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大好きだから、その求婚には頷けない  作者: 相内 充希


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第12話 ブレント視点①

 シートに乱れて広がるピンク色の髪。

 驚いたように見開く目とふっくらした色っぽい唇。


 何度夢見たか分からない光景に息を呑む。


 しかしこれが夢ではなく、ほんの少し身をかがめるだけで魅惑的なそれらに触れることができることに気づき、冷水をかけられたみたいに一気に目が覚めた。


 自分の腕の中にいる女は、長い間焦がれ続けてきた唯一の人。

 誰よりも大切にしたい女。


(なのになんでこうなった)


 寝起きが悪いことに定評があるブレントだ。

 寝不足が続くと、ちょっとした昼寝でも、起きて通常運転に入るまで時間がかかってしまう。表面上普通に見えていても実は相当ぼんやりしているのだ。

 だから気を付けていたのに、旅行の間中眠れない夜が続きすぎたせいで、つい気が抜けてしまった。汽車の個室なら安心だと思ってしまったのだ。


 昼寝なんて我慢すればよかった。


   ◆


 あの日。たまたま休憩で訪れた食堂で、サンディアナとヴィオラが話し込んでいる声が聞こえてきたのは偶然だった。ランチサービス時間外になっていたため自分でコーヒーを淹れていると、内緒話をしているのか、他に人気のない食堂で二人が小声で話す声がところどころ聞こえてきたのだ。


「失恋したショックで帰省もできなくなったサンディアナ――」

「――縁談が――」

「サンディのお父様が、よさげな独身男性と引き合わせて―」


(おい、ちょっと待て。冗談だろ)


 ゆっくりと落ちるコーヒーにイライラしながら、すぐに問い詰めに行きたい気持ちを抑える。

 長年の想い人であるサンディアナと彼女の親友ヴィオラは、学園の一つ先輩だ。

 二人とも学園時代に役員などで一緒になった関係もあり、今も仲がいい。


 背を向けているサンディアナはブレントに気づいていなかったが、ヴィオラはこちらに気づき、いつものように目線だけで同席を誘って来た。

 ならば深刻な話ではないのだろうと、淹れたばかりのコーヒーを手に二人のいるテーブルに近づくと、サンディアナの「恋人でも連れて帰れば違うんだろうけどなぁ」という、ボヤキのような声が聞こえてホッとした。

 まだ手遅れではなかったらしい。


「私が男なら恋人役をしてあげるんだけどね」


 申し訳なさそうにそんな発言をしたヴィオラが、すぐそばまで近づいたブレントに再び視線を送った。

 一見おとなしやかなこの女性の目は、口以上にモノをいう。


 従順そうに見えて、その実サンディアナよりはるかに強い先輩の目はあきらかに、

「ブレント、あなたがしなさい」

 と言っていた。


 まさか断らないわよね?

 そんなことを雄弁に語る強い笑顔にも苦笑するが、サンディアナの恋人役? もちろん断る気はない。

 さっぱり状況は分からないが、ヴィオラは機を読むことにたけている。彼女から見て、これはブレントにとってもいいことになると考えているのだろうと判断したのだ。


   ◆


(ヴィオラは俺の気持ちに気づいてたのかもしれないな)


 隠しているつもりだったが、彼女が設定した恋人の役柄は、そのままブレントに当てはまるものだった。抑えているだけで、本当は彼女に対する独占欲も結婚願望も強い。

 サンディアナが恋人を連れて帰りたい理由を聞いたときは、ほんの少し獰猛な気持ちになったが、彼女にはバレていないだろう。


「ディア」


 ブレントだけが呼べる愛称に頬を染めるサンディアナが可愛い。自分自身のままで年下の後輩ではなく、対等な恋人として振舞えるのがこれほど楽しいとは思わなかった。


 彼女が好きだった(と思っていた)アベルを見習い、ガラス細工を扱うように彼女を大切にすれば、サンディアナは驚くほど綺麗な笑顔を見せてくれる。頬を染め、嬉しそうに微笑む彼女を、何度抱きしめたいと思ったか分からない。

 いや。もちろん普段も綺麗だと思っていたのだ。しかし立場が変わるだけで、二人の間にある空気が全く変わってしまったような気がしたし、その空気が彼女を綺麗にするのが楽しくて、色々甘やかしたくなってしまう。


 普段の軽口の応酬ももちろん楽しいが、ブレントを恋人として扱ってくれる彼女は最高の恋人だったのだ。


(この笑顔はやっぱり、他の奴には渡せないな)


 サンディアナが好きだと気づいたとき、彼女には好きな人がいるのだと思い込んだ。アベルのふりをするブレントの前での彼女は、ブレントの前にいるときよりもおとなしやかで、落ち着いていて、可愛かったから。

 ブレントといるときは軽口を言い合うし、喧嘩のようなことになることもある。もちろん本気ではないし、そんな関係が楽しいのは確かだったのに、アベルにだけは見せる彼女の可憐さを見て、いつからか嫉妬するようになった。


 もちろん彼女が王太子であるアベルに、きっちりと距離を取っているのは知っていた。それでも時折、ふとした時感じた視線に、彼女の気持ちを感じたことが何度かあったのだ。


 きっとサンディアナ自身気づいてはいない。自分がどれほど切ない目でアベルを見つめているか。

 しかもそれは本人ではなく、アベルのふりをしたブレントなのだ。

 感じる視線に気が狂いそうになり、彼女をゆすぶりたくなったことが何度もある。


 俺を見てくれ! ――と。


 姿を変える魔道具は、つけた人物の魔力に反応する。

 ブレントの力では髪と目の色を変え、少し釣り気味の目を下げるのがせいぜいだったが、変えているのはそれだけなのだ。アベルのように柔らかい話し方をしていても、柔和な表情を心がけていても別人。


 ただ、もしも魔道具の力でまるっきり姿を変えたとしても、特定の人だけには真実の姿が見えるという。もともとこれが大昔、ある王女が結婚相手を見つけるために作られたことを知っているアベルには良くからかわれたものだ。


「わたしのふりをしている時にブレントだってわかる人がいたら、それはきっと、運命の相手だね」


 いたずらっぽい表情で笑う従兄に曖昧に笑い返すのは、それがサンディアナじゃなければ意味がないと思っていたからだ。

 しかしアベルが卒業するまで、サンディアナからはついぞ気づいているような素振りを見ることはなかった。

もう少しブレント視点で続きます

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