124話:タイムトラベルは可能?不可能?気になる費用は?調べてみました!わかりませんでした!いかがでしたか?
知らない間に親戚の子供が実業家になっていたり、ひきこもりの妹が就職していたり。かと思っていたら、解読法が分からない未来予知の絵を貰ったり。
そんな特殊な出来事があっても、それはそれとして、日々の仕事は普通にこなさなければならない。
本日も我はいつものように、レンタル召喚斡旋所へと出社。
するとこれまたいつものように、ゴシックドレス姿の鑑定係が、長い銀髪を床に引きずりながら近づいてきた。
「メッシュ陛下ー、おはよーございまーす。でー、さっそくですけどー、超絶特(SSS)級来てるんでお願いしまーす」
「了解した。しかしまたSSS級か、最近多いな」
「商売はんじょーで良いじゃないですかー」
「それもそうだな」
別に文句がある訳では無い。
しかし気になることはある。
レンタル召喚は一期一会。
何度も同じ召喚獣を呼び出すことは、本来ならば不可能。
しかしこの魔界のSSS級召喚は、今や実質的に我の専属案件となっている。
つまりSSS級召喚術師ならば、二度も三度も四度も五度も、何度も我を呼び出すことが可能になっているのだ。
現にヨッピーは二度、我を呼び出したからな。
この状況は、大昔にチャラ男ボケ魔王くんこと祖父殿が考案した、レンタル召喚の精神に反する……気がするような、しないような。
なんて気にしても仕方ないか。
そもそも祖父殿がどのような真意でレンタル召喚を考案したのか、今となっては知りようが無いのだ。
何しろ十万年以上前の話だからな。
あんまり小難しいことを考えると腹も減ってしまう。
我は頭を空っぽにして、召喚獣の仕事を全うすることにした。
◇
「私はファイナル宇宙サイボーグだよ。さあ召喚獣くん、ファイナル宇宙サイボーグの願いを叶えるんだよ」
「……ロボット?」
我を召喚したのはロボットであった。
手足が二本ずつあり、シルエットは人間──我ら悪魔族に似ている。
しかし全身金属製だ。動くたびに小さなモーター音が聞こえている。
つい最近もロボットを見たような気がするが……まあ良いか。
ここまで人間に近いロボットに会うのは初めてだしな。
「ロボットじゃない、サイボーグ。私はファイナル宇宙サイボーグだよ」
「違いが分からぬ」
「ロボットは機械100%。サイボーグは生命体の一部を機械に改造したモノだよ。そしてファイナル宇宙サイボーグは脳ミソ以外全部機械なんだよ」
「ほう。それはまた思い切った改造を施したものだな」
とにかく今回の召喚術師は、このサイボーグという訳か。
「私はその名の通り、宇宙のように凄いサイボーグだよ。かつラストサムライみたいな感じで、サイボーグの最後の生き残り、ファイナルサイボーグだよ。って設定だよ。宇宙技術で作られた宇宙基盤を搭載してて、あとよくSNSで宇宙凄いとか書き込んでるよ」
「なるほど」
いや言っている意味は全然理解出来なかったのだが、しかし大体どのような召喚術師かは分かった。
脳は生身とのことで、そこから魔力と生命力を感じ取ることが出来る。
SSS級召喚術師なだけあり、確かに強い力を感じる。それが宇宙のように凄いのかどうかは分からぬがな。
「それでその宇宙サイボーグが、何の願いがあり我を召喚したのだ?」
「それはね」
サイボーグはモーター音を立てながら人差し指を一本立て、「説明しよう」的なポーズを取った。
「ファイナル宇宙サイボーグは知的好奇心もファイナル宇宙並なんだよ。だから、色々な異界の情報をかき集めるのが趣味なんだよ。ところで人類の永遠の憧れと言えばタイムトラベルだよね。召喚獣くんもタイムトラベルには興味あるよね?」
「別に無いな」
「だよね。興味あるよね」
こいつ、人の話を聞いていないな。
「だからファイナル宇宙サイボーグが調査したんだよ。タイトルは『タイムトラベルは可能?不可能?気になる費用は?彼女は?年収は?調べてみました!』だよ。調べてみました結果、ザックリ言うと、タイムトラベルは不可能ということが分かりました! いかがでしたか?」
急にまくし立てられ、頭が混乱してきたぞ。
「いかがかと聞かれてもな。不可能だったのか、それは残念だったな。としか言えぬ」
「だよね残念だよね。だからファイナル宇宙サイボーグはまた調査したんだよ。タイトルは『タイムトラベルの代替手段はある?ない?気になる方法は?熱愛の噂は?学歴は?調べてみました!』だよ」
「ふむ。どうでも良いがその『調べてみました!』だのという定型句は何だ」
「結論をザックリ言うと、代替手段はありました!」
