27 目線◆ユミル視点
「はぁ………」
「どうしたのよ、ユミルったら。最近やけに溜め息が多いみたいだけど恋でもしているの?」
メイド仲間のドリーがそう言って愉快そうに近付いて来ます。私はどんよりとした表情を消す努力もせずにただ首を横に振りました。
「だったらどんなに良いでしょうね」
「貴女さえ望めばいつだって私は食事会をセッティングするわ。そうそう、今度奥様にお休みをもらって新しく出来た酒場に行かない?貴族の息子なんかも出入りしてるらしいの!」
「ドリー、私は今真剣に悩んでいるのよ。探し求めてた人に会えそうだったんだけど、もらった紙切れに書かれた住所に行ったら抜け殻。もう引っ越しした後だったんだから……」
「へーそりゃ残念ねぇ。相手は軍人?それともまさか何処かの令息………!?」
抜け駆けは許さないんだから、とグワッと口を開けて怒鳴り出しそうな同僚を落ち着かせるために、もう一度首を振ります。
「所用でお会いしたかった女性の方よ。せっかく辿り着けそうな命綱だったのに、こうも残念な結果に終わるなんて」
「命綱といえば、最近レコルテ先生はお屋敷にいらっしゃらないわよね?今まで奥様の右腕みたいに協力してくださっていたけど、今回のアントン様の申し立てはどうされるつもりなのかしら」
私はドキッとしました。
そうなのです。奥様が弁護士探しに苦戦している間もアントン様からの手紙は届き続けており、最近では弟のヘイズ様に雇われたという代理弁護士の方までお屋敷を訪れて来ました。奥様の顔には今も尚、深い疲労の色が浮かんでいます。
役所が承認した事実を詐欺だと証明することなど出来るのでしょうか?私には分かりませんが、疲れ切った奥様が一人で立ち向かうには重い問題であることは一目瞭然でした。
「………どうして奥様はレコルテ先生を頼らないのかしら?」
私は自分がずっと抱えている素朴な疑問を同僚に投げ掛けてみます。長い髪を一つに結った彼女もまた同じことを不思議がっているようで、ただ首を傾げる素振りを見せました。
「分からないわ。喧嘩でもしたとか?」
「そんな……友達でもあるまいし」
「でもなんだか、ただの仕事相手というわけでもなさそうだったわよね。私、そういうのに敏感なのよ。意識はしていたと思うの」
私はレコルテ先生と一緒にいるときの奥様の様子を思い浮かべてみます。言われてみればそんな気もしますが、ハッキリとそう断言出来るほどではないようにも感じます。
「思い過ごしじゃないかしら?」
「いいえ。目で追ってたから分かるわよ」
「奥様はあまり感情を出すタイプではないでしょう。ドリーの主観が入ってると思うわ」
「バカねぇ、ユミル。何言ってるの」
「え?」
驚いて口を開けたまま振り返った私に、少し背の高い同僚は呆れたように顔の前で人差し指を振りました。
「奥様じゃなくて、レコルテ先生の話よ」




