167話:悪魔だから瞳は濁っているはずだ
「これは失礼しました! ちょーっとテンションが上がり、可愛い大声を出してしまいました! おや、どうしてテンションアップしたのか聞きたいって顔してますね!」
「していない」
「ええ! ええ分かっていますよ説明しましょう!」
全然分かっていない。というか我の話をまったく聞いていない。失礼極まりない少女だが、まあ神なんてそんなものだ。
ピンク少女神は映像会議型テレパシーの向こう側で腕を組み、胸を張って何故か得意気な顔になっている。
「実はあたくしことピンクプリンセスゴッド様は、あなたもご存じの通り、天界の最高大臣職である”新・三十大神長”の一席に可愛い枠担当として就きましたあああ! と、同時に! 天界天使派遣サービス局の局長も兼任することになったのです! 人員不足でして!」
「そうか」
以前の天界では『一大神長』という制度のせいで権力集中が起きた。
その反省を活かし『三十大神長』という制度を作り、更にその下に百何十人かの副神長を置き、更にその下に数千人の神課長を置く、となったらしいのだが……そのせいで人員不足になったようだな。
極端なのだ。神はバランス感覚が無い。まあ我には関係無いからどうでも良いが。
ピンク少女神は話を続ける。
「賢く可愛いあたくしは、組織の運営効率化のため”プレジデント緊急通信”という新制度を作ったのですよ! 要するに! プレジデントの認可や命令が必要となるレベルの”重大案件”や”緊急事態”発生時に、直属の上司を通り越して最初からあたくしへ”報告ゥ!連絡ゥ!相談ンーっ!出来るシステムです! そして今回の犬天使マメシバ・ジャクソンさんからのプレジデント通信が、なんと、制度発足後の記念すべき第一号通信だったという訳です! あたくしのテンションも上がるというものでしょう! わかりましたか! わかりましたね!」
「分かったから声量を押さえてくれ」
と文句を言ったが、しかし相手は神。声量を抑える配慮などは当然やらなかった。
「記念に詩の朗読でもしましょうか!? あたくしの自慢の可愛い声で!」
「やらなくて良い」
「コホン! あああーーあああああコホホン! では行きます! おれはかまきり かまきりりゅうじ おう なつだぜ おれはげんきだぜ」
勝手に朗読を始めてしまった。
今までの話から察するに、つまり犬天使のマメシバくんが『元魔王かつ天界の協力者(建前)である我に遭遇した』ことが、プレジデント通信とやらの定義する緊急事態だったという訳か。
「わん」
「おっと、そうそう、お仕事中でしたね! それではマメシバ・ジャクソンさん! ホウレンソウをどうぞです!」
マメシバくんの鳴き声のおかげでピンク少女は朗読を中断し、ようやく本題に入った。
◇
「はい確かにそうですその通り! このメシュトロイオンさんは元魔王ですが、今現在は可愛いあたくしのお友達です!」
「ほ、ホントに神様の友達だったんですか……ご、ご、ごめんなさい!」
爆発女が深く頭を下げた。
これで我と鑑定係は、爆発女の『悪魔祓い』としてのターゲットから外されたようである。
知り合いに神がいるというのも、たまには役立つではないか。
「で、でも、こんなに目付きが怖い悪魔が、神様の……」
「我の目付きは怖くない」
「そうですね! あたくしのお友達にしては、確かに目付きが怖いです!」
「怖くない」
「しかし、ほら見てください! 瞳は澄んでいるように見えなくもないでしょう!」
「いや待て。我の瞳は怖くな……いや、澄んで……ふむ……?」
むう。目付きは怖くないが、「澄んだ瞳」と評されるのも喜ばしくない気がする。
我は悪魔であるからして、死体のように濁りきった眼であるはずだ。
そんな複雑な感情を抱いている間も、
「わ、私はまだ悪魔祓いになったばかりだから、悪魔にも色んな種類がいるって知らなくて、だから、その……ごめんなさい……えっと、だって」
爆発女は目を泳がせながら言い訳を続けていた。
我としては別に謝罪とかいらないから、もうそろそろ黙って帰って欲しい所なのだがな。
「だって、私が悪魔祓いになった理由の……あの悪魔と、同じ種類の悪魔に見えたから、その、倒さないとって思いつめちゃって……ごめんなさい」
あの悪魔……とは一体誰か。
