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第三章 ~『フーリエ公の末路』~


 決闘宣言は場の空気を凍らせたが、それは怒りを静めたわけではない。沸騰石に水をかけた時のように、神兵たちの怒りという名の水蒸気が湧き上がった。


「卑怯はてめぇだろうが!」

「怪我人に決闘を申し込むクズは殺せ!」

「俺たちが相手になってやるよ!」


 神兵たちは一斉に襲い掛かろうとする。しかし彼らに待ったをかけたのは、張本人のアルトであった。


「決闘を申し込まれたのは私だ。私が相手をする」

「ま、待ってください、アルト様。あなたは怪我をしていたのですよ」


 クラリスの回復魔法で気力も怪我も癒えたとはいえ、心配であることに変わりはない。彼女は止めるようにと頼むが、アルトは首を横に振る。


「フーリエ公、先ほどすべてを賭けてといったな?」

「儂の全財産を賭けよう」

「それだけでは足りない。領主の座も賭けろ。それが決闘を受ける条件だ」


 全財産を奪っても、領民に重税を課すことで、回収するのが、フーリエ公という男だ。やるならば徹底的に、権力まで奪ってこそ初めて意味がある。


「領主の座か……クソッ……」


 フーリエ公は予想していなかった条件に戸惑う。もし負ければ本当の破滅であり、平民以下の生活を過ごす羽目になるからだ。


「アルト公爵様のご提案、素晴らしいではありませんか」


 ゼノがパチパチと拍手を送る。その口元には変わらず笑みが浮かんだままだ。


「儂はまだ受けるとは言っておらん」

「ではいますぐ死にますか?」

「ぐっ……」

「私はあなたの決断に任せます。決闘を受けるか、断って死ぬか。好きな方を選んでください」


 最悪の二択だが、断れば神兵たちに殺されるのだ。フーリエ公は苦渋の決断を下す。


「その条件で決闘だ。貴様の財産も領地も、そして聖女でさえもすべて儂のモノにしてやる」


 フーリエ公は魔力から水の弾丸を作り出す。しかしその大きさは先ほどまでとは比較にならない。大砲の弾にさえ匹敵する大きさの水が高速で回転する。


「王宮から追放された出来損ないに、儂の水魔法は止められん。貴様は悪女と共にここで死ぬのだ」


 フーリエ公はアルトを侮辱する。その言葉を向け、彼の瞳が鋭い眼光を輝かせた。


「儂の侮辱が図星だからと怒ったのか?」

「いいや、違う」

「王宮を追放されたことが嘘だとでも?」

「それも違う。私は醜さゆえに王族としての立場を失った。それは紛れもない真実だ」


 魔物の呪いでこの世の者とは思えぬほどに醜かったアルトは、家族から愛されていなかった。


 厄介払いするように辺境の領主の座を与えられた彼は、自他共に認める王族の落ちこぼれだった。だが唯一人、そんな彼を認めてくれる者がいた。クラリスである。


 獅子が大切な子を狙われると牙を剥くように、アルトもまた全身に魔力を滾らせる。怒りが大気を震えさせた。


「フーリエ公、私は君がクラリスにした仕打ちに怒っているのだ。侮辱し、傷つけ、私の人生で最も大切な彼女を奪おうとした。それだけは絶対に許せないッ」


 一歩ずつ近づいて、距離を詰めていく。フーリエ公から油断は消えていた。出来損ないとして王族の地位を追いやられた彼だが、放っている威圧感はハラルド王子さえも超えていたからだ。


「だがそれでも儂は負けられぬのだ」


 フーリエ公は水の大砲を放つ。人であるなら直撃すれば死を逃れることはできない。しかしアルトは手を前にかざして受け止めようとする。


「馬鹿め。高速で放たれた水を素手で受け止めるなど自殺と変わらん」

「……どうやら忘れているようだな。私はすべての属性を扱える自然魔法の使い手なのだぞ」


 アルトの掌から魔力が凝縮され、炎の弾丸が放たれる。水の大砲と相殺し、水蒸気で視界が白く染まる。


「ど、どこにいった!」


 真っ白な視界で、フーリエ公はアルトを探る。気配を感じ、振り返ると、そこには拳を振り上げるアルトがいた。


「クラリスの痛みを受け止めろ」


 振り下ろした拳がフーリエ公の顔に突き刺さる。魔力を拳に集中させた一撃だ。鼻骨を折り、前歯を砕いて、彼を吹き飛ばす。


 芝生を転がりながら、フーリエ公は血を吐いて倒れる。一撃。たったそれだけで決着が付いた。


「アルト公爵の勝利です!」


 ゼノの宣言で神兵たちは雄叫びをあげる。その声を屋敷の外で決闘を見守っていた群衆たちも耳にする。


「フーリエ公、領主辞めるってよ」

「ひゃっほー、最高だぜ!」

「これで俺たちも幸せになれる!」


 群衆はアルトが新しい領主になることを歓迎する。それはクラリスも同じ気持ちだ。


「アルト様が領主になれば、より大勢の人を幸せにできます。私も傍で支えますから、共に頑張りましょう」

「もちろんだ。なにせ私たちは夫婦なのだからな」


 アルトとクラリスは手を繋ぐ。仲睦まじい彼らを称えるように、「公爵様万歳、聖女様万歳」とエールが鳴り響くのだった。


くぅ~疲れました! これにて第三章完結です!!

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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醜い私を救ってくれたのはモフモフでした ~聖女の結界が消えたと、婚約破棄した公爵が後悔してももう遅い。私は他国で王子から溺愛されます~



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