20 アントンの復讐
「え、詐欺罪?」
「はい。アントン様は奥様を詐欺師であるとして、今回の当主交代を無効にしようとするつもりのようです。申し立てが受理されて裁判となると、こちらも色々と準備が必要になるかと思いますが、一度レコルテ先生にご相談されますか?」
「あ……いえ、」
言い淀むレミリアを見て、メイドの女は不思議そうに首を傾げた。シンプソン公爵家のお抱えの弁護士はホークスなので、彼の意見を仰ぐのが妥当だと思っているのだろう。
それは至極正論なのだが、つい先日レミリアはホークスに言われたのだ。今後公爵家の問題に関しては関与することが出来ないと。
「一度私の方で預かるわ。まだホークスには何も伝えないでもらえる?」
メイドはぺこりと頭を下げて「承知しました」と言い残すとそのまま部屋を出て行った。
離婚後から毎日にように届いていたアントンからの手紙を考えると、これは驚くことではない。彼なりに恋人と話し合って、結論を出したのだろう。無理矢理に乗り込んで来なかっただけまともだ。
問題は、裁判沙汰になった場合の弁護士の手配。
あの言い方ではきっと、ホークスを頼ることはもう出来ない。彼が言っていた貴族の相手を得意とする有能な弁護士を紹介してもらおうか?
(ただの弁護士じゃなかったのに……)
甘えていた節はあった。
心の拠り所にもしていた。
色々と事情を知った上で相談に乗ってくれるホークスは、レミリアにとって大切な存在で。本当は、あの事務所ではなく彼自身が憩いの場所だったのだと今なら分かる。
短い溜め息を吐いて、窓のそばに寄った。
灰色に澱んだ色の雲が空を覆っている。
冬に近付いているためか、ここ最近はなかなか青空を見せてはくれない。庭の植物たちも心なしか元気がないように見えた。
「大丈夫よ、レミリア。いつだって自分でやってきたじゃない」
励ますように言葉にすると、目を閉じる。
難しいことではない。自分の手で弁護士を探せば良い。またホークスに連絡して彼の知り合いを紹介してもらうのも、なんだか気が引けるし、どうせなら自分で調べて直接面談を重ねた上で、一番良いと思う人を選んだ方が良いだろう。
これからまた信頼関係を築く必要がある。
次の弁護人が、ホークスのように気さくな人ではなくても、仕事をこなしてくれるなら良い。もともとレミリアは彼に頼り過ぎだったのだ。弁護士はただの弁護士、友人なんて思ってはいけなかった。
(私だけが思ってただけかもしれないけど、)
自嘲気味な笑いが漏れる。
これ以上重たい気分になりたくなかったので、レミリアは窓から離れて、出掛ける支度をすることにした。決意が出来たなら、早く行動した方が良い。




