も短い口付けに応えてくれた。


(他の女にも同じことを……?)


 考えたくないけれど、些細な会話や思い出が余計な想像を掻き立てる。そういえば、二人で出掛けたときに綺麗な身なりの女が嬉しそうな顔で声を掛けて来たことがあった。ただの昔の客だと言っていたけど、本当に?


 焦る気持ちを落ち着けるために何度か深呼吸をして、レミリアはユミルを呼んだ。ユミルは俊敏な動きでフィルに連絡を入れ、三十分と経たないうちに三人は集結した。



「まさか本当に尾行することになるとは…… ホークスさん、硬派そうに見えて結構遊ぶ人なんですね」


「まだ黒と決まったわけじゃないわ」


 ピシャッと追い付けると青年は恐縮したように「すみません」と謝る。レミリアはユミルから受け取った大きな帽子に赤毛を押し込みながら、高鳴る胸から注意を逸らそうとした。


「奥様は髪の毛を隠せば周囲に溶け込めそうですね!私はこの通り地味ですし、フィルも眼鏡を掛ければきっと気付かれないでしょう」


 何処から用意したのか、妙に品揃えの良いラインナップに感心しつつ、三人は車の方へと移動する。邸内の使用人たちにはすでに情報を共有済みで、ホークスの車が走り去った方向などは運転手の耳にも入っていた。


「送って行きますと申し出たんですが、ご自分で運転されるのがお好きなようで……」


 運転手は申し訳なさそうに弁解する。


「良いのよ。行き先は言っていた?」


「はい。中央駅の近くにあるレストランへ行くと。店の名前はベルリッツ……なんだったかな?」


「ベルリッツ・ジョーね。知っているわ、私が友達とよく使う店だもの。あぁ、なんだか腹が立って来ちゃう。どうしてコソコソ出掛けるのかしら」


 自分のことを棚に上げて車に乗り込むレミリアに、運転手は困ったように瞬きを繰り返して、ただ「出発します」とだけ言った。車内から外を見て何か会話するフィルとユミルの声を聞きながら、レミリアはやっぱり最悪の事態を想像してしまう。


 ベルリッツ・ジョーといえば、レミリアがよく友人のデミルカと行く店。パスタが有名で、デミルカの夫であるブラウン伯爵が経営する病院から近いため、落ち合う場所としてはちょうど良かった。


(ホークス……誰と会ってるの?)


 ぐんぐんと進む車の中で、下を向く。


 どれだけ一緒に居たって、飽きることはなかった。毎日が新鮮で、毎秒が幸せだった。誰かを好きになるとこんなにも世界が違って見えることを、教えてくれたのは彼なのに。


 沈んでいく気持ちにどっぷりと浸かったまま、車は静かに停車した。レミリアたちは後部座席から降りて、少し離れた場所にある店を観察する。



「あ……!居ました、ホークスさんですよ!」


「………!!」


 確かにレミリアはホークスの姿を見つけた。

 今日は店内でウェイターと会話している。


 視線を動かすと、ホークスの前に座る髪の短い女の横顔が目に入った。小さな唇が何か言葉を発して、それを受けてホークスが軽く笑う。あんな風に笑ってくれるのは、自分にだけだと思っていたのに。


 とんだ思い込み、過信にも程がある。


「奥様……?」


 ユミルの心配そうな声を受けて、レミリアは無理矢理に笑顔を作った。「行きましょう」と声を掛けて二人を連れて店内に入る。幸い、店は繁盛していて、新たな客が入店しても誰も気にしない。


 せっかく来たのだから、とメニューに目を落としても内容がまったく入って来なかった。仕方がないのでユミルとフィルに先に決めてもらうように頼む。


 情けないことに、涙が出そうだった。

 このままでは良くない、と立ち上がって化粧室を探そうとした瞬間、勢いよく何かに追突する。レミリアの後ろでヒッとフィルが息を呑む音がした。



「それで、知りたいことは知れたか?」


 静まり返った若い二人の様子から、レミリアは何が起こったのかを理解する。顔を上げた先には、怪訝な顔をしたホークスが立っていた。



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