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119話:スーパーかわいい人ゴッドスーパーかわいい人

「今のあたくしはスーパーかわいい人ゴッド……そして!」


 ピンク少女はキャンディーを持っていない左手の人差し指で己の頬を差し、にこりと笑った。


「見てくださいこの笑窪! このスマイル! あたくしはスーパーかわいい人ゴッドの気を纏ったまま、更にスーパーかわいい人になりました! つまり、スーパーかわいい人ゴッドスーパーかわいい人です! わかりますか!?」


 まったくわからん。

 しかし隣でライライちゃんは「うんうん」と頷いているので、何かピンク的な人たちの間では通じる理論なのかもしれない。

 ちなみにこの会話中も、我らは空を飛びながらの追いかけっこを続けている。


「さあ、改めて自己紹介です! あたくしは”清廉可憐な桃色の使者”スーパーかわいい人ゴッドスーパーかわいい人・ピンクプリンセスゴッド様です! よろしくお願いいたします! てりゃあ!」

「長い」


 という我の指摘は聞かず、ピンク少女は自己紹介と同時に巨大ペロペロキャンディーを振り回しながら襲い掛かって来た。

 異様なまでに大きすぎるキャンディーなため、当然それを使った攻撃も大振りになる。にもかかわらず、かなりの速度が出ている。予想外の速さだ。

 我は少々驚きながらもキャンディーを避けた。


「むぅ……」

「あらぁん、メッシュちゃん! 血が出てるわよん! はいハンカチ」


 避けたつもりが、風圧により首の肉が裂けていた。

 噴き出した血をハンカチで拭く。ハンカチもピンク色である。


「避けるとは小癪です! でも、宇宙最強の魔王なんて言ってる割に案外脆いようですね! あたくしの攻撃はきちんと通じていますよ! あたくしが強すぎるしピンクだからでしょうか! でしょうね!」

「そうだな。ピンクは関係あるかどうか知らんが、貴様の強さは認めよう」


 この我の首を掻き切るとは。このピンク少女、スーパーかわいいひとなんとか……その長ったらしい名に恥じぬだけの実力は確かにあるようだ。

 まさか本当にキャンディを持つだけでパワーアップするとは思っていなかったが。


「かなりやる(・・)みたいねぇ、あの()

