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27話:やれやれやれやれ

「ずるいですの! ずるいですの! 大人は汚ねえぜ、ですの!」


 我の手首がすぐさま再生した事象について、フォルはしつこく文句を呈す。


「ずるくない。魔界の王族は新陳代謝が活発なだけだ。それに治りはしたけど凄く痛い。今も痛みを頑張って我慢しているのだ」

「そもそも前々から思っていましたけど、もはや新陳代謝のレベルを超えてますの! おかしいですの!」

「現実にそうなのだから何もおかしくない。フォルも大人になれば、心臓を貫かれようが脳を破壊されようが、すぐさま再生する体になるぞ」


 我ら高貴なる悪魔は、全身に特別な魔力が(みなぎ)っている。

 その魔力は形状記憶の性質を持っており、結びついている肉体が壊れても元の形へ即座に修復する機能を有しているのだ。

 フォルはまだ魔力と肉体が十分に結びついていないため、修復能力は低い。だがそれも子供の内だけ。いずれ成長したら我と同じになる。


 とは言え、我らも不死身という訳ではない。

 魔力は魔力で破壊できる。

 己よりも強い魔力で攻撃されると肉体の回復は遅れるし、場合によっては二度と復活出来ぬ。最悪死ぬ。


「大人になれば、ですって……もぉ! だいたいお兄様もお父様も、眷属の方々も、わたくしのことを子供扱いしすぎですの!」

「うむ。それはフォルが子供だからであろうな」


 フォルは、魔王城で暮らしている親戚の中で一番幼いのだ。

 子供なので子供扱いされる。至極当然ではないか。


「もおおー! わたくし、立派な女性ですことよ!」


 フォルは再びカスタネットで攻撃してきた。

 しかし我は、今度はかすりもしないよう完璧に回避する。我は失敗から学ぶ悪魔なのである。


「そうやってまたお避けになって! お兄様ずるいずるいずるいですの!」

「ずるくない」

「ずるいですのー! お兄様ったら、お城で魔王様をやってらした頃からいっつもズルですの。わたくしと遊ぶ約束をなさっているのに、『とつぜん勇者が来たから』とか『とつぜん部下が異界侵略の計画を立てたから』とか……すーぐお仕事!」


 フォルは何度もカスタネット攻撃を放ちながら、我への愚痴を言い続けた。


 そう指摘されると、そうだったような気もする。

 魔王職の頃は忙しかったからな。


「魔王様をおやめになって、これからは遊ぶ時間が増える……と思っていましたのに、急に外でお一人暮らしなんて始めて! わたくしとのお約束、結局破ってばかりでしたの!」

「そうだったか。それはすまないな」

「許しませんの!」


 フォルはカスタネットを投げつけてきた。

 我は念動力でカスタネットを粉砕し身を守る。


 しかし貴重な攻撃手段であったのに、楽器を捨てて良いのか?


