20話:ロボットだけど女の子だから
我が格好良いポーズに気を取られていると、
「無敵ロボちゃん。きみはどうして女神なんかの言う事に従うんだい?」
とマートが超無敵ロボに話しかけた。
男のマートは、我が直々に後任へ推薦するほど魔王としての素質が高い。つまり「戦い前のソレっぽい無駄話」が好きなのだ。
「女神マジメガミデス様ハ、機械の体ヲ与えてくれましタ。私は女神様のおかげで全てノ悩みから解放されタのでス」
「悩みってのは『男として育てられた』ことかな。でもそれも元を辿れば女神のせいだよね」
「女神様が与えたノハ試練。悩みを持ったのハ、私の弱い精神のせいでス」
「なんでも自分のせいにしていると心の病気になるよ」
というか爺さんの話によると、実際心の病気になりかけていたらしいがな。
「女神様ハ私たちのタメに試練を与え、見守ってくれるのデス。ピピピピ」
「そうなんだ。それはお優しいことだね」
「優しい、という表現は適切ではありまセン。女神様には厳しさも優しさも存在しまセン。全ては世界を守護する礎なのデス」
世界を守るために巨大ロボを作ったのか。
そう言われると理にかなっているような気がしないでもないな。
ただどうせおそらくは、単なる神の遊びだと思う。
「それで? ロボ子ちゃんが村人たちをイジメてるのも、世界を守護するために女神からの命令でやってるのかな? それともロボ子ちゃんの独断……なんてハズはないよね。全ての悩みから解放されたのなら、村人に八つ当たりする必要もないだろうし」
「ピピッ……」
マートの言葉に超無敵ロボは言葉を失い、電子音だけをピピピピ鳴らしていたが、
「……あなたにハ……」
数秒の沈黙を経て、なんとか口を開く。
口は無いのだがな。
「あなたにハ分からないでしょウ……男でもない。女でもない。そんな半端者の気持ちガ……」
「ロボ子ちゃんが半端者ってことと、村人をイジメる事に何の関係があるんだい?」
「……あなたにハ、分からない」
超無敵ロボは質問には答えなかった。そもそも答えられなかったのか。
マートはロボの内心を見透かしているように笑いながら、高く飛び上がった。
魔法を使い、巨大な超無敵ロボの眼前で浮く。こうして比べると、ロボの目パーツはマートの全身と同程度のサイズ。本当に巨大なロボだ。
「ピピッ」
ロボは攻撃されると思ったのか、「シャキーン!」といちいち格好良い金属音を出して腕を構えた。
しかしマートが放ったのは攻撃ではなく、ただの言葉。
「分かるさ」
マートは一瞬だけまぶたを固く閉じる。
髪が伸び、身長が縮み、四肢と腰が細くなり、胸が重くなった。
文字通りまばたきする間に、女の姿へ変貌したのだ。
「ピピピ……あ、あなた女ニ……?」
超無敵ロボは表情こそ分からぬが、驚いているようだ。
「この僕も、男でも女でもない存在なのさ。だからロボ子ちゃんの気持ちはちょっと分かるよ。ね♡」
そう言って、長い髪をかき上げた。
今日のマートはいつもより更に饒舌な気がする……自身とどこか似てなくもない境遇である巨大ロボに、憐憫の情でも湧いたのだろうか?
