そして始まる……。
やたらと相談されるので相談員のお仕事をしていました。人様と話していると自然と困りごとを相談される。いや、話してなくても相談される! スーパーのトイレで手を洗っていただけなのに、隣でうがいをしていたご婦人から「抜歯した所の血が止まらんのやけど、どうしたらいい?」って相談されたことがある! なんでスーパーのトイレで、そんな医学的なことを私に訊くのですか!?
ソウ:水ですすぐと血が固まりにくくなります。ちょっと我慢して血が止まるかようすを見てみましょう。その間に、歯科の先生に電話で相談してみましょうか。
私も私や! 一所懸命に答えを探すな!「そんなん、知らんやん」で終わらせろ! この時は歯科に電話をしている間に血が止まりました。お役に立てて何よりでしたが、通りすがりの私でなく医師に相談してくれ!!
相談してくださった方が一様に仰るのは私は、「異常に話しやすい」そうです。「異常に」……誉めてない。絶対に誉めてない。気が付くと色々と話しているそうです。
転機は「絵画塾に事務員として就職したが、気づけば進路相談担当になっていた」です。高卒の私がいつの間にか高校生の美術大学の進路相談にのっていた。高卒なのに、なんでやねん! そのうち保護者も相談してくるようになって、上司から「ソウさんの名刺に、事務員じゃなくて進路相談担当って書いて」って言われた! でもちょっと自慢させてください。この時に京都市立芸術大学(東京の東京藝大、京都の京芸と呼ばれる名門芸術大学)に5人合格させたのは私です! この記録は破られないまま絵画塾は他の塾と合併したので、私、レコード保持者です!! やるときはやります!!
もちろん絵の指導はできません。できませんけれど異常に話しやすい特性をフルに活かして、生徒たちの力になってくれる方々を引っ張ってきた! 美大の学生だったり、先生だったり、画家だったり、大学の入試担当を引っ張ってきて、生徒に協力してくださるようお願いした。絵画モデルもスカウトしたなぁ……。
そういうわけで「こんなに相談されるなら、相談を仕事にしたほうがいいんじゃないか?」そう考えて、相談員のお仕事をしていました。
色々と辛い相談がありましたけれど、一番しんどかったのは電話で「これから人を殺しにいく」っていう相談(相談というより殺害予告)でした(涙)。ちゃんと道具も準備して相手のいる場所も特定して、完全にロックオン状態(涙)。心のどこかで相手を殺したくないから電話をかけてきたのだろうけど、私の対応が間違ったら殺人事件が起きる(涙)。
あらゆるテクニックを駆使して電話をかけている方の本名を聞き出し、住所を聞き出し、現在地を聞き出し、相手の名前や住所を聞き出し、相談と同時進行で警察へ通報。お話を聴かせてもらった結果「また殺したくなるかもやけど、今日はやめておくわ」という言葉を引き出し、本当に命が削られる相談でした(涙)。あれは、しんどかった(涙)。
刃物の上を裸足で歩くような仕事をするうちに、私のメンタルがやられた。人様のお役に立ちたい気持ちはあるが、自分も大事にしたい! できることはベストを尽くしてやりきりました! 後は他の人に任せる!
そういう背景もあって、相談とは違うお仕事に転職することにしました!
希望条件は、以下の通りです。
・家から近い。
・11~15時勤務。
・できるだけ人と話さない仕事。
・軽作業。
紆余曲折あって面接にこぎつけたお仕事は、家から近くて11~15時のお仕事! スポーツジムのお仕事です! できれば人様と話さないですむお仕事がいいけれど贅沢は言ってられません!
昨日はいよいよ面接だったのでドキドキしながら準備をしました。
一番悩んだのが服装です。ジムだからジャージのほうが良いだろうか? それともスーツ? 私が以前に利用者として通っていたジムは、スタッフ全員ド派手なウェアを着ていました。蛍光色や花柄のスポーツウェアだった。あんなに派手なのは持ってないけど、白いウェアなら持ってる……。クツはピンクのスニーカーがあるし、白とピンクで行こうか?
