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76話:一応友達かな?

「到着しました。ここがワガハイ……いや僕たちの魔界です。ハイ」


 魔王型トモモモン・ザンブグの案内で、トモモモンの召喚元である魔界に到着した。

 魔界と言っても我の故郷の魔界とは別の魔界であり、ややこしいので、とりあえず今後はここを『割れセンベイ魔界』と呼ぶことにしよう。我の脳内で。


「へへへ。ここは魔王である僕、ザンブグ=ギャ=ギュリードの名前をとって、ご近所の異界さんたちからは『ザンブグの魔界』なんて呼ばれてます。ハイ」

「……そうか」


 せっかく考えたのに即訂正。今後はザンブグの魔界と呼ぶことにしよう。

 というかこの自称魔王型トモモモンは、本当に魔界の魔王であったらしい。

 魔王が直々に召喚獣の業務をやっているのか。何だか少しだけ親近感が湧いた。


 で、そのザンブグの魔界の様相は、


「小奇麗で魔界らしくない世界だな」


 と我がつい感想を呟いてしまう程に、あっさりとしていた。


 鉄筋コンクリート製と思われる高層ビルが一棟、その隣に横長い工場が三棟。

 計四棟の巨大建造物の周りには砂地のグラウンドスペースが広がっており、更にその周りには壮大な山々。鳥とか鹿とかいる。自然がいっぱいだ。

 魔界にありがちな、血や骨や腐った肉がその辺に転がっている、という情景が見受けられない。


「よく言われます。へへ、でも僕らはレンタル召喚事業一本だけでやってまして、魔界の雰囲気作りをする必要が無くてですね……あの、それよりそろそろ僕の背骨離して貰えます?」

「良いだろう。だが逃げ出そうとしたら死ぬことになるぞ。そして我の質問や要望にはすべて答えろ」

「わ、分かってますよ。ハイ」


 我はザンブグの背骨を離し、背中から腕を引き抜いた。

 血肉が飛び散ったが、傷はすぐに再生。

 魔王というだけあり中々の再生力だが……一目で気付いた。この再生能力は我の眷属、つまり悪魔族のものだ。


 どうやらこのザンブグも我と同様、『堕天し悪魔になった元神』を先祖(・・)に持つ者で……いや、それも少々違うか。

 よくよく見るとザンブグは、我の祖母殿や魔界の古株貴族たち、それに亡き母と同じ『空気』を持っている。

 つまり堕天したのはザンブグの先祖ではなく、


「貴様自身が堕天した元神のようだな」

「あっ分かります? 天界の言葉で堕天邪神ってヤツですよ。五百年くらい前に堕天したばかりの新参者ですけど。へへっ」


 そうヘラヘラ笑っているザンブグのマッチョな肉体が、突然萎んだ。

 どうやら魔力でドーピングしていただけらしい。

 本当のザンブグは我より低身長で、腕も足も骨そのままのように細い。


「自分で言っちゃうけど弱そうでしょ僕。っていうか実際、他の魔界の魔王たちと比べても弱いですハイ。魔王といっても本職は研究者で。五百年前、研究仲間の数十人で一斉に天界から逃げて……まあほとんどは堕天出来ずに死んじゃったけど……とにかくその時の仲間少数だけで、こじんまりとしたアットホームな魔界やってます。ハイ」

「研究者だと? そういえばトモモモンは研究所や工場で作られたと、ロカの姉御が言っていたが……」


 我は、そびえ立つビルや工場を見上げた。


「あっハイ。ご察しの通り、トモモモンってのは僕らが作った人工生命体でして。あの工場で作ってますハイ。そのトモモモンを、今は約五十の異界に派遣してます。結構儲けてるんですよ。へへっ」

「そうか。儲けているのか」

「あっ、えっ、へへ……い、いやそれほど儲けては無いかな~」


 ザンブグは慌てて首を横に振った。

 トモモモンの利権を奪う、という我の目的に薄々気付いてしまったらしい。

 まあ儲けていようがいまいが奪う予定に変わりはない。現魔王であるマートの命令なのだからな。



 その後、我はザンブグの案内で魔王の居城へと向かった。

 居城というか、ビルの一室が魔王執務室になっているらしい。なんだか普通の会社みたいだな。


 途中で数名の悪魔に出会った。

 彼らも皆、堕天した元神らしいが……我の姿を見ると表情を強張らせ硬直。

 特に邪魔されることは無かった。


「ところで、どうしてトモモモンの召喚具は割れセンベイなのだ?」


 執務室へ向かう途中の廊下で、トモモモンの情報を引き出すべくザンブグへ質問を投げてみた。


「あっそれはですね。センベイに見えるけどセンベイじゃないんです。食べられません。ハイ。あれは地核熱量の伝導率が高い鉱石を砂状に砕いて()ねて形成したアイテムでして。それを地核熱量集束効果のあるトモモモン・デヴァイス・ウォッチに装着することで惑星のエネルギーを吸収出来るんです。そのエネルギーを召喚報酬として、この魔界が吸い上げるというシステムでして。ハイ。あ、デヴァイス・ウォッチは惑星ごとのチューニングが必要なので、最初に製造ノウハウごと譲渡してます。まあただ問題は地核熱量には限りがあるので、トモモモンを派遣して上手く定着出来た世界は、だいたい三百年後くらいに滅んじゃうってことですけども。ハイ」


