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第三章 ~『畑での回復魔法』~


 クラリスの目の前には、見渡す限りの枯れた大地が広がっていた。緑は少なく、麦はポツリポツリと生えているものの、土地に栄養がないせいで、実りが少ない。


「この畑に来るのも久しぶりですね」

「既に使われていない場所だからな」


 食料自給率を上げるべく、屋敷の裏手を開墾したのがこの畑だ。だが土壌が枯れているため、作物が育たずに放置されていた。


「アルト様、私の思い付きを試してもよろしいでしょうか?」

「この畑は私の個人所有だ。好きにするといい」

「では……」


 クラリスは膝を折ると、畑に手を触れる。冷たい土の感触が広がるのを感じながら、アルトの感心する声を聞く。


「畑の生命力を回復させるわけだな」

「上手くいくと思いますか?」

「可能性は十分にある。期待しているぞ」

「はい!」


 クラリスが全身から魔力を放つと、輝かしい光が畑から溢れ出す。次の瞬間、地面は大きく揺れ始めた。


「じ、地震でしょうか」

「分からん。だがあまりにもタイミングが良すぎる」


 クラリスの回復魔法が発動すると同時に揺れ始めたのだ。因果関係があると考えるのが自然だ。


「私に掴まっていろ」

「は、はい」


 クラリスはアルトの腰をギュッと掴みながら、揺れが収まるのをジッと待つ。数秒後、先ほどまでの地震が嘘だったかのようにピタっと静止するが、続くように畑から黄金の麦が顔を出した。


「まさかこれほどとはな」


 土壌に栄養を与えるだけの次元ではない。無から有を生み出すが如く、実り豊かな麦畑を一面に広げたのだ。


 アルトはクラリスの回復魔法が無くした腕さえ復元したことを思い出す。彼女の力はただ自己治癒力を高めるだけではない。本来あるべき理想形を取り戻す力こそが、回復魔法の真骨頂なのだ。今回の現象も土壌に埋まったままで芽吹かなかった麦が、本来あるべき姿を取り戻した結果だった。


「これで皆さんにご飯を食べてもらえますね」

「ああ。食料問題は解決だ!」


 クラリスの回復魔法が畑にも効果ありだと証明された以上、食料の自給率を上げることは容易い。


 特にアルト領は荒れている未使用の土地が多く余っている。それらをすべて肥えた土壌に変えられるのだ。領民すべてが満腹になるまで食べても、余るほどの作物が手に入る。


「さらに量だけじゃない。この麦を見てくれ」

「フーリエ領の麦より大粒ですね」

「つまり質にも影響を及ぼすことができるのだ。さらにだ。クラリスの力はきっとこんなものではない。土壌そのものを癒せるのなら、麦以外にも効果があるはずだ。試してもいいか?」

「はいっ」


 アルトに連れられて、麦畑からリンゴを育てている果樹園へと移動する。高木樹に赤い実が成る畑には、甘い香りが漂っていた。


「ここのリンゴも痩せていますね。ただ店で売られていたリンゴより艶があります」

「この畑で育てているのはフーリエ領の最高級の品種だ。アルト領でも育てられないかと実験していたのだ」

「ですが、どうしてリンゴを?」

「忘れたかもしれないが、クラリスが嫁いで来たばかりの頃に、甘味処で食べたリンゴのデニッシュを褒めていただろ」

「懐かしいですね」

「覚えていてくれたのか?」

「当然です。なにせ私とアルト様の初デートですから」

「そ、そうか……なんだか、照れるな」

「それで、リンゴとどう繋がるのですか?」

「実は店主からレシピを教えてもらってな。私も同じものをご馳走してやりたいと、畑に小麦とリンゴを植えたのだ」

「えええっ、素材から作るのですかっ!」

「ゼロから作った方が、愛情が籠るだろ?」

「た、確かに。愛は伝わってきましたね」


 料理をご馳走するために材料から栽培するのだ。馬鹿げた行いだからこそ、人並みならぬ愛情を実感した。


「本当は私一人で育てたかったのだがな。ここの土壌では育てることができなかった。悪いがクラリス、力を貸してくれ」

「もちろんです」


 麦畑でしたように、クラリスは果樹園にも回復魔法を放つ。実っていたリンゴがみずみずしさを取り戻し、艶のある果実はより一層輝きを増した。


 成果を確認するように、アルトはリンゴを手に取ると、噛り付く。ほどよい酸味が口いっぱいに広がり、溢れ出す蜜が舌を喜ばせた。


「リンゴも麦もどちらも最高の出来栄えだ。これならフーリエ領に農作物で依存する必要もなくなる」

「食料問題は解決ですね」

「そしてもう一つ……私はやられっぱなしを許すような甘い人間ではない。きちんとやり返さないとな」


 アルトはリンゴをジッと見つめる。フーリエ公による嫌がらせへの対抗措置を、頭の中に描くのだった。


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