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77話:壁をぶち破れ ←ありがちなカッコいい台詞

「トモモモンを吸収したことで、レンタル召喚事業の収益はかなり改善したよ」


 トモモモンの件が片付き、別魔界の元魔王ザンブグが同僚となり数日後。

 我はマートに呼び出され、実家である魔王城に来ていた。


「これも兄上のおかげさ。偉い偉い♡ 凄い凄い♡ 大好きだよ♡」


 ()のマートはわざとらしく胸を押し付けるように密着し、我の頭を撫で、耳元へ息を吹きかけながら囁いた。


 今のマートは女。

 今日の業務は片付いたのかそれとも休憩中なのか、ゴテゴテトゲトゲした魔王服を脱ぎ、カジュアルなシャツとパンツという庶民のような服装をしている。

 女の時は身長が低いため、魔法で宙に浮いて我と顔の高さを合わせている。


 マートの長い金髪が我の頬へ当たり、花のような香りが鼻腔をくすぐる。が、この匂いは猛毒だ。嗅ぐと死んでしまう。

 まあ我は強いので死なないのだが、それでも気分が悪くなったりするので「離れろ」と意見した。


「おや兄上。僕の体はお気に召さないかい?」

「髪の毒が気に召さぬのだ」

「ふふっ、それは失礼。僕の毒で兄上の体が麻痺すれば、やりたい放題出来るなって思ってさ♡」


 マートは物騒なことを言って笑い、ようやく我から離れた。

 浮遊もやめて床に足を付ける。

 ただし右手だけは我に触れたまま。その長く白い指先で首筋を撫でてくる。


「魔王として、兄上にご褒美をあげないとね」

「褒美? オヤツか!」

「それも良いけど……」


 マートは挑発するような上目遣いになった。

 左手で己のシャツの胸元を大きく開き、バストを見せつけてくる。


「僕を犯して♡ 殺して♡ オモチャにして♡ 兄上の欲望全部を僕の体で満たしてあげる♡」

「いやそれよりオヤツが良い」

「そう。残念♡」


 そう呟きマートはシャツの胸元から左手を離し、同時に我の首筋から右手も離し、そして目を閉じた。

 長い金髪が一瞬で短くなり、背が伸び、手足が伸び、肩幅が広がり、漏れ出る魔力の質も変わる。

 涼やかな目元の爽やか青年。()のマートに姿を変えたのだ。


「まったく。我ながら困ったものだよ。女の時の僕は、隙さえあれば兄上に犯されようとする。まるでネア姉上のような……いや失礼。ふふっ」


 マートは大きく背伸びをしながら、異界の勇者たちの血でカラフルに染まっている椅子へ腰かけた。


「でももしかして兄上は、男の時の僕なら犯してみたいとか思ってたりするのかな?」

「別に思ってはいない」

「ふふっ、それなら良かった」


 マートは笑みを浮かべた。

 我の弟ながらとにかく見目麗しく、そして底知れぬ冷酷さを感じさせる笑顔。

 どこか亡き父上に似ている。ただし厳格だった父上は笑顔など見せなかったので、ただなんとなく似ている気がするだけだ。



 その後、結局ご褒美は相応のボーナス賃金支給で落ち着いた。




 ◇




 その日の夕方。

 我は下宿しているホテルの部屋にて、ベビースターラーメン焼きそばソース味の三十袋一気食いチャレンジを敢行していた。

 三十袋ぶんのベビースターを全て開け、広い大皿に盛る。


 さあ頂こう、と気合を入れた……その時。


「ああああ! うああああああ!」


 甲高い声が聞こえてきた。

 窓の外からだ。

 我はベビースターから一旦手を離し、窓を見た。

 

 すると窓が……というか窓周辺の壁が木っ端微塵に砕け散った。



「おあああああああ! 大変ですの大変ですの! 大変ですのよ! メッシュお兄様ー!」



 壁をぶち抜いて現れたのはイトコの娘、フォルであった。

 右手にタンバリンを持っている。これで壁を破壊したのであろう。

 フォルは楽器から出る音の振動に魔力を乗せ、物や人を破壊する技を習得しているのである。


「フォル。急にどうしたのだ……というか何故壁を壊して入ってきた」

「そっちの方がカッコいいからですの! カッコいいですのー!」

「次は普通にドアから来い」

「ヤ! ですの」


 なんと迷惑な。

 しかしフォルも悪魔。人に迷惑をかけるのは美徳。

 これ以上注意するのは諦め、我はベッドに腰掛けた。


「それでフォル、何が大変なのだ?」

「あっこれ地球のお菓子ですの? お兄様ったら、わたくしのためにご用意してくれたんですことね! 遠慮せずいただきますのボリボリ」

「違う。勝手に食うな」


 だがフォルは本当に遠慮など一切無しにベビースターラーメンを食べ始めた。

 手でわし掴みにしては次々に口へ運んでいる。

 このままでは全て食べられると危惧した我も、負けじとベビースターを掴んで食べた。


「もぐもぐぼりぼりですの」

「フォル、お前の家はもうすぐ晩ご飯だろう。このせいでご飯を食べきれなかったらまた母親に怒られるぞ。そして我もとばっちりでサディートに怒られる」

「心配ご無用ですの! わたくし、お菓子もご飯もたーくさん食べられますのよ!」


 自信満々で言っているが、根拠はまったく無いだろう。

 実際に今まで何度も、晩ご飯を食べきれずに怒られているのだから。



「で、何が大変なのだ?」


 オヤツを完食し、話を元に戻した。


「喉が渇いたですの。お兄様ジュースくださいまし」

「無い」

「ジュースジュースジュースー! 飲みたいですのー! ふぎゃあああああん!」


 嘘泣きを始めた。


 うっとうしくて仕方ないので牛乳をコップに注いでやった。

 以前、冷凍タピオカミルクティーを作ろうとしたが牛乳を買い忘れるという失態を犯してしまった我は、以後牛乳を定期的に購入しストックしているのだ。


「ジュースとは言い難いですけど、いただきますの。ごくごくぷっはー」


 一応満足してくれたらしい。ただしこれでもう完全に晩ご飯を食べ残して怒られるだろうな。

 しかし中々話が前に進まない。


「で、何が大変なのだ?」

「次は牛乳を温めてチョコレート入れてココアにして欲しいですの! チョコレートチョコレートチョコレートー!」

「無い。早く本題に入れ」

「うぎゃああああああんああん!」


 どうやらフォルは、嘘泣きすれば我にワガママが通ることを覚えてしまったらしい。

 甘やかしすぎたな……このままでは我はサディートに、


「娘の教育に悪いではないですか!」


 と怒られてしまう。

 サディート自身も相当娘に甘いのだが、そこは棚に上げるだろう。


「フォル。これ以上泣くならば、お前の母親に迎えに来て貰おう。今テレパシーで呼ぶから少し待って──」

「おおおお兄様お兄様お兄様! 待ってくださいまし! そうそうそうそう! そうでしたの! 大変なんですことよ!」


 フォルはすぐさま泣くのをやめ、ようやく本題に入った。


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