32話:かみなりがビリビリする
あいつらとやらは三人組。
突然現れ、たった三日で百の惑星を破壊したらしい。
「この宇宙を支配する」
などと宣言したが、略奪や植民地化するわけでもなく、ただ星々を砕くのみ。
本当に支配が目的なのか。
そもそもどこから来たのか。
全てが謎に包まれている。
と、呼び出しマンが説明してくれた。
「宇宙最大の危機襲来……当然宇宙ヒーロー連盟も対策を講じました。僕と殴る蹴るマンと木刀で殺すマンの、最強ヒーローチームを収集……まずは敵と話し合いの場を設けたのですが……」
「対話をする気は無い。しかし余興くらいはしてやろう。どうだ、三人対三人の勝ち抜き試合で決着をつけようではないか。いいや三対三でなくともいいぞ。俺たちは三人だが、ヒーロー諸君は何十人でもよい。君たちが勝ったら宇宙の支配を諦めてやろう」
「……と、まるで少年漫画のような展開になったのです」
「勝ち抜きバトルですの!? お兄様お兄様、わたくしも出たいですのー!」
フォルは飛び上がり我の首に掴まり、至近距離で耳に向かって叫んだ。
うるさい。急な音にビックリしてしまうだろうが。
「お兄様お兄様お兄様!」
「少し黙っていろ」
「むぐぅん」
我は手でフォルの口を塞ぎ、黙らせた。
静かになったところで、呼び出しマンへ「続きを話せ」と促す。
「はい……そして勝ち抜き試合が始まりましたが……敵の先鋒の手によって、殴る蹴るマンと木刀マンは……やられました」
呼び出しマンはゆっくり語りながら、ため息をつく。
額にある第三の目が、悲しげに閉じた。
「……殴る蹴るマンは、僕たちの中で一番強いヒーローだったんです。僕よりも10倍は強かった。まあ僕はサポートタイプなんですけど……」
呼び出しマンは戦闘力888兆。その10倍となると、殴る蹴るマンとやらは9000兆近くの強さであったのだろう。
ゴシックドレス姿の鑑定係が「計測不能」と言うレベルだ。
「そんな殴る蹴るマンも、敵の先鋒には手も足も出ず……簡単に殺されてしまいました。殴る蹴るマンとほぼ同等の力を持っていた木刀で殺すマンも、奪われた木刀で逆に殺されて……」
「だから次の戦士として、我を呼んだのか」
「その通りです。禁忌である邪悪黒界の呼び出し術……使わざる、得なかった……どうか仲間の仇をとってください……」
呼び出しマンは、かすれ声を絞り出した。
こやつの仲間の仇など我にはどうでも良いが、しかし仕事なのだから断るつもりはない。
「承知した。それで敵はどこにいる?」
「この控室を出た先、特設闘技場の試合会場にいます。そして仲間を殺した敵の先鋒。奴の名は……」
「奴の名は?」
呼び出しマンは大きく息を吸い、額の目を見開いた。
「…………かみなりビリビリマン……」
かみなりビリビリマン。
「この世界のネーミングセンス、わたくしの趣味には合いませんの」
フォルは口を塞いでいた我の手を振り払い、苦々しい表情で呟いた。
◇
「ガハハハハ、やっと帰ってきたか」
豪快に笑っている背の高い筋肉質の男。
こいつが『かみなりビリビリマン』か。
見た目は、簡単に言うと虎の獣人と言ったところだ。そして上半身裸だ。
顔や四肢は黄色い毛皮に覆われており、ところどころ黒いラインの毛が生えている。首の下や腹、脇の毛は白い。
かみなりビリビリマンと言うより、タイガーマンとかの方が似合いそうな風貌だが……しかし、かみなりビリビリマンなのだから雷をビリビリさせるのだろうな。多分。
「逃げちまったのかと思ったぜ、呼び出しマンよぉ」
「呼び出し術の準備に手間取っただけです。逃げるわけありませんよ……宇宙の危機なのだから」
「偉い偉い。そう来なくっちゃあ、詰まらねえからなあ。ガハハ」
かみなりビリビリマンはそう言って、関係者席から試合場へと飛び降りた。
特設闘技場は広い砂地の試合場と、それを高い壁の上から見回すように出来ている観戦席、そして観戦席最前列にある関係者席で構成されている。
観戦席には観客が数万人いる。
宇宙の命運を握っている試合らしいが、エンターテインメントにするとは呑気なものだな。
いや命運を握っているからこそ、近くで見守っているのかもしれないが。
呼び出しマンがわざわざ控室に戻り召喚術を使ったのは、この観客達に『禁忌である邪悪黒界の呼び出し術』を見られたくなかったからであろう。
かみなりビリビリマンがいた敵側の関係者席には、他に二人の人物が立っていた。
白いマントとフードで身を隠し、正体が分からない。
「あの二人は、ミステリアスパートナー1号2号と名乗っています」
と呼び出しマンが教えてくれた。
「ミステリアスパートナーか」
「何となくですけど、その仮名は使っちゃダメな気がしますの。1号2号とだけお呼びいたしましょう」
呼び名はともかく、1号2号は椅子があるのにわざわざ座らずに立っている。
どことなく恐ろしい雰囲気を作る演出のためだろう。これは手強いやつらだな。
ちなみに我らは今、ヒーロー側の関係者席にいる。ヒーローのお偉いさんっぽいオジサンとかが座っている。
かみなりビリビリマンがヒーロー関係者席へ近づき、見上げて語りかけてきた。
「しかし控室で準備までして呼び出したのは、その目付きの悪い男と小さなガキなのか? どうせならもっとデカくて恐ろしい、俺のような猛獣を呼び出せば良かったのになあ。ガハハ」