そう言えば先程この女は、「悪魔が社会を混乱に陥れている今~」云々ほざいていた。
察するにこの地球では今、どこぞの世界からやってきた悪魔によるイタズラが流行っているようだな。
しかしその悪魔は根性がある、とも思う。
現在は魔王組合も天界も『地球には手を出さない』という方針になっている。そんな状況の中で地球へちょっかいを出すと、当然すごく怒られる。それを承知でやっているのならば相当根性のある悪魔であろう。
見習いたくは無いがな。怒られるから。
と考えつつも、我は爆発女に「あの悪魔とはどの悪魔だ?」などと聞こうとはしなかった。根性に感心こそすれど、わざわざ首を突っ込む程の興味は沸かなかったからである。
鑑定係などは我の後ろで、つまらなさそうに髪の毛先を弄っている。我も悪魔祓いやら神やらとはさっさと別れ、目的の喉飴を探しに行きたい。
しかし──
「ほほほう! ”あの悪魔”とは一体全体どういうことですか!?」
「あ、はい。それはですね」
神は空気を読まない。
ピンク少女が余計にも、爆発女へ事情を聴いてしまった。
我はもうこやつらを無視して去ろうかとも思った。が、今や天界のお偉いさんであるピンク少女に挨拶もせず無言で帰るのは、外交上あまり宜しくない気がする。
じゃあ帰るから。さらば。と自然に発言できるタイミングを見計らいつつ、一応爆発女の話に耳を傾けることにした。
「あの、えっと、二週間くらい前でしょうか……ここ渋谷に、悪魔を崇拝する新興宗教が現れたんです」
「ほほー! でもそんなもの珍しくはないでしょう! あたくしは神ですから少々残念ではありますが、しかし地球では信仰の自由が認められていると聞いています!」
「あ、はい。た、確かにそうなんです。か、神様の言う通り、地球人は愚かで即物的で快楽主義だから、汚らわしいドブネズミいやむしろドブそのものみたいな悪魔に憧れちゃう、馬鹿で無能な所がありますけど……」
「あたくし、そこまでは言ってませんよ!」
誰がドブだ。
「ご、ごめんなさい……で、でも、その新興宗教は本当に、本物の悪魔を崇めているんです。信者の人たちが悪魔の力を使って……」
「とんでもない悪事を働いている、という事ですね!?」
「は、はい……悪魔の千里眼で、お釣りが残っている自販機の位置を察知してネコババしまくったり……パチンコで勝手に釘を曲げたり……」
ケチな悪事ばかりではないか。
「だから怒ったパチンコ屋さんの店長が、元悪魔祓いの家系である私の一族に『悪魔を倒してくれ』って依頼してきたんです……で、でも親戚の皆は普通に働いてるから、フリーターの私にお鉢が回ってきて……は、働いてなくてごめんなさい。で、でも私、会社とかに出勤するだけで気力を使い切っちゃうから……ホント頑張ったんですけど、でも正直働きたくないっていうか……フリーターって言いましたけど、最後にバイトしたのも半年くらい前に一日だけで……」
途中から関係無い話になっているぞ。
「なるほど分かりました! しかし敵が悪魔なら、犬天使マメシバ・ジャクソンさんには荷が重いかもしれませんね!」
「わん」
「そ、そうなんですかぁ? どうしよう。私、ひいお爺ちゃんから習った天使招来の技しか使えないのにぃ……それ以外は何も出来ないのにぃ……」
よくそれで悪魔祓いを名乗れたものだ。
我はそんな事を考えつつ、「ではそういう訳で。さらば」と発言するタイミングを見計らい続けていた。
「ふむふむ! そうなんですねえ……ん? あ! おおおおお!」
ピンク少女神が画面越しに爆発女を指差し、突然甲高い声で叫んだ。
あまりの高い声に耳がキーンとなる。
「ひい!? ど、どうしたんですか神様、急に叫んで……」
「はい! なああああああんと! あたくし、良い考えを思いつきましたよ! 流石あたくし、大宇宙的に可愛くてスマートで、すっごく良い考えですよ!」
何やら解決法を思いついたらしい。
ふむ。ならばもう我の出番は無いだろう。ちょうど良いタイミングだ。
「そうか。じゃあ後はその良い考えとやらで頑張ってくれ。ではさらば──」
と、我はここぞとばかりに念願の『さよなら発言』をした。
のだが──
「悪魔には悪魔です! 天使でなく、悪魔を召喚すれば良いのですよ! ちょうどそこにいる、あたくしの友人メシュトロイオンさんを!」
………………なんだと?