「お約束を守れない悪いお兄様は、この勇者フォルテ・フェニックス・ケルケイオンが成敗いたしますの! とおー。聖槌(せいつい)・ミョルニル!」


 フォルは鎧の隙間に手を突っ込み、またもや道具を出した。

 赤と青のカスタネット。先ほどのと全く同じ。いや赤い部分が少々ピンク寄りやもしれぬ。


(つち)ではなくカスタネットであろう?」

「ミョルニルですの!」


 フォルがミョルニルを投げてきた。

 的確に我の目を狙っている。我は上体を逸らせ、カスタネッ……ミョルニルを避ける。


 ……その時。我は気付いた。


「がんばれーっス。勝ってくだシャス。邪神さーん」


 などと当初より若干やる気が無くなっているが、相変わらず我を応援している魔王ヨッピー。

 そのヨッピーに、投擲(とうてき)されたミョルニルの軌道が重なっているではないか。


 いかん、このままではヨッピーは確実に死ぬ。

 そうなると中途半端な状態でレンタル召喚契約が打ち切りとなり、神を殺すという目的も果たせなくなる。


 我は慌てて念動力でミョルニルの勢いを殺し、空中停止させた。

 が、慌てていたので少し力を入れすぎた。

 ミョルニルが砕ける。小石サイズの欠片が、投擲の勢いを多少残したまま前進。


「うぐえー!?」


 ヨッピーの頭に激突した。ヨッピーは吹き飛び、死にこそしなかったが昏倒。気絶してしまう。


「おい危ないぞフォル。我の依頼人が気を失ったではないか」

「知りませんの! お兄様ったら、またお仕事のことを気になさって。レディの前で無粋ですことよ」


 フォルはいつの間にか三個目のカスタネットを手にしている。 


 そしてまたフォルが突き、我が避ける。そんなルーチンが再開。

 反撃したら確実に殺してしまうため、もうフォルが満足するか疲労が溜まるかするまで、このルーチンを続けるしか道は無い。

 我は覚悟を決めて、とにかく避けまくることにした。


『……あのー、先王陛下ー』

「むっ、なんだ?」


 回避に専念していると、魔界から様子を伺っている鑑定係が話しかけてきた。


「すまんが今、我は避けるのに忙しい」

『はいー、知ってまーす。でもー、なんかー、そっちに変なの(・・・)が来ようとしてますけどー? まあ陛下なら、問題ないかー』



 刹那。

 巨大な光の柱が発生し、空と地上を繋いだ。




「”真祖・降臨”……!」




 辺りが金色に輝き、謎の声が響く。


「やれやれ……魔王ヨッピーが気絶してくれて助かりました。村人たちはとっくに遠くへ逃げたし、ようやくここに『この世界の住民』がいなくなった。これで私の姿を見るのは、『異界の悪魔』どもだけ……やれやれ。神たるもの、簡単に民へ姿を見せるのは宜しくありませんからねぇ……」


 光の柱から、謎の男が現れた。

 しかし我は今フォルの相手で精一杯。知らないオジサンに気を回している暇はない。


「家族なのですから、お兄様はもっとフォルのことを理解してくださいまし! わたくし、もっと遊びたいんですの!」

「そうか。それは分かったから、魔界に帰れ」

「分かってませんのーー!」


 ふーむ。我の言い方が不味くて、フォルを逆なでしているような気がする。

 だが口下手は生来の性格なので仕方ない。


 そして知らないオジサンは、


「やれやれ。私はなんて運が悪い神なんだ……せっかく世界の管理を任されたのに……ヨッピーなるチンピラの親玉が、魔王の真似事なんて始めるし……まあそれも自然の営みの一つかもなと放置してたら、異世界から勇者気取りの子供が来て暴れるし……まあ民は勇者を『神の遣いである』と勘違いして、勝手に私への信仰心を上げていたから放置してたけど……」


 と、何やらブツブツ言っている。

 しかし何度も言うが我は今、知らないオジサンどころではない。


「やれやれ。しかしまさか勇者が、魔界の悪魔だったとはねぇ……しかも本物の魔王メシュトロイオンまで連れて来て……やれやれ。もう収拾が付きませんよ……やれやれ」


 オジサンが長々と呟いているが、我の耳には殆ど入ってこなかった。

 やたら『やれやれ』という感動詞を使っている事しか分からぬ。


「やれやれ。これはもう私が動かないといけないでしょう……ということで、ここへ直々に降臨してきたのですが……」

「お兄様のいぢわる! いぢわるいぢわるいぢわる! 怖い顔! 目付き悪い! 肌も青白すぎですの!」

「怖い顔ではない」

「怖い顔ですのー!」


 親戚の子に言われると、本気で傷つくからやめろ。


「いや、あの……あの。聞いてますか。神である私が、直々にあなた方を退治しに来たのですが」

「お兄様は怖い顔ー! やーいやーい。怖いかおーですのー!」

「怖くない」

「あの……あのー……?」


 子供らしく囃し立てるフォル。そろそろ我の心も挫けるぞ。

 などと思っていたら、


「あのー!」


 突然謎のオジサンが語気を荒げ、我らに近づいてきた。


「あの。聞いてますか……!?」

「何ですの!? 今忙しいんですの!」


 話しかけてきたオジサンに対し、フォルは「あっちへ行っててくださいまし、知らないオジサン!」と言って右手で押した。

 その右手の平にはカスタネット。

 つまり、


「えっ、あ待って……うぶあぁぁぁああああッッッゥ」


 フォルの攻撃が、やれやれオジサンにクリーンヒットしてしまった。


 オジサンの肩から腹にかけて、大きな穴が開く。

 ただの穴ではなく、フォルの増幅した魔力が込められた傷だ。瘴気に満ちている。

 これはもうどうやっても助からぬな。


 このやれやれオジサン。自分を神だ何だのと言っていた気がするが、我はよく聞いていなかった。

 こうなると少し気の毒だ。もうちょっと耳を傾けてやれば良かったな。




「……いや待て。『神』だと?」




「やれ、やれ……私の神生(じんせい)……こんな、もん……ですか……ガクリ」


 やれやれオジサンは死んだ。

 死体に残っている魔力をよく観察してみると……確かにこのオジサンは、神だった。


 えーと……


 とりあえず、この世界の神は死んだ。

 当初の目的は達成出来た……のか?



「隙あり、ですの! お兄様お覚悟!」

「……ふむ。何にせよ、一番厄介なことが残っているな……」



 それからフォルは、どこに隠していたのか一万個ものカスタネットを使い攻撃してきた。

 カスタネットだけではない。途中で原点に戻ってピアノ……は館と一緒に大破したので、代わりにピアニカを弾いたり。ソプラノリコーダーやタンバリンや木魚なども適宜使ってくる。

 意外とバリュエーション豊かだな。


 そしてフォルが疲れ果て倒れるまで、実に二十日間も戦い続けた。

 流石の我も疲れ果てた。というか腹が減った。

 オヤツを食べたい。


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