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48話:親戚中にロクでもない事を頼んで回る

 我はノーザの申し出を受け、試しに戦ってやることにした。


 とは言え、問題は『場所』だ。

 このまま地球にて我と弟が本気で戦えば、大陸の一つくらいは簡単に沈む。

 侵略するにせよしないにせよ、今地球を傷つけるのは不味いだろう。


 ならば一旦、魔界へ帰るしかあるまい。

 ノーザはお目付け役でもある老将軍へ、「地球侵略の可否は保留し、帰って熟考する」と伝えた。もちろん筆談で。


 老将軍は「現地で侵略可否を即決出来るのは楽だ」などと言っていたので、判断を持ち帰るのに渋るだろうと予想していたのだが、


「そうですか。分かりましたぞ、殿下のお好きになされよ」


 意外にあっさりと頷いてくれた。

 もしや何かしら勘付き、気を利かせてくれたのかもしれない。


 そしてノーザと老将軍は、部下数人を一応地球に残し、通門ゲートで魔界へ帰った。

 我もオヤツを大量購入した後、帰還用召喚魔方陣で帰った。




 ◇




 さて、魔界に帰ってもすぐに戦える訳では無い。

 我やノーザが暴れれば、ホームである魔界でさえも危うい。


 ならばどうするのか。

 簡単だ。

 魔界には、『強すぎる悪魔』でも存分に力を振るう事が出来る、極めて耐久性が高い施設があるのだ。


 鍛錬の間。魔神の胎内。審判の部屋。

 などと堅苦しい名がいくつも付けられているが、我と同世代以下の悪魔はだいたい『トレーニングルーム』と呼んでいる。


 トレーニングルームは大昔に作られた、上級悪魔同士が戦うための施設。

 ドーム状の壁で覆われた、広い石畳の体育館……と言ったところか。


 初代魔王である祖父殿、そして祖父殿と共に魔界を作った古代悪魔貴族たち数名の、強靭なる魔力が建屋全体に込められている。

 まさに、魔王が暴れても壊れない。

 頑丈さにかけては、あらゆる世界でもトップクラスの建造物であろう。



 ただしトレーニングルームには、使用上のルールがある。



 まず一つ目。

 王族や貴族以外は使用禁止。


 ケチだからではない。弱い悪魔が施設に入ると、それだけで祖父殿たちの魔力に酔い、下手すると即死してしまうのだ。

 なので厳密に言うと、王族や貴族であっても子供や虚弱体質の者は使ってはならぬし、王族や貴族でなくとも強者であると認められれば使っても良い。



 そして二つ目。これが問題だ。

 使用する際は立会人を用意すること。その立会人は王族であること。


 つまり今回の例で言うと、実際に戦う我とノーザ以外に、もう一人監視する者を呼ばないといけない。

 王族の誰かを。それも養子は不可。必ず、初代魔王の血筋の者でなければならない。


 この立会人ルールは、何故、何のためにあるのか。そういえば我も知らない。

 多分サディートあたりに聞けば理由は分かるのだろうが、とりあえず今肝心なのは『そういうルールがある』ことだ。



 と。

 そんな訳で、我は『立会人』を探さねばならぬ。



 …………



「まっ。これが噂の博多通りもん? あま~い」

「そうであろう。本場で買ったばかりだぞ。おかわりもある。どんどん食べよ姉上」

「ありがと~。あ~ん………………もーメッシュくん! お姉ちゃんがあ~んってやったら、優しくお菓子を口に入れて食べさせてよ!」

「そうだったのか」

「むぐむごごほっ……も、もっと優しく~! 口移しでも良いよ」


 我は魔王城へ行き、ネア姉上に土産として地球産の菓子を渡した。

 博多通りもんだけでなく、『博多の(ひと)』やら『にわかせんぺい』やら『じゃがりこ明太子味』やら、土産屋の店員に勧められた人気菓子が大量だ。


 姉上の部屋、バルコニー。茶会用のテーブルと椅子。

 そこでゆったり菓子を楽しんでいる。


「それにしても、メッシュくんがお姉ちゃんにお土産を買ってきてくれるだなんて。珍しい! しかもこんなに沢山。急にお姉ちゃんのことを大好きになったの~? 優しくして、えっちなお返しを期待してるの~? 分かった脱ぐね」


