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30話:高級おやつカルパス

「旦那ぁ、今日はいつもと違う女の子を連れてきて。隅に置けやせんなぁ」


 馴染みの行商人が、我と鑑定係を見ながら言った。

 その途端、我の服が強く引っ張られた。見ると鑑定係が右手で服を掴みながら、不機嫌な眼差しを我に向け、束ねた長い銀髪の先を左手でくるくる弄っている。


「へー。『いつも』と違う『女』ですかー。いつもとー」

「ふむ。『いつも』と言うなら『いつも』は我一人で来ているが……たまに一緒に来る『いつもの連れ』という意味ならば、先程も言ったがフォルのことだな」

「……あー。そっちかー。ふーん」


 鑑定係は不機嫌な眼差しをやめ、我の服から手を離した。

 一体何なのだ。


「へへへ……あっしとした事が、余計なことを言っちまいましたかねぇ。いやあカノジョさん、お気を悪くしねえでくだせえ」

「カノジョー……? ふふー。違いますけどー?」


 と言いながら今度は機嫌良い表情になり、またもや我の服を引っ張る。

 気分の波が激しいな。


「おやおや、へっへっへ」


 行商人も怪しく笑い、そしていつものようにオススメ商品を教えてくれた。

 我は勧められるまま、大量のおやつカルパスを購入する。

 おやつカルパス一つ5000マカィ。地球の値段に換算すると5000円だな。元値は一つ10円らしいが、まあ輸入の手間を通すとこんなものだろう


 おやつカルパス以外にもチョコや飴を買い、紙袋に詰め込む。

 我はその袋を抱え、鑑定係と共に行商人の元から離れた。


「陛下ってー、こんなにお菓子ばっかり買ってるんですねー。しかもあり得ないくらい割高ー」


 ゴシックドレスをなびかせながら、鑑定係が言った。

 そんなに割高だろうか?


 魔王時代の我は、買い物をする時「後で城に請求しておけ」と言ってツケで購入していた。当然、商品一つ一つの値段や合計金額の確認はしなかった。

 レンタル召喚獣に転職し、初めて現金に触れた。なのであまり金銭感覚に自信が無い。


「しかし他では取り扱っていない輸入品。しかもあの行商人が一人でやっている商売だからな。手間を考えると仕入れ値の数十倍になるのは当然だと思っていたが……」

「えーとー。私は異界のお菓子とか買わないから、はっきり言えないけどー……もしかしてー、カモにされてませんかー? うーん……いやー、まあ陛下が満足なら良いけどー」


 鑑定係は軽く首を捻った後、


「それよりー、次はどこ行きますー?」


 と言って、「ふふー」と笑った。




 ◇




「でー。その後は陛下が泊ってるホテルに行ってー……ずっと二人でお菓子食べてー。無くなったらまた買いに行ってー、そしてまたホテルで食べてー。それをずっと繰り返した二日間でー」


 休み明け。召喚斡旋所にて。


 鑑定係が休日二日間の過ごし方を語っていた。

 どうしてだか、途中で我をちらちら見ては睨んでいる。


「ずるいですの! ずるいですのー!」


 聞いているのは、従兄弟(いとこ)の娘であるフォル。


「ずーるーいーですのー! メッシュお兄様ったら、最近ぜんっぜんわたくしと遊んでくれないのに。他の女性とデートだなんて、不潔ですことよ!」

「……うーん、デートかなー……お泊りだったのにー、お菓子食べてるだけだったけどー……」

「お兄様のおバカ! ジャスティース・パニッシュメント」


 フォルは上着のポケットからハーモニカを取り出した。

 楽器攻撃をするつもりだろうが、我は先手を打ち念動力でハーモニカを破壊。


「あら? あらら? もー、お兄様ったらいぢわるですの」

「意地悪ではない」



 何故フォルが斡旋所にいるのか。

 その理由は今朝、


「おはようございますメッシュ。こんな狭い部屋に住んでいるのですか……王族らしく無いが、あなたらしいと云えば、あなたらしい」


 とサディートがホテルへ来て、眼鏡をキラリと光らせた事から始まった。

 何やら我に頼みがあるという。


「フォルの『勇者ごっこ』について、私も妻も厳しく叱りつけたのですが……」

「ほう。奥方はともかく、サディートが娘を叱ったのか?」

「ええ。まあ……主に妻が叱り、私は後ろで……その、アレでしたが……」


 ああ、これは叱れていないな。こやつはとにかく娘に甘い。

 まあ奥方が厳しいのでバランスは取れているのだろう。


「とにかく、いくら叱ってもフォルに反省の色が見えないのです。どうにも魔界の王族としての自覚が足りない」

「子供ならそんなものだろう」

「いいえ、私は心配なのです!」


 サディートは指で眼鏡を上げ、またもやレンズを光らせる。


「そこで私は考えました。フォルには魔界の主要産業七つを、全て職場体験させます。それで我が国の誇りを知れば、勇者などという光の存在に吐き気を覚えることでしょう」

「そうか。それは立派な教育方針だが……」

「さっそく昨日、第四位産業である地獄名物ヘルみかんの温室栽培を体験させました。そして今日は第七位産業であるレンタル召喚を体験させたいのですが……」


 我は、なんとなくサディートの『頼み』とやらに勘付く。

 するとサディートは目敏く「おや、勘付いたって顔をしましたね?」と言って眼鏡を上げた。


「ならば話は早いです。ということで、お願いしますねメッシュ」

「待て。せめて詳細くらいはきちんと話せ」


 こうして我は、フォルの職場体験の引率役となった。

 つまり我とフォル、二人で一緒に召喚獣として異界へ行く……という意味である。


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