いいやまさか。悪魔であるマートが他人に同情心を抱くはずは無い。
「……やっぱリ違いマス。あなたは男の姿ト女の姿を入れ替えられるのでしょウ。私は男の姿ダケ……」
「違わないね。きみも女の姿になれば良かったのさ」
「無理デス。女神様を裏切る事コトニ──」
「ならば鉄の体が錆付いて朽ちるするまで、自分の気持ちを裏切り続ければいいよ♡」
マートは浮いたまま移動し、超無敵ロボの巨大な右肩に座った。
ロボの耳(耳があるのかは分からない)へ、優しく諭すように囁く。
「きみは男なのかい? 女なのかい? ただの機械なのかい?」
「私ハ……」
超無敵ロボ・ダイオードVは言葉を紡ぐのを躊躇していたが……意を決したように叫ぶ。
「私ハ……私ハ、女……私ハ、男じゃない。ロボットでもない! 私ハ、女! 私は女デス! 私は本当は女なのよ!」
超無敵ロボの悲しき主張。
その気の毒な告白に対しマートは、
「そっか。女なんだ」
と、満面の笑みで応えた。
ただしあの笑みには、一片の慈悲も含まれていない。
「女なら、容赦しなくていいよねえ♡」
女のマートは、とにかく女が嫌いなのである。
マートは座っている超無敵ロボの肩を右拳で軽くノックするように叩いた。刹那、ロボの右腕が肩からもげ崩壊する。
「ぴ、ぴ……ピピピ!?」
「きみは女じゃない。機械だよ。どう見ても醜い機械じゃないか♡」
「ピピ……う、裏切ったナ……!」
「僕が? 何を裏切ったのさ?」
マートは心底楽しそうな顔で、地面に降り立った。
「ピピピピピピピ……やはり、排除スル!」
超巨大ロボの目が赤い光を放った。
空気が淀む。
ロボの顔に、尋常ではない魔力が溜まっている……あれは……
「ヴィクトリィィィィィイイイ! レーザーァァアアアアア!」
光の太い線がマート目掛けて放出された。
レーザー砲だと? このロボ、どこまで格好良いんだ。
レーザーに込められた魔力の大きさ。威力。とてつもない強さだ。
流石は最上級神が作った玩具だけのことはある。もし直撃したならば我やマートでさえも……
「痛いだろうな。それも三日は続くほどの痛さだ」
我は魔術で防御壁を作り、レーザーを跳ね返した。
レーザーは真っ直ぐ反射し、元の発射口つまり巨大ロボの顔に当たる。
「ピピピピピピ!? ヴィクトリイイイイイイイイ!」
ロボは自爆──と言っていいのかは分からぬが、とにかく上半身が爆発した。
爆破煙が収まると、顔が無くなった巨大ロボの姿。
しばらく仁王立ちしていたが、ついには倒壊し地鳴りと砂埃を立て……もう一度、轟音を響かせ爆発した。
あっけないが、これで召喚術師の願いは叶えた。仕事は完了だ。
「平気かマート」
「うん♡ 僕は平気さ。というかあの程度、助けて貰うまでもなかったけど……でもありがとう兄上。大好きだよ♡」
マートは我に抱き着き、わざとらしく胸を押し付けてきた。
「とにかくこれで『神への嫌がらせ』は終わったね。帰ろうか兄上♡」
「我の目的は嫌がらせではないが……だが終わったのは確かだな。帰る前に召喚術師に一報を入れ……」
ふと我は、ロボの最後の爆発跡地を見た。
爆風と砂埃が徐々におさまり景色が鮮明になると……巨大なロボットの姿が忽然と消えていることに気付く。
「……あれを見ろマート」
ロボの残骸が倒れているべき場所に、全裸の女が一人倒れている。
もしや、あれは超無敵ロボになる前の……
「元の村人であろうか?」
「そうみたいだね。爆発の最中、神が与えていた力を全部みみっちく回収しちゃったのかな? ケチで安っぽい女神だね♡」
マートの言葉は、どこかで聞いているであろう神へ向けている。
「そうだな」
我は相槌を打ちながら、倒れている女を眺めてみた。
死んでいるのか、生きているのか。どちらにせよもう戦闘能力はなさそうだ。
「でも彼女、確かに美形だけど……美男子ではなくどう見ても『女の顔』だよね。体型もさ」
マートは元ロボ女を冷ややかな目で観察し、我にそう言った。
「確かに女にしか見えぬな」
「男装していたとしても、あの小さくて貧乏な村で、体のラインを隠せるような衣装とメイクを毎日用意できたとは思えないね。幼少期ならともかく、大人になっても村人たちがあれを男だと思っていたってのは、ちょっと無理があるね」
なるほどマートの考えはもっともだ。
どうして村人たちは、あの女が成長した後でも『男である』と勘違いし続けていたのだろうか?
「うむ。そうだな。我が鋭い考察をするに、きっと村人たちは馬鹿なのだろう」
「……ふふっ。かもね」
我の意見を聞き、マートは小さく笑った。
「僕の考えはこうさ。きっと本当は村の皆も、最初から『女だ』ってことは知ってたんじゃないかな。でも見て見ぬフリをしていた。何故なら『女神の啓示』だって事も知っていたから……つまり」
「つまり、馬鹿なのだろう?」
我がそう言うと、マートは小さく頷いた。
「そうだね。バカなのさ」
超無敵ロボ・ダイオードV編、おしまいです。
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