表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/180

49話:悪魔的平和的展開

「さあ。僕が見ていてあげるから、存分に伸び伸びと戦ってね♡」

「…………」


 マートに流されトレーニングルームの前まで来てはみたものの、ノーザは気乗りしない顔で我の服を引っ張った。

 断ってくれ、という意味であろう。瞳でも訴えている。


「おいマート。まだお前に頼むと決めた訳では」

「まあ良いから良いから♡」


 しかしマートは我にも弟にもお構いなしに、トレーニングルームの重い扉を開けた。

 中はドーム状の壁に覆われ、広い石畳が広がっている。

 禍々しい空気(これは魔界の誉め言葉)が漂う。祖父殿や古代悪魔貴族たちが込めた、邪悪な魔力によるものだ。


 マートは長い金髪を揺らしながら、施設内へと入っていく。


「さあどうぞ二人とも」

「……仕方がない。どうせもうマート以外に立会人を頼める者もいないからな。それにもはや隠す意味もないだろう」

「…………ぅ」


 我とノーザも渋々入室した。

 すると扉が勝手に閉まる。


 広い部屋の真ん中に着くと、マートは立ち止まり、我らの方へと振り向いた。

 女の時のマートは、我やノーザより一回りも二回りも背が低い。

 しかしそれでも、なんとも言えぬ冷たい迫力を醸し出している。


「隠す? 何を隠しているんだい? ふふっ。ところで兄上とノーザくんはどうして戦うんだい? 憎んで殺し合う、って訳ではなさそうだし。ただのトレーニングかな?」

「…………」


 ノーザが緊張し汗をかいた。

 戦う理由。それはトレーニングで間違いない。

 しかしその理由を更に遡ると、目の前のマートを倒すため。


「おや。息が荒いようだけど、風邪かい健介くん?」


 と肩を叩かれ、ノーザは青ざめた。

 健介とはノーザの地球での偽名である。


 どうしてマートがその名を知っている……と考えるまでもない。

 やはり、と言うべきか。

 全てご存じであったようである。


「おっと違う。健介でなくノーザくんだったね。うっかり無関係な知人の名前と間違えちゃったよ♡」


 白々しい。

 が、その態度がどんどん弟を追い詰めていく。

 ノーザはもう気の毒なほどに顔面蒼白であった。


「ふふっごめんごめん。弟をイジメる気は無かったんだけど」


 マートはクスクスと笑い、髪をかき上げた。

 花のような香りが漂い、我らの鼻腔をくすぐる。

 しかしこの香り、もし魔力の低い者が嗅いだらそれだけで昏倒してしまう。物騒な香水である。


「余計な話はやめようか。僕は無駄話があまり好きではないからね」

「嘘をつけ。いつも無駄話ばかりだろう」

「おや。意地悪なことを言わないでよ兄上」


 マートは人差し指で我の唇に触れ、微笑んだ。

 そして横目でノーザを見ながら、


「例の手続き(・・・)を踏みたいんだよね? 地球のお友達を助けるために。だから兄上に稽古をつけて貰おうとしている、ってトコかな?」


 ──と、真っ向から本音を尋ねてきた。


 例の手続き。

 それは魔王の指令を断る、ただ一つの方法。

 魔王を殺し、命令を撤回させる。


「…………ぅ」


 図星を突かれたノーザはオロオロとした顔で口を開くが、言葉が出ていない。

 一方のマートは相変わらずニコニコしながら、


「やっても良いよ♡ 強き家臣にはその権利があるからね」

「…………っ!」


 あっさりと手続き(・・・)を認めた。

 意外のような、そうでもないような。こやつの考えは兄の我でもよく分からぬ。


「ノーザくんは怖がって緊張しているようだけど、そんな大事に捉える必要はないよ。僕も弟と殺し合いはしたくない。魔王を殺して命令を撤回させる、というルール……その『殺す』って部分はただの比喩なのさ。要は魔王に『こいつの機嫌を損ねるのは得策ではない。命令を取り消そう』と思わせれば良いのだからね。つまり芸でもやって実力を見せてくれれば、それで充分」

「何! そうだったのか」


 ノーザではなく我が驚いた。


 我が魔王だった頃は、このルールについて文言通り『殺す』という解釈しかしていなかったのだ。

 マートが勝手な解釈をしているだけの可能性もあるが……まあどちらにせよ現魔王であるマートの解釈が、最も尊重されて然るべきか。


 ともかく。

 そういう事ならば、地球侵略回避の可能性も高まる。

 ノーザは無口なままだが、表情が明るくなっていた。


「それではさっそく実力を見せてくれノーザくん。そうだね……最初の予定通り、兄上と戦闘トレーニングでもやってみてよ。僕に強さを認めさせる事が出来れば、地球侵略に対するノーザくんの意見を取り入れよう」

「…………ぅ」


 ノーザは首を二回縦に振った。

 しかし現役魔王であるマートが関わっているにしては、平和的な展開だ。

 このまますんなり解決しそうである。


 我とノーザは、トレーニングルームの真ん中で少々の距離を置いて向き合った。


「細かい予定は違ってきたが、我とお前(ノーザ)が戦うことに変わりはないようだな」

「…………」


 ノーザが頷く。

 先程までの固い表情とは違い、明るい顔だ。

 こやつは極端に無口だが、我と違って別に不愛想という訳では無い。現に地球で友人も作っていたしな。


 とつい自分で言ってしまったが、我も別に不愛想ではない。

 ともかく今は弟との試合(トレーニング)だ。


「我もお前の成長を試すのは楽しみだ。正面からでも騙し討ちでも、何をしても良いのでかかって来い」

「…………」


 ノーザは束ねている赤く長い髪を、背中から服の中に入れた。

 少々間抜けにも見えるが、動きやすい恰好。

 異界侵略戦争では、いつもこのスタイルで戦っているらしい。


「頑張ってね二人とも♡」


 マートはいつの間にか用意した椅子の上で煽情的に足を組み、応援している。

 金色の髪を手櫛で整えながら、


「あっ、言い忘れてたよ。僕に強さを『認めさせる』ってのは、具体的にはね──」


 小声で、楽しそうに呟いた。




「兄上を殺す、って意味だよ♡」




「………………っ!?」


 マートの言葉に、ノーザは目を見開いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