面接前に行ったまつ毛のエクステのサロンで、アイリストさんに相談しました。
ソウ:スポーツジムに仕事の面接へ行くのですけれど、スポーツウェア? それともスーツ?
アイ:スーツです! スーツなら間違いないです!!
おお! たしかに! スーツなら常識を疑われることはない! あまりに長い間引きこもっていたので一般常識を忘れていた! あぶない! あぶない!
ずっと着ていないスーツを引っ張り出して、久しぶりの履歴書も書いた。そろそろ時間なので、お化粧をします!
お化粧……。引きこもり生活になってから滅多にしなくなったので、やり方を忘れた……。遠い記憶をたぐり寄せながらアレコレ塗って加工します。最近はグレー色の眉毛が流行っているようですけれど、私の持っているのは茶色です。…………ま、いいか。
通っていたジムのスタッフは派手なネイルをしていたから、マニキュアくらい塗ったほうがいいかな? 爪は短いから長くはできないけど、色くらい付けたほうがいい?…………ま、いいか。メンドクサイ。
もともとドラッグストアで品出しのバイトがしたかったので、大人の眼鏡(老眼ともいう)を作りました。たぶん細かい値段を見ると思ったから。でもスポーツジムなら眼鏡よりコンタクトのほうが良いような気がする……。
アレコレ悩みながら準備を終えて久しぶりに全身鏡を見ます。久しぶりすぎて鏡にバスタオルが掛かってた。ww 鏡からバスタオルを取って、お化粧してジャケットを着た自分を見る。…………いつもと全然ちがう。ww ちゃんとした人に見える。ww
ドキドキしながらジムへ行きます。応対してくださったのは、さわやかな男性の店長さま。ニコニコと優しそうな笑顔です! 一気に緊張がほぐれる!
仕事の内容はジムの清掃を中心に、入会や退会などの事務手続きがちょっと。マシンの使い方を訊かれることもあるが、使い方は研修で教えてもらえるらしい。お掃除は得意です! 料理は絶望的にヘタですけれど、お掃除は上手にできます!
店長:服装は黒やグレーのポロシャツとジャージでお願いします。シューズも黒かグレーです。
ソウ:良かったです! 派手なウェアを着るのかと思っていました!
店長:とんでもない! あくまで主人公はお客様です! スタッフは目立たないのが一番! 白やピンクは着ないようスタッフにお願いしています! 金髪や派手なネイルもいけません!
あっぶねぇ! 白やピンクのジャージを着て派手なネイルで面接に行ったら落とされてたかも! 黒いジャージなら13本(!)も持ってるから、新しく買わなくていい!!
ほっとしていると、店長さまが用紙を取り出した。
店長:申し訳ないのですけれど、一応決まりで……。
ソウ:決まり? なんでしょうか?
店長:これから筆記テストを受けていただきます。
えええええ!? 筆記テストおおおおお!? 聞いてません! 心の準備も勉強もできてません!!
テストと聞いた私の顔が、ものすごい顔になってたみたいです。店長さまは慌てて言います。
店長:テストの点数で採否が決まるわけじゃありません。あくまでも形式ですから安心してください。
そうは言っても……。心臓をバクバクさせながらテストに挑みました。
・温故知新……読み仮名を書け……わかる! おんこちしんです!
・温故知新の意味を書け……意味!? 古いことを大事にして、新しいことを知る?(正解は、昔のことを尋ね求め、そこから新しい知識・見解を導くこと。オクスフォード・ランゲージより引用)。
・山( )水明…… ( )に入る漢字と、意味を書け……( )は知ってる! (止)です! 意味は山や水がきれいなこと?? (正解は止じゃなくて、紫。山紫水明の意味は、日に照り映えて山が紫に見え、川が清らかに流れること。美しい山水の形容。オクスフォード・ランゲージより引用)
わかる問題や、わからない問題を解いていると不安になってきた。もしかしてコレって正解を書くんじゃなくて、ボケなきゃダメ?? 関西だから正解よりも面白い答えを書いたほうがいいの??
これってテストじゃなくて、大喜利?? ボケるの? ボケたほうがいいの?