 我が返事をする間もなく、姉上は服を大袈裟に着崩した。


「メッシュくんも、そのどっかの女の子に買ってもらったゴシック服は脱いでね。お姉ちゃんがとっても気持ちよく」

「しなくてよい。そうでは無い。服を着ろ」

「なんで~!? せめて否定するにも、もっとこう『はぁ!? ちっげーしー! そんなんじゃねーしー!』みたいな可愛い反応しつつ、中腰になって欲しいの~!」


 姉上は相変わらず良く分からない事を言いながら、はだけた服を整える。

 その対面で我は、さっそく本題に入る。


「このオヤツは土産というより謝礼の先渡しだ。姉上には、トレーニングルームの立会人になって欲しい」

「まっ。あんな物騒な部屋。誰を殺しちゃうつもりなの~?」

「殺すのではない。使用目的はただの訓練。ノーザの実力を測ってやろうと思ってな」

「そうなんだ。つまり修行! 男の子ね~。弟思いで優しいメッシュくんにお姉ちゃんもキュンキュンしちゃった。分かったわ、お姉ちゃんにドーンと任せてね!」


 そう言って姉上は、低身長とは不相応に巨大な胸を叩き、揺らした。


「でもどうして急に修行なの?」

「それはだな──」


 我は今までの経緯を簡単に伝えた。

 すると、


「え……そ、それって……ノーザくんがマートくんちゃんの魔王命令に背いて、例の手続き(・・・)で戦うってこと~……?」

「そうだ」

「え……えええ……」


 姉上は椅子から立ち上がり、じわりじわりと後ずさりし、


「ヤダー! やっぱりお姉ちゃん、お断りします!」


 と涙目で叫んだ。


「何故だ?」

「だって~。男の子マートくんならまだしも、女の子マートちゃんは怖いんですもの~。お姉ちゃんがノーザくんに加担したってバレたら、きっと三十年くらい毎日嫌味を言われちゃう! そんなの耐えられない~。ひぃーひぅーひにゅー」


 姉上は呼吸を乱している。

 女嫌いであるマートのせいで、相当ストレスが溜まっているようだ。

 我は姉上の背中をさすってやった。


「うぅぅ。ありがとうメッシュくん。お姉ちゃん、弟の手の温もりで落ち着いて来たよ」

「すまなかったな姉上。そこまで嫌なら仕方ない。他の者に頼むとしよう」

「うう、ごめんね……せっかくお菓子までくれたのにぃ…………返す! お菓子も返すからぁ。うえぇぇぇ」

「やめろ返すな汚い」


 まだ少々錯乱しているのか、姉上は己の喉に指を突っ込んだ。

 ただ姉上は強靭な肉体の持ち主であるからして、オエッとなっても菓子を戻すことはないのだが。


「ごめんね。ごめんね。代わりに何でもするから~。メッシュくんの赤ちゃんも産んであげる。ね!? ベッド行こう」

「いや、それは断る」

「なんで~!?」




 ◇




「ネア姉上には断られた。そっちはどうだった?」

「…………」


 ノーザは首を横に振った。

 どうやら立会人は見つからなかったようだ。


「そうか。あと聞いていないのはサディートくらいだが……」


 しかしサディートの屋敷に赴くと、タイミング悪く出張中であった。

 代わりにいる王族と言えば、


「わたくし! わたくしがお兄様たちの修行を見て、とーっても鋭いアドバイスを授けて差し上げますの」


 サディートの娘、フォルである。

 子供らしく大声で叫びながら、両手を上げ主張している。


「フォルは駄目だ。まだ子供なのでトレーニングルームには入れぬ」

「失礼ですわお兄様。わたくし子供じゃありませんのー!」


 喚いているが、どう否定しようとも事実子供である。


「ううう……! メッシュお兄様、もうお忘れになられたのかしら。わたくし先日、異界でお兄様の指導のもと大人になりましたのに」

「ふむ、先日?」


 異界での出来事といえば、フォルが液体化マンと戦い敗北した件であろうか。

 確かにあれは『負けを経験することで成長する』というフォルの母親の教育方針に、結果的に合致したものとなった。

 少し大人になったと言えなくもないが……


「あんなに痛い思いをして、大人になりましたのにー!」


 フォルが叫び、我の腹を殴ってきた。

 子供の力なので痛くはない。のだが、


「…………」


 隣にいるノーザが、変な目で我を見ている。

 何か大いなる勘違いをしているような。そんな微妙な目線。

 一体どうしたのだ。


「異界で強敵と戦って大人になりましたの! フォルはもう立派な大人の悪魔ですのー!」

「…………ぁぁ」


 フォルの言葉を聞き、ノーザは妙な目線を中断し、代わりに何故か安心した表情になった。

 良く分からんが、何か我も助かったような気がする。


「しかしサディートもいないとなると、トレーニングルームは使えぬな」

「だからわたくし! わたくしがいますのー!」

「サディートの帰りは二週間後か。長いな」

「わーたーくーしー!」


 我とノーザが困り、フォルが喚く。

 そんな時だった。




「お困りのようだね♡」




「……!?」


 背後から声を掛けられ、肩も叩かれた。

 急に驚くではないか。

 振り返るとそこには、


「マート。いつの間に」

「マートお兄さ……お姉様!」


 女の(・・)マートが立っていた。

 金色の長い髪が、風も無い室内なのに揺れている。


「…………」


 ノーザは額に大量の汗をかいた。

 当然だ。今まさに、マートを殺す計画中なのであるから。


 マートは我の肩に置いた手を動かし、頬へゆっくりと移動させる。


「二人とも使いたいんだよね? 魔神の胎内。トレーニングルームを♡ 理由は知らないけど」


 嘘だろうな。マートの事だ。理由の見当はついているはず。

 しかし、ならば隠すこともあるまい。


「そうだ。使いたい」


 我は素直に返答した。

 するとマートは妖艶な笑みを浮かべ、言った。


「じゃあ僕が、立会人になってあげるよ♡」


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