49 日曜日1
そうして、シンプソン公爵家は日曜日を迎えた。
天気は晴天。雲ひとつない素晴らしい空を見上げてユミルが「晴れましたね!」と言うのに対して、レミリアは頷いて肯定を示す。睡眠の質が回復したお陰でしばらくレミリアの目の下に居座っていた濃いクマは今ではすっかり消えていた。
「それで…… 今日はどんな服装を?」
取り急ぎ普段の格好で朝食を終えたレミリアが顔を向けると、ユミルは待ってましたとばかりにクローゼットへと近付く。そして、シンプルなダークグリーンのドレスに真っ白なコートを手に持って戻って来た。
「あら、こんな服もあったのね。最近まともに選んでいなかったから、すっかり忘れていたわ」
「奥様の髪色にも似合うと思うんです。アクセサリーはシンプルでも良いかもしれませんね!」
「だけど、お相手の方がもしも乗馬をしたいと言い出したらどうかしら?私はあまり得意ではないけれど、この辺りは森も多いからもしかしたら……」
「今日は乗馬はしませんよ!」
「どうして分かるの?」
勢いの良い断言っぷりに思わず問い掛けると、ユミルは目を見開いて固まった。数秒の後に「ただの勘です」という消え入りそうな弁解が入る。
レミリアはそれを見てクスクス笑った。
結局のところ、乗馬は予約制であるという他の使用人の意見を受けて、レミリアは安心してドレスを着用するに至った。着飾るのは随分久しぶりな気がする。それぐらい余裕がなかったのだ。
「えぇっと、グスタフの中央広場に11時半だから……そろそろ出た方が良いかしら?」
「かしこまりました。運転手をお呼びしますので、お部屋でお待ちくださいね!」
「ありがとう。今日は友人を連れて街を回ると伝えておいてくれると助かるわ。なんだか緊張して来ちゃった、お化粧は変じゃない?」
「完璧です!」
元気よく返事を返してユミルは部屋を出て行った。
一人になった部屋の中で、レミリアは姿見の前に立つ。嫁入り前からシンプソン公爵家で使用されていたこの鏡は未だに現役で、美しい四隅のカービングからして何か貴重なものなのだろう。年季は感じるものの、それもまた味わいになっている。
戻って来たユミルにおおよその帰宅時間を伝えて、レミリアは車の中へと身体を滑らせる。屋敷から中央広場までそんなに時間は掛からない。
(デミルカはお相手に私のことを伝えているのかしら………?)
はじめましての二人が、共通の友人であるデミルカを介さずに食事を共にするというのは不思議な話。きっと自己紹介から始まって、互いに近況なんかを語り合うのだろう。
レミリアは離縁のことを言うべきだろうか?
相手を見て判断すべきかもしれない。
「到着しました、中央広場です」
「ありがとう。友人を探して来るわ」
運転手に言い伝えてレミリアは車外へ出る。
日曜日、さらには快晴ということもあって、広場はたくさんの人が集まっていた。待ち合わせ場所として有名だが、今日は不向きだったようだ。
目を走らせていると、どこかで見たことのある男がこちらに向かって歩いて来るのが目に入った。着ているシャツの色こそ違うものの、少し寝癖の残った茶色の髪には見覚えがある。
「ホークス……?」
驚くレミリアの前で男は眉を寄せてあからさまに嫌な顔をして見せた。
「おいおい、依頼をした側がなんで驚くんだ。時間も場所も間違ってなんかないだろう」
「待ってよ、なんの話?」
「ビックリするぐらい重たいものを運ぶから手伝ってくれって、あんたが頼んで来たんだ。メイドから時間と場所が書かれたメモを受け取った」
「ちょっと待って、それは……!!」
助けを求めて振り返った先で、レミリアは走り去る白い車を見た。それは間違いなく自分が「すぐに戻るから」と待たせていた、シンプソン公爵家の車だ。
絶句するレミリアの後ろでホークスは大きな溜め息をひとつ吐いて、四つ折りの紙を取り出した。
「どうりで筆跡が違うと思った。誰が発案者か知らないが、あんたの周りの人間は愉快だな」
「どうしましょう、車が……!」
「俺が乗って来たのがある。あんたの家の車ほど良いものじゃないが、運転はそれほど悪くない」
「乗せてくれるの?」
「煙たいのが嫌でなければ」
表情も読み取れないままに、ホークスはレミリアの荷物を拾って歩き出す。相手が退屈してはいけない、と張り切ってカードゲームやチェス盤まで入れて来た鞄は、決して軽くはないはずだ。
レミリアは仮病の友人を内心毒吐きながら、慌ててホークスの背中を追いかけた。