むう。また話を聞いていない。
「説明するんだよ。①宇宙には龍穴や宇宙脈などと呼ばれる神秘的な宇宙パワーが宿っています。②その宇宙パワーには宇宙創造の時代から延々と『過去の記憶』が刻まれて続けています。③その過去の記憶を抽出し閲覧、または追体験できる宇宙呪法があります。④その宇宙呪法を使います。おわり。いかがでしたか?」
「ほう……?」
時間を巻き戻すことは不可能だが、過去を覗き見ることは可能と言う訳か。
我も初めて聞く話である。
時間旅行に特別興味の無かった我であるが、その呪法とやらには少々興味を持った。
「でもこの宇宙呪法を使うには、とんでもないエネルギーが必要なんだよ。このファイナル宇宙サイボーグのエネルギーだけでは足りないんだよ」
「それでエネルギー……魔力を召喚獣から調達するため、我を呼び出したのか?」
「そうなんだよ。召喚獣の力を借りて過去を覗くことが出来れば、ファイナル宇宙ワクワク感がいっぱいいっぱいになるんだよ」
つまり知的好奇心を満たすのが目的か。
「良いだろう、魔力を与えてやる。我もその呪法を試してみたいからな」
「話が早いんだよ。宇宙呪法はプログラムとしてファイナル宇宙サイボーグの宇宙コマンドプロンプトに打ち込まれているから、後は魔力を貰うだけなんだよ」
そう言って宇宙サイボーグは手を差し出してきた。
我はその手を握る。金属製でひんやりしている。
こうして握手をした状態で、我はサイボーグの体内へ魔力を注入した。
◇
気付くと、我は人形になっていた。
唐突で申し訳ないが、本当に人形になっていたので仕方が無い。
動けないし喋れない。
それでどうして『自分が人形になっている』と分かったのか、と言うと、
「これオレ様をモデルにした人形ちゃんなんだよね。ねえ可愛いでしょ可愛いでしょ~? 欲しいならあげちゃうよっ」
と、我を持ち上げている男が説明したからである。
今の我は人形。付いている目や耳も無機物……であるはずなのだが、不思議な事にその目と耳で周囲の状況を把握出来ている。
もしやこれは『宇宙呪法』の効果なのだろうか?
宇宙に刻まれし過去の記憶とやらを、人形の体を通して追体験しているのか。
アバターが人形なのは解せぬが。
ここは何処の、何年前の記憶なのであろうか?
とにかく、しばらくは人形として様子を伺ってみるとしよう。
人形の持ち主である男は、一人の女性に向かって話し掛けている。
「え? 人形いらないの? そっかー。じゃあさ、ちょっと一緒にお茶でも飲もうよ」
「えー……『じゃあさ』の意味が分かんない」
「ねえお茶くらい良いじゃん? オレ様、キミに一目惚れしちゃったみたい。デートしてよデート。絶対楽しいからさあ」
「お断りです」
簡単に言うと、この男はナンパをしているのだ。
なんだこの記憶は。
我は一体何を見せられているのだ。
「冷たいこと言わないでさ。ちょっとで良いから」
「しつこい!」
「ね。ね。ほら。この人形をもう一度見てよ」
男は人形──つまり我の髪の毛を摘み、女性の目の前でぶらぶらと揺らした。
「もう! いい加減にしてよ!」
と、ついに女性は怒りだしたのだが、
「さっさと私の前から消え……き……………………」
突然、目が虚ろになり黙り込んだ。
そして数秒後。
「…………あれ? 私、何やってたんだっけ?」
と首を傾げ、ぶつぶつと呟きながら去っていった。
ナンパ男はその様子を見ながら、
「人体実験成~功~っと」
と、楽しそうに呟いた。
なるほど。この男は忘却魔法を使い、女性の数分間の記憶を消去したのだ。
それも我が見た所、『催眠術で記憶を封印する』と云ったありきたりな技では無い。
物理的に、脳から記憶の痕跡を完全に消し去ってしまう魔法だ。
これは非常に難易度の高い魔法である。
高度な魔術研究。熟練の技術。膨大な魔力。それら全てが揃って初めて可能となる魔法。
ただ最終的な結果は催眠術とあまり変わりないので、実用的では無いな。
この男、最初から忘却魔法の実験が目的で女性に近づいたのか。
それともナンパに失敗したので、悔し紛れに実験台にしてしまったのか。
どちらなのかは分からぬが……
「流石はオレ様。超天才。宇宙最強! フラれたけど全然悔しくないもんねー。ホントだよー。ねっ、オレ様人形ちゃん♡」
そう言って、我──人形と顔を合わせ、口の端を大きく歪めた。
そこで我は初めて男の顔を見て、ようやく気付いた。
闇のように黒い髪。黒い瞳。
全ての者を見下しているような、大胆不敵な笑み。
城の肖像画で何度も見た顔だ。
チャラ男ボケ魔王くん。もとい、我の祖父。
初代魔王、ルキフェロイオンである。




