28 詐欺師の覚悟
身勝手で傲慢で利己的。
冷酷で非道な詐欺師。
どうやら、夫がいだいているレミリアの印象はそんな感じらしい。
郊外にある恋人エロイーズ・バフの屋敷にてメラメラと闘志を燃やしているアントンは、二人で手を取り合ってレミリアへの復讐を企てているようで。連日のように届く手紙に加えて、探偵でも雇ったのか今週に入ってからはシンプソン邸の前で数人の男が待ちぼうけしている。
「………また来ていますね」
気味が悪そうに言うメイドの一人に向かって頷くと、レミリアは勢い良くカーテンを閉めた。
「こうも熱烈なアピールがあると困っちゃうわね。隠そうって気はないのかしら?」
「呼び鈴を鳴らすわけでもないですし…… 私が行って追い払って来ましょうか?」
「大丈夫よ。雨でも降ったら帰るでしょう」
しかし、実際には彼らは雨が降っても、寒空から雪が降って来ても帰らなかった。ただじっと何かに耐えるみたいにその場に突っ立って、シンプソン邸を睨み付けている。
警察を呼ぼう、という何度目かの提案を断ってレミリアは重たい腰を上げた。
「私が対応するわ」
すぐさまギョッとしたように使用人たちが取り囲む。
「行けません奥様!そのような真似をして何かあった場合にどうするのですか!?」
「そうしたら好都合よ。暴行罪で突き出せるから」
「命を取られたらおしまいです!アントン様やヘイズ様のことです、きっと自分たちの手が汚れない手法を考えて取っているのでしょう!」
「でも貴女たちがこうして怯えているんだもの。身なりからして話が出来ない相手でもない筈だし、少しだけ会話させてちょうだい」
レミリアは心配そうに両手を組むメイドたちの前で身を翻して、外出用のコートを羽織った。もう一度窓ガラスに近付いてみると、地上からもこちらを見返す顔がチラホラある。
一つ短く息を吐いて、レミリアは部屋を出た。
「こんにちは。どうもご苦労様」
まさか出て来るとは思わなかったのか、男たちは驚いたようにそれぞれ目配せをする。何が入っているのか大きな鞄やトランクを片手に持った比較的強面の男たちがレミリアを前にオドオドするのは愉快に感じた。
「貴方たちの雇い主は誰かしら?アントンかヘイズ、もしくはバフ男爵家のエロイーズ様?」
「お伝えは出来ない。監視の役目があるとだけ伝えておく」
フンッと鼻を鳴らして見下ろす双眼は偏屈で高飛車そうだ。遠目からでは表情まで分からなかったけれど、当たり前にみんな友好的ではない。
レミリアは自分を睨み付ける三組の目を見比べた後で、少し離れた場所にもう一人老いた男が居ることに気付いた。こちらは近付いて来る気はないようで、ただベンチに座って新聞を開いている。
ただの休憩中の通行人だろうか。
観察を続けると男はフイと顔を背けてしまった。
「弁護士は見つかったか?」
唇をほとんど動かさずに、レミリアを取り囲む男の一人が尋ねる。勝気な顔で笑顔を作ったつもりだけれど、上手く出来た自信はなかった。
「まぁ、無理な話だろうな。詐欺師に加担するほど弁護士たちはバカじゃあない」
「言葉遣いに気を付けなさい。貴方たちが相対している相手は公爵家の当主よ。それとも、雇い主に似てマナーがなってないのかしら?」
「この………ッ!!」
殴り掛かろうとした小柄な男を隣の男が取り押さえる。拳を振り上げたままで舌打ちすると、男は再び黙った。
「アントンだろうが、ヘイズだろうが、どうだって良いわ。この家は誰にも渡さない。どうしてもと嘆願するなら、バフ家の令嬢からいただいた土地ぐらいなら返しても良いけれど」
「………いつまでそんな顔を続けられるやら」
「裁判所で会いましょうと伝えて。一番良いスーツを着てくれば良いわ。きっと最後の晴れ舞台になるでしょうから」
敵意を持った男たちを前にすると、外気の寒さをより強く感じた。レミリアは窓から覗くメイドたちを盗み見て、拳を固める。
「もう来ないでちょうだい。私の大切な人たちが怖がってしまうの」
「お前が逃げないように見張れと言われている」
吠えるような口調にレミリアは短く笑って、三人の男らを見上げた。
「私は逃げないわ。このお屋敷がある限り、どこへも、絶対に」