「うむ。こちらも『反撃無しで逃げるだけ』というのは少々難しくなってきたな……血が止まった。ハンカチは洗って返す」


 我は血に濡れたハンカチを折りたたみ、ポケットの中へ仕舞い込んだ。

 そして我ら二人は逃げながら、軽く今後の方針を打ち合わせすることにした。


「逃げるだけってのが難しいのなら、思い切って反撃しちゃう~ん?」


 と言ってライライちゃんは、左腕で気絶したヨッピーを抱えたまま、右腕を曲げ親指を立てた。ただそれだけの動きで筋肉が大きく隆起し躍動し、迫力満点である。


「そうだな。反撃も一つの手だが……しかし勢い余って殺してしまいそうだ。我の立場として今は神を殺したくはない」


 現魔王であるマートが「殺せ」と命令したのならば、責任を押し付けることも出来よう。

 だが今の我は単なる召喚獣としてこの世界に来ている。

 神を殺すとなると、我個人が重い責任を負うことになるのだ。

 それは嫌だ。凄く面倒臭いからな。


「そうよねぇ。今は神を殺したくないって意見には同意~。ワタシも魔王組合の研修指導員って立場上、あんまり問題を起こしたくないのよねぇ」

「それでは縛るなり手足を切るなりして、生かしたまま動けなくする方針で行くか」

決定(けってー)ねぇ~ん」


 打ち合わせはスムーズに終わった。

 空を飛んでいた我とライライちゃんは一旦逃げるのをやめ、地面に降り立った。

 そしてライライちゃんは、抱えていたヨッピーを大きな木の下に寝かせる。

 どうでも良いが、この世界は全てがピンク色。よってこの木もピンク色である。


「おや! 何やらゴチャゴチャ話していたようですが、ついに観念して逃げるのを諦めたようですね!」


 ピンク少女が我らに追いつき、頭上に浮かんだまま、偉そうに胸を張った。

 パンツ見えてるぞ。


「ああああああ! 今あたくしのパンツ見ましたね!? この不埒なロリコン変態悪魔め!」

「不可抗力で見えただけで、ロリコン変態悪魔ではない。というか貴様は5555歳なのだろう? 我より年上だぞ。子供みたいな姿ではあるが」

「誰が子供ですか! あたくしはもう大人です!」

「そうか。いや何を言っているんだ。貴様が自分自身を少女(ロリ)扱いしたのではないか」

「問答無用です! 成敗します! 喰らってお亡くなりになりなさい、神技”ピンキースラスト☆”です!」


 ピンク少女は技名を叫びながら、巨大ペロペロキャンディーを薙ぎ払った。すると鎌状の衝撃波が三つ発生。色はやはりピンクである。

 三つの鎌が我らを襲ってくる。

 それを避ける、あるいは撃ち落とすのは簡単なのだが……しかし三つ。『三つ』の鎌である。

 その内一つは、気絶して動けないヨッピーを狙っている。このままではヨッピーは確実に死に至るだろう。


「いかん」


 召喚術師であるヨッピーが殺されてしまっては困る。

 我は念動力を使い鎌を打ち消そうとした……が、スーパーかわいい何とかになったピンク少女の攻撃は、中々に強力である。

 如何に我と言えど、遠隔攻撃で打ち消すには少々『力を溜める』時間が必要そうだ。

 しかしそれでは間に合わない。


 仕方がない。

 気は進まないが……我はヨッピーの正面へ移動し、直接(・・)打ち消すことにした。

 鎌が接近するタイミングに合わせ、腕を振り下ろし──


「痛い」


 打ち消すことには成功した。

 しかし腕が斬り刻まれ、血がドクドクと出る。

 痛い。ホントに痛い。そして神の力の塊を身に受けたことでちょっと嫌な気持ちになった。


「むむむむ! 悪の化身メシュトロイオンらしからぬ献身的かつ犠牲的な行動ですね!? あ、いえ、今の『らしからぬ』という発言に差別的意図はありませんので!」


 ピンク少女は巨大キャンディーを左右に振りながら、己の発言の不備を訂正した。

 先程男女差別の件を散々追求したからな。軽いトラウマになっているようだ。


「その、えっと、ともかくです! あの(・・)魔王メシュトロイオンが、どうしてその可愛くないヒップホップの人を助けるのですか!? バンドでも組む気なんです!?」

「あらぁ~ん。バンドやるならライライちゃんも誘ってよぉん」

「バンドではない。我はレンタル召喚獣で、この男は召喚術師だから守ったのだ。それもヨッピーはこれでも召喚術師としては最上級。延長報酬が美味しいので死なれては困る」


 嘘を付いたり隠したりする理由も無いので、我は正直に答えてやった。

 一方ヨッピーは呑気に昼寝、もとい気絶したまま、


「ぐうぐう……ヒップホップファッションが廃れたら、次はパンツを腰までズリ下げたスタイルが流行るっスよ……いやいやジョークじゃなくて、これマジ予想っス。外れたらメガネ全部割っても良いっスよ……」


 などと、意味の分からぬ寝言を言っている。メガネなどかけていないクセにな。

 まあヨッピーはこのまま寝かせておこう。邪魔だし。


「……なるほど、レンタル召喚ですか!」


 ピンク少女は我の答えを聞き、頷いた。


「まさか本当にあの(・・)メシュトロイオンが、ホントのホントの本当に召喚獣になっていたとは……後輩のレイスの報告で知ってはいましたが、まさかまさかまさかです! 正直驚きましたよ!」


 どうやら天界でも我の転職は噂になっているようだな。

 それにしても、後輩のレイス……? 聞いたことがあるような気がする名だが、ううむ、忘れてしまった。

 どうでも良いか。


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