73話:友達を戦わせる大会
悪の組織が云々という懸念はあるが、まあそれはそれとして、我らはトモモモン・バトルの全国大会へ出場した。
全国大会と言っても、今回の会場はサトケン少年宅から車で五分の距離にあるらしい。
ご近所である。
まだ小学五年生のサトケン少年でも、一人でバスに乗って来ることが出来た。
会場はドーム型の球場。
開会式の後、サトケン少年は我とロカの姐御を召喚した。
「よーし。目指すは優勝だよ! がんばろう!」
サトケン少年は元気良く意思表明。
「ロッカ~!」
「うむ」
我らも気合を入れた。
それは良いのだが……一方、周りからヒソヒソと噂話が聴こえる。
「なんで子供がシード選手なんだ?」
「コネだよコネ。大会運営委員長であるトモモモン博士の孫だってさ」
「なんだよそりゃ。クソガキうっざ」
「どうせ一回戦で無惨に負けるよ。逆に可哀想じゃん?」
サトケン少年の噂である。
それも良い噂ではない。
まあ仕方が無いだろう。
コネや贔屓で地方大会をスキップして参加したのは事実。
だが『一回戦で無惨に負ける』という予想は……当然、大間違いである。
◇
そして注目の一回戦。
試合相手のトモモモン使いは大学生らしき成人男性であった。
「割れセンベイの割れ目が一致(以下略)! いくぞ筋キャッツ&肉ドッグ!」
「ぬぁーん!」
「ウォンォンブフッ!」
大学生は、筋肉ムキムキな猫の獣人型トモモモンと、脂肪に覆われた巨大な犬の獣人型トモモモンを召喚した。
さすがは地方大会を『きちんと普通に真っ当に』勝ち抜いてきた強者。
もう見るからに強そうなトモモモンである。
ちなみに図鑑では、
…………
ずかんNo.538
筋キャッツ
きんにくトレーニングが しゅみ。
きんトレの ためなら つまや こどもさえ
ぎせいに してしまう。
…………
ずかんNo.539
肉ドッグ
たべるのが しゅみ。
まいつき たいりょうの しょくひが かさみ、
しんせきや ゆうじんから しゃっきん している。
…………
とのこと。
家族を犠牲にしてまで筋トレを励む猫。
そして借金まみれのデブ犬。
これは強敵であるぞ。
しかし、
「いけメツキワルーイ! 応援ビーム!」
「わかった。頑張れ姐御」
「よーし! 次はロカピュウ、水を吐く攻撃だよ!」
「ロッカッピュウウウ!」
我と姐御のコンボが炸裂。
犬と猫は、
「ぬぁおおおん!」
「ウォンブフォッ」
などと叫びながらダウン。元の世界へ強制帰還して行った。
我らの圧勝である。
ちなみに以前のビル倒壊事件から学んだ我は、応援ビームの効果を下げている。
ロカの姐御も水ゲロ攻撃の勢いを抑えているようだ。
だがそれでも充分勝てる。
試合前は「子供は帰ってママのおっぱいでもしゃぶってな!」と品の無いありきたりな野次を飛ばしていた観客達も、
「……ええ?」
「なにあのロカピュウ。ホントにロカピュウ? 強すぎない?」
「っていうかあのメツキワルーイって……新種のトモモモン? 目付き悪っ」
「どうして子供が新種トモモモンを持ってるんだ? 目付き悪っ」
「目付き悪っ!」
と、態度と評価が一変した。
皆、サトケン少年とその手持ちトモモモンの強さに驚いている。
あと誤解があるようだが、我の目付きは悪くない。
「やったね! 一回戦突破だよ!」
サトケン少年は我と姐御の手を取り、子供らしく飛び跳ね喜んだ。
そして二回戦も。
「いけ! 応援ビーム&水を吐く攻撃!」
「うむ」
「ロカッピュ~」
やはり圧勝。
一回戦と全く同じ戦法である。相手も警戒はしていたようだが、
「くっそ~! どうすりゃ良いんだよ! 理不尽だ!」
と。対策のしようが無かった。
三回戦も四回戦も。当たり前のように勝ち進む。
その頃には、サトケン少年のことを『コネで参加してる子供』扱いする者はいなくなっていた。
いやまあコネで参加したこと自体は本当であるのだが。
「次は準決勝じゃな孫よ! ワシも鼻が高いぞい。ほっほっほっほ。うひひひひ」
コネの元である、トモモモン博士が激励に来た。
サトケン少年は「うん。ボク頑張るよおじいちゃん!」と元気良く返事をする。
しかし準決勝か。
昨日、妹のラスは、
「世界征服を企む悪の組織が、全国大会の準決勝あたりで邪魔しに来てぇ。実はその組織のボスが大会主催者だったりしてぇぇ」
などと『ゲームあるある』を言っていた。
しかも現実にこの世界には、モトモト団なる悪の組織も存在しているらしい。
が……とは云え、今のところ悪の組織が絡んでくるような気配はまったく無い。
そもそも大会主催者、というか運営委員長はサトケン少年の祖父、トモモモン博士である。
気にするだけ無駄であったな。
「そうじゃ孫よ。お前に紹介したい者がおるんじゃよ」
「え、誰?」
「それはじゃな……おーい、フユキくん!」
トモモモン博士が呼ぶと、フユキくんなる者が駆け寄ってきた。
痩せているが腕回りなどが少々筋肉質の、二十代中盤くらいの男性である。
その男の姿を見てサトケン少年は、
「あっ! チャンピオンだ!」
と目を輝かせる。フユキくんは有名人であるようだ。
チャンピオンとは、おそらくトモモモン・バトルのチャンピオンという意味であろう。
フユキくんはニカッと笑い、サトケン少年と力強く握手した。
「そうじゃ、現全国チャンピオンのフユキくん。ワシの部下でもあるんじゃよ。そして孫よ、準決勝でのお前の対戦相手は、このフユキくんなのじゃ」
「ええ! チャンピオンと!?」
サトケン少年は不安気な顔になった。
我としては誰が相手だろうが負ける気はしないのだが……
「なぁにがチャンポンじゃぁ。こんなオッサンに負ける気はせんのう」
とロカの姐御も、我と似たような考えを小声で囁いた。
そしてチャンピオンのフユキくんは更にニッカリと眩しい笑顔を見せ、サトケン少年へ言った。
「私がチャンピオンのフユキだモト! キミはとっても強いようだけど、負けないモトよ~! お互い頑張ろうモト!」
……いい年した男の語尾がモトって。
ああ。だいたい察した。
こやつ多分モトモト団だ。
確かにラスの言う通り、準決勝で現れた。




