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名探偵ユミル1



「………え?なんですって?」


 聞き流せない話が耳に入って、思わずレミリアは顔を上げる。右手に持ったティーカップからは勢いよく熱い紅茶がソーサーの上へと溢れた。


 なんでもない午後の時間。

 すっかり意気投合して順調なお付き合いをしているらしいユミルと、ホークスの助手フィルが妙に深刻な顔でこちらを見ている。


「いえ…… なので、私は奥様の耳に入れるか悩んだのですが、どうやら旦那様が……」


「他の女とお茶してたんです、先週の日曜に。テラス席だったし、ホークスさんがあんな顔で他人に笑い掛けるなんて、俺は不思議で」


「ちょっとフィル!」


 言い淀むユミルの隣でフィルがさらっと再度爆弾を投下するから、レミリアは数秒思考が停止した。


 先週の日曜といえば、ホークスは用事があると言って出掛けた日だ。休みの日に外出の予定があるなんて珍しいわね、ぐらいの感想で見送ったけれど、まさか外で誰かと会っていたとは。今まで気に留めていなかったけれど、言われてみればここ数ヶ月で何度か同様のことがあった気もする。


(ホークスに限ってそんな………)


 頭をよぎるのは、数年前に元夫から突き付けられた離縁の話。真実の愛を見つけたと打ち明けて、アントンはレミリアの元を去った。


 そんな昔の傷はもう塞がって、やっと穏やかな生活が戻ってきたと思っていた矢先。フィルに悪気はないのだろうけど、どうしても心配になってしまう。



「奥様……よろしければ尾行しましょうか?」


「尾行……?」


「後を付けるという意味です。自分で言うのもなんですが、実は私、探偵に向いていると言われたことがあるんです。フィルにも付き合ってもらうので、お任せください!」


 むんっと胸を張って何故か誇らしげなユミルと、明らかに何か面白そうな顔をしているフィルを見比べる。


 愛する夫をこっそり尾行するなんて、失礼ではないだろうか?バレた場合、間違いなくホークスは激怒するはず。だけど、やましいことがなければ怒らないのでは。


 悩んだ末、レミリアは口を開いた。


「私も行くわ。もちろん変装して」


 ユミルは一瞬驚いたような顔を作ったが、フィルと顔を見合わせてすぐに頷いた。


 こうして、シンプソン公爵家の女主人とそのメイド、そしてレコルテ弁護士事務所の助手から成るチームが結成された。確かに男手はあった方が助かる。ホークスとて、このメンバーで行動を共にするとは思わないだろう。



 決行は次にホークスが休日に外出をするとき。


 ユミルが非番であればレミリアが電話を掛けることになっていて、フィルは土日はお休みなのでユミル経由で連絡が入るという流れになった。


 自分にしては珍しく、落ち着かない。

 アントンから離縁を切り出された際は、いたって冷静で、安堵の気持ちすら覚えたというのに。この数年間の間にすっかり心を許してしまった相手が、もしも不貞をしていたら。


 考えただけで胸が張り裂けそうだ。



すみません、ホークスとレミリアは個人的に好きな二人なので番外編の二本目も書いてしまいました。明日中には全部終わるように投稿します。

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