かみなりビリビリマン……長いので、かみビリマンと呼ぼう。
かみビリマンが失礼なことを言った。我は繊細であるからして、目付きのことは言わないで欲しい。
「ホントしーつれいですの! ガキじゃありませんの! わたくし、ガキじゃありませんことよ! あの虎さん、お刺身にしてネアお姉様へのお土産にいたしますの! わたくしが出ます! わたくしが出ますー!」
フォルが興奮している。
宇宙の平和をかけた勝ち抜き試合。観客も大勢。このシチュエーションが気に入ったのだろう。
「このかみなりビリビリマン様と、ガキが戦うってのか? ガハハ、言うじゃねえか。ガキだけでなく男の方も一緒にかかって来いよ。なんなら同時に三人がかりでも良いぜ、呼び出しマンよお!」
かみビリマンはそう言いながら両拳を握り、「グァオオオオ!」と気合の雄叫びを叫んだ。
周囲にバチバチと電気が走る。さっそく本当にかみなりビリビリさせてきた。
一方の呼び出しマンは、
「三人でも良い……? 今、そう言いましたね……二言は無いですか? では同時に三人で行かせてもらいますよ。文句は言わせません……!」
相手の言葉尻を捉え、ちゃっかりとルールを変更させた。
かみビリマンも「え? あ、ああ。いいけどよ」と頷く。適当な煽りとして言っただけであろうに、本当にやられて少々戸惑ったようだ。
「……すみません、メッシュさん。気を悪くしないでください。あなたの実力を疑うわけじゃありませんが、今はどんな汚い手を使ってでも勝ちたい……勝たなければ、意味がないのです……!」
「不要ですの! わたくし一人で戦って勝ちますのー! むぐぅ~」
フォルが抗議するが、我の手で再び口を塞いだ。
「別に気を悪くはしない。我はタイマン大好き戦闘狂などでは無いからな」
「むぐぁーむぐぅー! んんー!」
「それを聞いて安心しました……」
呼び出しマンはチョークを取り出し、床に魔方陣を書き始めた。
額にある第三の眼球が赤く光る。どうやらあの目に普段から魔力を溜め、召喚魔法を使う際に解放しているようだ。
召喚術師の強さ──魔力+生命力──により、呼び出される召喚獣の強さも変わる。あの目に溜めた魔力を用いることで、より上位の召喚獣を呼び出せる工夫なのだろう。
「むぐぅ……ぷはっ。あら? あらら? ねえお兄様、レンタル召喚は『一回につき召喚獣一人まで。召喚中に別の新しい召喚は不可』ってルールではありませんでしたこと? わたくしはお兄様と二人で召喚されましたけど、それは職場体験の特例だからですわよね?」
「うむ。確かに一回につき一人までだ。魔界の召喚ならばな」
しかしフォルの言っているルールは、あくまでも魔界単体のルール。
術者の魔力次第では、『魔界の召喚獣』と『別世界の召喚獣』を同時に呼び出すことは、おそらく可能であろう。
そして呼び出しマンが今描いている召喚魔方陣は、魔界の術式では無い。
この紋様は、どこかで見たことがあるような──
「この呼び出し術は……『邪悪な存在を呼び出す』ので禁忌となった邪悪黒界の術とは違い……『神聖な存在を呼び出す』畏れ多いという理由で禁忌となっている術です……成功率も極端に低いし……しかし、そんなことを言っている場合ではないですから……」
これも禁忌の召喚術らしい。
とはいえ魔界の召喚と違い、観客や関係者の目の前で実行しているということは、そこまでタブー扱いという訳では無いようだな。神聖なものらしいし。
神聖。神聖な存在を呼び出す、か。
どこかで見た魔方陣。思い出したぞ。これは……
天界の召喚術式だ。
「僕の呼びかけに答えよ……聖なる者……純白たるもの……出でよ!」
魔方陣から白い光の柱が立つ。
まぶしい。我にとっては不快な光だ。
その光に包まれ、一人の召喚獣……女が現れた。
黒く長い、滑らかな髪。
ほとんど裸の体に、ひらひらした白い布を巻いている、痴女みたいな恰好。
「おーっほっほっほ! この”麗しの召喚天女”を呼び出したのはアンタかしら。いやー”ラッキー”ねえアンタ。普通は”SSクラス”の案件なんて、天界では”責任負えないから”ってスルーするんだけど。ちょうど召喚獣に左遷……いや、”転職”したばかりの”エリート”な私が来てあげた……」
召喚された女は聞かれてもいないことをベラベラ喋っていたが、我と目が合い、突然黙った。
とはいえ、黙ったのは一瞬だけ。
またすぐに慌ただしく喋りだす。
「ままっまままま”魔王”メシュトロイオン!? なーんで、なんでなんでなんでアンタがいるのよ!? うわ”最悪”! なんで!? ”最悪”!」
「あら? お兄様、あのいやらしい変態みたいなファッションのお方とお知り合いですの?」
「……ふーむ……どこかで会ったような気もするが……」
誰だっけ?
「わ、忘れたの? 信じられない……」
「うむ、忘れた。すまないな」
「レイスよ! ルーキー”女神”だった。あの”ゲーム転生召喚落雷システム”を考案したのにアンタに邪魔されて、結局特許も取れなかった……あの”レイス”様よー!」
「レイス……ああ。『”』を多用する神か」
転生召喚者イーキリの世界を管理していた神だな。
こいつのせいで「天界とのパワーバランスを取る」という厄介な面倒事に巻き込まれたので、レイスと言う名はきちんと覚えていたぞ。だが外見はどうでも良いので忘れていた。
「やっと思い出したの!? バーカ! バーカ!」
「馬鹿ではない」




