47 金曜日
裁判以来、久しぶりに再会したリーマン・ラッセルはあの日と同じように新聞を片手に現れた。仕事柄社会の動きに敏感なのかもしれないし、単に彼の知的好奇心を満たすための道具なのかもしれない。
「その節は本当にお世話になりました。なんとお礼を言えば良いか………」
「今更そんな堅苦しい挨拶は不要ですよ。レコルテくんは古い友人なんです。こう見えて私たちは同期の人間でして」
「え?」
失礼ながら、驚いて声が出た。
どう見ても目の前に立つ男とホークスが同い年には見えなかったのだ。ホークスの正確な年齢は知らないにせよ、ラッセルはどう若く見積もっても六十前後に見える。
レミリアの頭の中を読んだように、ラッセルは軽く笑って「誤解を生んでしまいましたね」と言った。
「弁護士になる前は、都市部で長い間銀行に勤めていました。とは言っても父がそっちの仕事をしていたもので、私は言われるがままに座っているだけだったのですが」
「まぁ…… もしかして、お父様が経営されていたのですか?」
「大した仕事ではありません。継ぐのは兄ですし、貪欲な客に金を貸したり巻き上げたりするだけです。そうした世界に嫌気が差して、偶然潜り込んだ司法の世界で出会ったのがレコルテくんでした」
そこでラッセルは言葉を切り、懐かしむように目を閉じた。
「変わった人でしたよ。ひたむきで、がむしゃらで……私たちが見捨てるような金のない客を彼は率先して助けようとするんです」
「………えぇ、知っています」
「仲間内ではバカだと笑う人たちも居ましたが、今思えば彼が一番正義のために生きていたんでしょうね。結局私たちも、無意識的に客の選別はしてしまいますから」
苦笑するラッセルを見ながら、レミリアはホークスのことを考える。小さな事務所で、彼はいつだって真っ直ぐに仕事と向き合っていた。「三日は寝てない」なんて平然と言って笑い飛ばしながら、それでも楽しそうに。
ホークスのことを考えると、心臓がぎゅっとなる。心配な気持ち、近付きたい気持ちなんかに混じって「これ以上どんな顔で迷惑を?」と冷静な自分が問い掛ける。
(今の距離感が一番良いのよ……きっと)
言い聞かせるように何度も頷いて、レミリアは話題をラッセルの私生活に移した。初老の彼は散歩が日課らしく、毎日決まった時刻に歩いているらしい。
そこでふと、思い当たることを質問した。
「ラッセルさん、もしかして裁判の前にこちらの場所に来たことがありますか?」
「奥様に嘘は吐けませんねぇ」
嬉しそうに笑うと、ラッセルは彼が裁判以前にシンプソン公爵邸を下見に来たことがあると明かした。どうやらそれはアントンたちが雇った不審な男らが集っていた日と同日だったようで、レミリアは自分が遠目に見た人物がまさかのラッセルだったことに少し驚く。
「レコルテくんの頼みとはいえ、やはりお会いしたことのない方を弁護するのはと思いまして。しかし、杞憂だったみたいです。貴女は彼が保証した通りの女性でした」
「……彼は何と?」
思わず気になってレミリアは尋ねる。
ラッセルは茶目っけのある表情を見せた。
「思いやりがあり、とても素敵な人だと」
「………!」
「今のは私の第一印象です」
「ラッセルさん!」
レミリアは慌てて怒った顔を作ってみる。しかし、上手く出来ている自信はなかった。彼がこのような冗談を言うタイプだと思っていなかったから、反応が遅れてしまったのもある。
結局、レミリアとラッセルは夕食を楽しみ、その後長めのデザートタイムを過ごして別れた。シンプソン邸の料理長の腕前はラッセルも気に入ったようで「機会があれば是非ともまた!」と笑顔で夜道を帰って行った。




