105話:召喚獣クーリングオフ
「労働者集会のリーダーを暗殺して、村長選を阻止するべ!」
との事らしい。
カマキリ社長たちが暗殺計画で盛り上がっているが、我はポッキーのアーモンドクラッシュ味の事を考えていた。
つまり話を聞いていないという意味だ。
何故ならば正直に言ってしまえば、昆虫人間の村一つが召喚術禁止になろうがなるまいが、魔界のレンタル事業には大した影響は無いからだ。
他の多くの世界でも召喚術は使われているし、そもそも禁止になったところで、どうせ隠れて召喚するに決まっている。それが人間というものだ。
「んで社長よぉ。暗殺は、どの召喚獣に任せるだ?」
「んだなあ。どうせならすんげぇ強いのにやらせるべ」
召喚術師である昆虫人間たちが相談している。
カマキリ社長は社長というだけあって、この場にいる召喚術師たちのリーダー役になっているようだ。
「今いる召喚獣の中で一番強いのが適役だべさ。一番は誰だっぺ?」
カマキリ社長がそう尋ねると、その場にいる十人ほどの召喚獣全員が一斉に我を見た。
プライドの高そうな女神レイスでさえも横目でちらりと我に視線を寄越す。
上の空であった我は、突然注目されて少しだけビックリしてしまったぞ。
「そりゃ……あ、そニャーもちろん一番強いのは、こちらのメシュトロイオンさんですニャー。とっても有名な悪魔なのですニャ」
コウモリ羽根とピンクのフリフリ首輪を付けている黒猫悪魔がそう言って、我の肩にぴょんと飛び乗った。
「は? どう考えても私の方が”強い”んですけど?」
レイスは刺々しい態度で我と黒猫を交互に睨み、
「まあ”暗殺”とか”面倒臭い”から、今はアンタが”強い”ってことにしといてやるわよ。”本当”は私の方が上だけど! ”勘違い”しないでよね!」
と、中指を立てている。
「おお~、オラが召喚したのは偶然そんな有名獣だったんべか。こりゃあ天啓だっぺ!」
社長は喜びながら、黒猫が乗っていない方の我の肩を叩いた。
で、ここまで話が進んで、我はようやく「自分が暗殺者に選ばれた」という事実に気付く。
「ちょっと待て。我は既に丸太を工房へ運べという願いを実行中だ。他の召喚獣達はどうだか知らぬが、我が務めている斡旋所のルールでは『一度のレンタル召喚で叶える願いは一つだけ』。暗殺は別の者に頼むんだな」
「じゃあ願いを変えるべ。まだ途中だったしクーリングオフ可能だべ? 一旦契約解除してやり直すべ」
「むう。クーリングオフに関しての規約は無いな……わざわざ調べるのも面倒だ。仕方が無い。一度くらいならば願いを変えてやっても良いが……」
しかし、ここまでずっと丸太を担いでいた意味が無くなってしまう。
我にとっては丸太の重さも爪楊枝の重さも変わらないが、それでもちょっと悲しいではないか。
「んじゃ暗殺頼むべ~」
我の内心の悲哀とは対照的に、社長は明るい声で願いを切り替えた。
こうして依頼内容が変更。我は用済みとなった丸太をその場に捨てた。もう丸太の面倒は絶対に見ないからな。
「でも問題はどうやって、あのなんちゃって自由主義ゲロ塗れリーダーの家に侵入するか、だべな」
「んだんだ。あいつんちにはいつもヤク中の馬鹿どもが何人もいて、バレずに忍び込むのは難しいべ」
昆虫人間たちがどんどん話を進めている。
別に忍び込まなくとも、我ならばリーダーどころか全ての自由主義者を一瞬で亡き者に出来るのだが。
しかしそれは提案しなかった。自由主義者を皆殺しにする、というフレーズがコンプライアンス的にあまり宜しくない気がしたからだ。
「そーだ。逆に堂々と玄関から入れば良いんだべ。反省したとか言って、お詫びの贈り物とか持ってよぉ」
「贈り物だっぺか。なるほどあいつら馬鹿で貧乏人だから、貰えるもんならゴミだろうと病気だろうとなんだって喜んで貰いそうだべさあ」
「んだんだ。大麻で脳みそスカスカスポンジになってっがらなあ」
悪口で盛り上がっている。
どうでもいいから早く終わらせて帰りたい。
我は社長たちの会話に割り込み、催促することにした。
「ならばその贈り物をどうするか、さっさと決めろ。ハムとかカルピスとか落雁か?」
「昆虫人間だからきっと、オガクズとか腐葉土だニャー」
黒猫が楽しそうに茶々を入れる。
社長は「早く決めろと言われても、こういうのって意外と難しいんだべ。うう~ん」と唸った。
「あっ、そういえばさっきの演説後のマリファナパーティで、自由主義うんこリーダーが『召喚獣は敵だけど、召喚獣同士の交尾とかなら見てみたいべ』なんて変態的なこと言ってたべよ」
「おお、それだべ! じゃあ贈り物は召喚獣の交尾ショーにすっぺさ!」
「んだー! んだー! それがいーべ!」
こやつらは下品という言葉を知らぬのか。
だが下ネタに関して、我はネア姉上の言動で慣れている。
ともかくそのセックスショーのための召喚獣を二人、そして暗殺者の我。合計三人の召喚獣で自由主義リーダーの家へ向かうという事か。
「んで。消去法で考えると交尾ショーをするのは、おめえさんとおめえさんだっぺなあ」
カマキリ社長はそう言いながら、我とレイスを交互に指差した。
「……む?」
「……”は”?」
「だから、あんたら二人だべ」
もう一度、カマキリ社長は我とレイスを交互に指差した。
突然の指名で呆気にとられたが、我らは少し時間を置きようやくカマキリ社長の言葉の意図を把握。
当然ながらレイスは怒りだす。
「……おいおいおいおいおい”おい”! なーんーで、私がこんな”馬鹿悪魔”と交尾ショーしないといけないっての!?」
「我は馬鹿悪魔では無い。しかしこの神の言う通り。理由が分からぬし、遠慮願いたいところだ」
「そうよそうよ! 殺すわよこの”虫”!」
脅しでなく、レイスは本当に今にもカマキリ社長を惨殺してしまいそうな勢いだ。
社長は若干怯えながら説明する。
「だ、だっでよぉ。今いる中で『見た目が同型の召喚獣』は、あんたら二人だけだべさ。交尾できんのは二人だけ」
「だから何よ! ”違う見た目”の”召喚獣”同士に交尾させれば良いでしょ!」
「え……異種姦とか引くべ……」
下品で最低な提案をする割に、そういう所では常識的なんだな。