「…………そうか」


 早口でよく分からない。

 まあ難しいことはどうせ後でマートも聞くだろうから、今は別に良いか。


 別の質問をしよう。


「トモモモンは工場で大量生産しているのであろう? 魔王である貴様自身が、どうしてわざわざ召喚獣をやっているのだ?」

「それは、へへへ。うちの魔界の魔王ってのは広報担当の役割が大きくてですね、ハイ。色々と営業を頑張ってるんですよ」

「営業だと?」

「ハイ。各世界で悪の組織を作ったりして、主人公っぽい勇敢な少年が現れたらわざと負けてみたり。そういうキッズ向けゲームあるあるっぽい展開を散りばめて、適度にトモモモンを盛り上げていたんです」


 なるほど。

 妹のラスが言っていた『ゲームあるある』の展開通りになったのは、こういう理由があったのか。


「僕自身が最強トモモモンとして、悪の組織のボスの手持ちになって。『ザハハハハ』とか無理な笑い声上げたりして」

「大変だな」

「大変です。本音を言うと僕は研究職一筋で行きたいんですけど。ハイ」


 などと会話している間に、ようやく魔王執務室に到着した。

 塵一つ無い床に、傷一つない木製のデスクと椅子。

 やはり魔界っぽくない。魔王執務室というより社長室のようだ。


「さて。ザンブグよ」


 我は社長椅子へ座り、大袈裟に足を組んだ。

 わざと高圧的になる交渉テクニックである。

 我は繊細な性格なので、本来はこういう下品な態度を取るのはあまり好きでは無いのだがな。


「我の目的は概ね分かっているだろう? 欲しいのはトモモモンの利権。貴様らの商売を明け渡せ」

「うぅ……」


 ザンブグは「やっぱりか」といった顔でうなだれた。


「ああ、あの……その……ですね。僕たちとしては、本当はトモモモンを兵器として異界へ売買することも出来たんですよ。ハイ。そっちの方が儲けは大きいでしょうし。ハイ。でもどうしてレンタル召喚事業だけに絞っているのかというと、あなたのトコの魔界が怖いから配慮して……えっと、配慮したんだから、その……目こぼしというか」


 ザンブグは目を泳がせながら、なんとか危機を回避しようとしている。


 我の魔界では、『異界への兵力の貸し出し』及び『兵器売買』が重要な産業となっている。

 兵力貸し出しは第二位産業。兵器売買が第三位産業。

 ザンブグはそれらと被らないように配慮してくれていたのだろう。


 ちなみに一位は異界侵略。レンタル召喚は七位だ。


「そもそもレンタル召喚なんてスキマ産業の利権、欲しがらなくても良いじゃないですかー!」

「それは我でなく、我に命令した現魔王のマートに言え」

「現魔王……マート!?」


 ザンブグは口を大きく開き、愕然とした表情となった。


「えっと魔王……あなたのトコの魔界の魔王、つまり俗に言う『宇宙最強の魔王』は、メシュトロイオン……さん。あなたなのでは?」


 こやつ、どうやら我が魔王を辞めたことを知らないらしい。


「我は引退した。今は弟のマート──マートシュガロイオンへ魔王の座を譲っている」

「そ、そんなぁ……あのヒステリックで頭がおかしいと有名な半陰陽悪魔が……あ、いえ、ごめんなさい、ハイ」


 マートのヤツ、散々な言われようだな。


「……はぁ……マートシュガロイオンの命令か……もう逃げられないのか……」


 ザンブグは足を震わせ腰を抜かし、床へ座り込んだ。

 なんだか気の毒になってきたな。

 こやつも研究やら営業やらを頑張って、トモモモンという事業をここまで拡大したのだろうし。


「まあそう絶望するな。貴様らの処遇も好意的に検討するよう、マートに頼んでおくから」

「お願いじま”す”よ”ぉ~」




 ◇




 そして数日後。


「あっメシュトロイオン陛下。お疲れ様っすー、ハイ」

「うむ」


 召喚斡旋所にて。

 別魔界の魔王……いや()魔王。今はレンタル召喚事業トモモモン部門の管理役になっているザンブグが、手土産のセンベイ(ちゃんと食べられるやつ)を持って我の元へ挨拶に来た。


「元気にやっているようだな」

「いやーおかげさまで。この魔界に吸収合併された時は戦々恐々でしたけど、魔王やってた頃より給料上がったし、営業用の人材を紹介して貰ったおかげで僕は好きな研究職だけに没頭できるし、トモモモンの派遣先も増えたし、給料も上がったし。もっと早くにこうやってれば良かったですよー。給料も上がったし。ザッハッハハハハなんちゃって」


 ザンブグは明るく笑っている。


 意外にもマートは、ザンブグとその仲間の研究者たちを好待遇で迎えた。

 考えればそれは当然だとも言える。

 トモモモンの製造技術、及び商売ノウハウは全てザンブグたちの頭の中に入っているのだから。


 トモモモン部門は、元ザンブグの魔界があった土地に支部を構える形となった。

 我の住む魔界では今まで通りのレンタル召喚事業をおこないつつ、トモモモン支部ではトモモモンによる特殊レンタル召喚事業をおこなう。二本の柱で商売していくという訳だな。


「メシュトロイオン陛下も、たまにはトモモモン支部に遊びに来てくださいね。まあ陛下がまたトモモモンとして働くのは、色々とバランスが悪くなっちゃうから遠慮して欲しいですけど。ハイ。遊びに来るのは歓迎です。ぶっちゃけ僕のコネ作りですけど」

「ふむ」


 我はお土産のセンベイを一枚手に取り、頷いた。


「たまにはロカの姉御に挨拶でもしに行くか。サトケン少年も気になるし……いや別に気にはならないか。いやしかし、まあ、一応──」



 一応、友達だからな。



 我はセンベイを歯で砕いた。


トモモモン編おしまいです。

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