42 月曜日
「まぁ~~そりゃ良かったわね!おめでとう!よっ、公爵家の女当主!新時代の先駆者!!」
「…………」
「なーんて言うと思った?」
「違うのよ、デミルカ。これには理由があるの。というか、私的にはハッピーエンドなのよ。だってアントンたちには裁判で勝ったし、もう何の心配もないんだもの」
デミルカ・ブラウンはヒクッと頬の筋肉を震わせると、何か言いたいことを流し込むようにティーカップを傾けた。どうしたの、とは聞かない方が良さそうだ。
元夫との離縁を終え、波乱の裁判にも終止符を打ち、晴れてレミリアは当主となった。屋敷の管理はもともと携わっていたけれど、春に向けて小さな蕾をたくさん付ける木々を見るとやはり嬉しくなる。騒動を経ても残ってくれた使用人たちにはこれまで以上に気を配り、不便なことがあればすぐに知らせるように頼んでいた。
「弁護士は?」
「え?報酬は結局受け取ってくれなかったから、今度うちのお屋敷で食事をご一緒する予定だけど」
「そっちの弁護士じゃないわよ。もともとのお抱え弁護士のことを言ってるの!」
目を閉じて苛立ちを露わにそう言うデミルカに、内心レミリアはお手上げの状態だった。
お抱え弁護士とはつまりホークスのことで、デミルカはレミリアの好意に勘付いているのだ。しかし、彼女に満足してもらえるような展開を迎えることはたぶん出来ない。ホークスからは事務所に来ると仕事が止まると言われているし、裁判も終わって用もないのに今まで同様にプラプラ訪問するのは難しい。
「茶葉代とコーヒー代が勿体無いって言っていたし……特に頼むべき用事もないから……」
「お馬鹿さんねぇ、そんなの茶葉と豆を持参したら良いでしょうよ!頼み事は自然に発生するのを待つんじゃなくて、こっちから作るのよ!」
「作る………?」
「ポヤポヤしてたら他の女に取られるわよ。いくら信頼関係があるって言ったって、今の貴女たちは友達同士でしょう?その善人弁護士、困った女を放っておけないタチで言い寄ってくる女はいっぱい居るんじゃないの~~??」
「そんな言い方、」
否定するために立ち上がったとき、脳裏で積み上がった督促状が浮かんだ。
そういえば、ホークスはいつだって誰かのために働いていた。弁護士という仕事をしているのに、珍しく彼はお金に無頓着で、ラッセルの言葉を信じれば報酬を支払う当てのない人の弁護も請け負っているらしい。
「ま、言いわ。最近聞いた言い伝えなんだけどね、運命の神様には前髪しか生えてないらしいの。あのときああしてればって思っても、そのときには全部手遅れってわけ」
捨て台詞のように言い切ると、デミルカは訪れて来たときと同じく竜巻のごとく部屋を出て行った。ソファの上にハンカチが残されているのを見て、レミリアは慌ててメイドに渡すように託けた。