ものすごく悩んだのですけれど、真面目に回答しました。でも「光合成に必要なのは水と光と何?」という問いに「葉緑素」って書いちゃったので、真面目に答えたけどボケたと思われたかも。正解は「二酸化炭素」です。知らんがな。
テストが終わりました! 全部は答えられなかったけど、あとは運を天に任せる!!
店長:他にご質問は?
ソウ:今後の参考に教えてください。もし私が〇〇だったら確実に採用するという〇〇はありますか? たとえば私が50歳じゃなくて20代だったら即採用だったとか、教員免許を持ってたら即決だったとか。
店長様の顔が曇りました。踏んではいけない地雷を踏んでしまった??
店長:正直に言いますと、現時点でソウさんは断トツ一位です。髪型や服装は完璧ですし、話し方も礼儀正しくて優しいので安心して任せられます。でも実は…………。
会社の方針でバイトの雇用時間は決まっているらしい。今いるバイトさんだけでは足りないので、新たに募集をした。でも他のお店を兼任している店長さんが、ここの専任になるかもしれない。そうなるとバイトの勤務時間に変更が生じる。詳しく教えてくださったのですけれど、私がよく理解できなかった。まとめると「帯に短しタスキに長し」状態らしい。
店長:会社がバイトさんを二人雇ってくれたら問題は解決するのですが、そうもいかなくて……。今いるバイトさんも良い方ですし、でも一人だと勤務時間が足りないし、どうしたらいいか悩んでいるのですよ……。ほんとうに、どうしたらいいのか…………。
そして始まるお悩み相談室………………。まただ…………。まさか採用面接で相談が始まるとは思ってなかったけれど、まただよ…………(涙)。
そういえば歩けなくなって病院に行った時も、なぜかドクターが「手術で着る術着が冷たくてツライ!」って私に訴えだしたよなぁ……。そういえば本の打ち合わせで東京へ行ったときも、編集さまから「ご近所の付き合いが……」って話になったよなぁ……。なんでかいつも、同じ展開になるよなぁ…………(涙)。
相談業務をしたくなくてジムの面接に来たのに、相談が始まってしまいました。私もつい黙って傾聴してしまう。辞めたとはいえ職業病はなかなか治りません。相手の話をさえぎらずに、静かに聴いてしまう。店長さんも辛い立場だよなぁ。私が不採用になったら断りの連絡をするのは店長さんだろうし………。そう考えると気の毒になってきた。
ソウ:私、不採用でもかまいませんから。
ななな! 何を言ってるんだ私は!? せっかく見つけた仕事なのに!! また探すの!? また落ち込んで寝込むつもり!? 私は何を言ってるんだ!?
ソウ:私、しぶといですから♪ ココがダメでも他を見つけますから♪
やめろおおおおお!! 口を閉じろおおおおお!! 他の人を押しのけてでも採用されるんだ!! 燃えるゴミ袋を買いたいだろう!? ゴミ袋が買えないと困るのは自分だぞ!!!
でも辛そうな店長さまを見たら、強く言えなくなってしまった。詳細はわからんけど私を断っても大丈夫ですよって言えば、店長さまの気持ちが少しは楽になるかな……と。
ソウ:ご自身のなさりたいようにするのが一番ですよ! もし決められなかったらサイコロ振って決めればいいです! だから悩まないでください! お仕事してたら他にもたくさん悩みはあるでしょう? 悩まなくていい事だったら、悩まないほうが楽です。私のことは気にしないでください♪
店長:ソウさん……。ありがとうございます!
はああ……。せっかく見つけたお仕事だったのに自分から「不採用でもいいですよ♪」なんて言ってしまいました………。私はどんだけバカなんだ? そしてなぜ相談が始まるんだ??? どこへ行っても相談されるって、才能なのか? 体質なのか? 困るのだが!! 私はとても困るのだが!!
今日も採用面接に行きます。同じスポーツジムのお仕事ですけれど、家から少し遠いジム。採用されれば嬉しいけれど、家から近いほうが助かるのだが…………。
また進展がありましたらご報告します。今日の面接は相談が始まりませんように!!




