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特異体質

 寒いですね! 寒いから、うるしの話をします!


 その前に、夏の話を。

 私は素晴らしいベタ足です。土踏まずが無いです。以前にプールから上がってペタペタ歩いていたら、私の濡れた足跡を見た人が「なんの生き物っ!?」と驚愕したことがあります。ムキイイイ! わたし、カッパとかじゃないし! 人間やし!!!!


 土踏まずのない足で歩くと、危険です。特にツルツルの床。フローリングもヤバイです。足が吸盤みたいになって、床に吸い付くのです。吸い付いた結果、足が踏み出せずに転倒します。どんだけ強い吸着力やねん! 自分でハラが立ちます。夏場は汗でしっとりしているので、特に危険です! 高確率でコケる!! 寒さはニガテですけれど靴下をはいていてコケないので、冬は助かります。


 ちょっと話はそれますけれど「転ばぬ先の杖」という言葉はご存じでしょうか?

 文字通り、転ばないために用心して杖をつくこと、転じて失敗しないように前もって準備しておくことです。(日本語版ウィクショナリーから一部引用)


 私は一時、杖をついて歩いていました。メンタルがボロボロになった結果、歩くのが困難になった。杖ナシで歩くと踏ん張れないので、いとも簡単にコケていました。コケないために杖をついて、ヨチヨチ歩いていた。ところがですね! この杖につまずいてコケることがあるのですよ!

転ばないために持っている杖で転ぶ! めっちゃハラ立つのですよ!! そうは言っても誰も悪くないし、杖も悪くない。自分の歩き方が悪いのですが、それでもコケると腹が立つ! 「なんなんだよおおおおお~!!!」と絶叫していました。


 漆の話に戻ります。

 以前、漆職人をしていました。とは言っても、ほんの1か月くらいです。就職したので工房へ行けなくなった。もともと師匠から「漆で食っていけないから、他の仕事を探せ」そう言われて就職したので、円満に工房通いを辞めました。


 漆を塗るようになったきっかけは、知り合いの美術の先生が「作品に漆を塗ってほしいから、漆職人を探している」そう話していたからです。ネットで探すと近所に漆の工房があったので電話をかけて、師匠と友達(?)になって先生を紹介した。ちょうど繁忙期だったので人手が足りず、ヒマだった私が手伝いをするようになりました。


 ここで漆業界の「あるある話」を……。

 能登半島って、ご存じですか? 石川県にある半島です。ここはしつげいが盛んで、輪島塗りが有名です。当時は景気が良くて、輪島塗りは飛ぶように売れていました。作った先からどんどん売れて、職人さんたちは大いに景気が良かった。でも能登半島って、遊ぶ場所がないのですよ。特に大人の社交場がほとんどナイ。ですから職人さんたちは、遠くへ出かけて遊んでいた。

 そんな時、能登半島の近所に「おさわりバー」ができました! 可愛い女性をタッチできるお店ができた! ヤンチャな職人さんたちは嬉々としてお店へ詰めかけ、連日大盛況でした! ところがこのお店、たったの2週間で閉店しました。大儲けしていたのに、なぜか?

 

 じつは可愛い女性たちが、漆にかぶれてしまったのです! 職人さんの手に付いていたごく微量の漆が女性に付着して、肌トラブルを起こしてしまった! 「ゴシゴシ洗えばいいじゃん?」そうお考えになる方は多いと思います。私もそう思っていました。でも漆をぜんぶ取り除くのは、至難のワザです。さらに肌が敏感な方は、空気中に漂っているわずかな漆にも反応します。工房の近くに来ただけで「耳がかゆい」という方がいるくらいです。


 そういうワケで能登半島初のおさわりバーは、多くの人に惜しまれながらすぐに閉店しました。お客さんはたくさんいたけど、働いてくれる人が見つからなかったのです(涙)。


 話を滋賀県に戻します。

私は漆の工房へ通うようになりました。私より数日早く、就職した男性の先輩がいました。師匠の指示でお椀に漆を下塗りする作業を、先輩と私がしていました。ある日、先輩が定刻になっても姿を現わしませんでした。師匠と二人で「真面目な方なのに、ヘンですね」そう言い合っていると、先輩の軽トラが入ってきた。先輩は師匠に近づくと「すみません! しばらく休ませてください!」そう言って頭を下げました。


師匠:どうしたんや?

先輩:痒いのを我慢してたのですが、漆でかぶれて……。

師匠:言われてみれば、顔も腫れてるなぁ……。

先輩:手が腫れてしまって、車のハンドルを握るのも難しいです。細い筆を持って作業できないので、しばらくお休みを……。

師匠:筆が握れんのなら仕方ないよなぁ……。

先輩:漆の筆もですが、自分の筆も握れなくて……。

師匠:自分の筆?

先輩:トイレにいってズボンの中から、自分の筆を出します。

師匠:あぁ、その部分か。

先輩:その結果、自分の筆が漆でかぶれてしまいまして……。現在、当社比2倍の大きさになっています。

師匠:それはスゴイなぁ! 

先輩:大きさだけなら大喜びなのですが、何しろかゆくて!! 気が狂いそうです! 薬を塗っても効き目はありません!


そういう男性同士のやり取りを聞いていて、私は恐怖で震え上がっていました! あちこち腫れる! そして痒くて気が狂いそうになる! 怖すぎる!!


漆は付着すると取れにくい上に、硬化反応がゆっくりです。硬化する反応が終わってしまえば痒くなくなるのですけれど、すごく時間がかかる。ゆっくりじっくり痒みが続きます。

さらに体質によっては、内臓を悪くする場合があるそうです。大量に漆を吸うと、人によっては肝臓だか腎臓を悪くするらしい……。怖い! 怖いです!


私は怯えながら作業をしていたのですけれど、結局、漆にかぶれることはありませんでした。師匠も「お前みたいなヤツ、初めてみた!!」そう言ってました。その頃は自分の幸運さに喜ぶだけで、何が原因か考えたこともありませんでした。


たぶん……たぶん私、人間の体温じゃなかったんだと思います。今でも35.4度とかを叩きだして、人とは思えない低体温なのですけれど、当時は冷え性がひどかった! なんせ一度カラダが冷えてしまうと、元に戻らないのですよ! 常に寒さで凍えていました! ゆえに漆が肌に付着しても、硬化反応をする温度(適温は24~28度)に達してなかったのだと思います。さすがにワキやお腹は24度より高かったと思いますけれど漆が付着する手や足は、死体みたいに冷たかったと思います。


あら? 知らない人から「なんの生き物!?」って言われて「ワタシ人間やし!!」って憤慨してたのに、人外の体だったかもっていう話になってしまいましたね……?? あれ? もしかして私、カッパなのかな?? あれれ??

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