51 日曜日3
食事に関する記憶はほとんどない。
どこ産の何がどんな風に調理されていたとか、何のソースが掛かっていたとか、デザートに何を選んだとか、いつもなら細かに憶えているアレコレが今日という日はすっかり抜け落ちている。
代わりに覚えているのは、遠慮がちに語ってくれたホークスの子供の頃の話。レミリアもまた、今まであまり積極的に振り返らなかった幼少期のことをポツポツと話した。
「ごめんなさい、あまり面白くないでしょう?私って本当に平凡な子供だったの。取り立てて才能も無かったし、人の顔色ばかり心配しちゃって」
「その反動で今の頼れる当主様が生まれたんだな。良いじゃないか、使用人たちを気遣って戦うあんたは格好良かったよ。敵に回すと怖そうだ」
「それって嫌味?」
「いいや、素直な感想」
食後のコーヒーを流し込みながらホークスは軽く笑う。
「貴方だって。私は知らなかったわ、フリッツベルに住んでたことがあったの?あそこは私の父が管理する領土の隣なのよ。もしかして、どこかですれ違っていたかもね」
「どうだかなぁ。母親の家を出た後のことだ。当時、住み込みで働ける場所を探していて、たまたまフリッツベルに事務仕事をさせてもらえる弁護士事務所があったんだよ。だから、昼は学校へ行って夜は雑用なんかを手伝ってた」
「そうだったの…… ラッセルさんとはその場所で?」
「あぁ。どこの爺さんが紛れ込んでるのかと思って驚いたよ。ここだけの話、リーマンの論文を何度か俺が書いたこともある」
得意そうな顔で口角を上げるホークスを見て、レミリアはくすくすと笑った。
こんな風に、他愛もない話を二人でお茶を飲みながら出来る日がまたくるなんて、思ってもみなかった。今日だって、親切な弁護士の優しさに甘えていることは理解している。自分の狡さはとてもよく分かっている。
「お母さんは……どんな人だったの?」
頭の中ではマーサの顔を思い浮かべていた。
ホークスは困ったように目を閉じる。
「なんて言えば良いんだろうな。強くて弱い人だった。なんの根拠も無いのに、別れた夫が迎えに来るんだって信じてた」
「…………、」
「今じゃほとんど憶えてないが、俺は五歳になるまで公爵家に居たらしい。もともと身分差のある結婚だ、歴史あるシンプソンの他の人間たちが黙っていなかったんだろう。屋敷を追われた母親は気の毒だが、いつまでも待ち続けるなんて馬鹿げてる」
家を出たことは後悔していない、と厳しい顔で言ってホークスはまた黙った。
部外者であるレミリアが容易にその気持ちを推し量って意見できる内容ではない。きっと当事者たちにしか分からない思いがある。ひたむきに信じ続ける姿を見守る辛さは、側に居る者にしか分からないだろうから。
「結婚しようと思ったことは?」
もうこちらを見ていない横顔に尋ねた。
近くに座っていた恋人たちが立ち上がって、何かを話しながら店の入り口へと歩いて行く。
「一度もない。誰かを幸せにできるとは思えない」
吐かれた短い返事がレミリアの胸に落ちた。




